専門学校 ICSカレッジオブアーツ 河埜智子さん (ほか19名)
テーマ:災害時におけるインテリアデザインの役割

今回、東日本大震災を受けて、学内で出された災害時におけるデザイン提案を考える課題に取り組んだ学生の中から、A&A震災復興研究チームを結成しました。

研究チームで初めて取り組んだのは、気仙沼市役所のコミュニティスペースに置く、子供達のための遊具デザインです。気仙沼市役所は震災以降、ごく一部の窓口しか機能していませんでした。多くの窓口が閉められ、閑散とした市役所を、少しでも明るくできないかということで、我が校に遊具デザインと製作の依頼がありました。チームで話し合いながら製作した壁の中に木のボールを入れて遊ぶ遊具は、ボールがころがり落ちる時に壁の中に入れてある短冊にあたると、きれいな音が響き渡ります。子供達の遊んでいる姿のみならず、楽しげな音がコミュニティスペースに広がって、市役所全体が明るい雰囲気になることを願いました。

その後、研究活動のために被災地を見たいという思いから、遊具を寄贈した気仙沼市役所を訪問しました。訪問時の気仙沼市は、復興が進んでいるところがある一方で、手つかずで、がれきが残っているところもありました。市議会議員の方に震災当時の被害の状況や、今後の復興計画についてお話をうかがい、『復興屋台村』の見学や『五右衛門が原仮設住宅』をご紹介いただきました。『五右衛門が原仮設住宅』では、実際に住んでいる方々とお話しする機会をいただき、生活の中でのさまざまな問題を知りました。そこで、仮設住宅での暮らしを豊かにするために、インテリアデザインで解決できる事があるだろうと考えました。

現地のNPOの方の協力も得て、仮設住宅に暮らす30名の方々に「生活での不満や改善して欲しい点は何か」「仮設住宅で今後どのような生活をしたいか」を調査しました。その結果、プライバシー面、使い勝手、環境衛生面で不満を持つ人が多く、住民同士の交流を求める声が多い事もわかりました。

調査をもとに、インテリアデザインの観点で、共用部分で3つ、専有部分で2つの提案を考えました。これらのデザイン提案は、一般の方々にも見ていただこうと、それまでの活動とあわせて、世田谷区ものづくり学校で震災復興に関する展覧会を行いました。

この展覧会以降は、提案を3つに絞り、調査に協力して下さった『五右衛門が原仮設住宅』での実現を目指しています。 ひとつは、窓にカーテンが閉められ、寂しげな風景が広がっていた住棟間の通路に、ワークショップでつくったカラフルな自分専用の椅子を置いて、集まりやすい空間を創出する提案です。それぞれ5色ある3つのパーツから組み立てられる自分専用の椅子を、自由につくってもらい、使わない時には通路の棚にかけることで、人が居なくても棚に並んでいるカラフルな椅子で風景が華やいでくれることを期待しています。

次に、集会所に設置する収納ベンチの提案です。集会所は支援物資がダンボールに入ったまま積み上げられた状態でしたので、さまざまなものが収納できるよう3タイプの収納ベンチを考えました。さらに、ベンチの座面は座った時にたわむようにし、その復元力で高齢者が立ち上がりやすいように考えています。住民がベンチに腰掛け、集会所本来の憩いの場の風景が形成される事を期待しています。

専有部分では、四畳半を有効に使うことを考え、使わない時はコンパクトにまとめられ、収納機能も持った机と腰掛けを提案します。正座やあぐらという姿勢は、膝や腰への負担が大きく、少しの移動も高齢者にとってはかなりの労力が必要となります。床座から腰掛けに変えることで立ち上がる際の負担を少しでも減らせれば、部屋から出やすくなり、住民同士の交流のきっかけになることを期待しています。

これらの提案は『五右衛門が原仮設住宅』でプレゼンテーションし、住民の声の通った提案にしたいと考えています。この研究活動は継続予定で、3つの提案はさらなる改良を加え、来年度の実現を目指しています。

震災復興は現在も進行していますが、土木や建築のスケールでは国や行政も関わり、さまざまな申請、許可など、実現には時間がかかります。ですが、インテリアスケールでの取り組みは、被災者の方々と直接的なやりとりから実現可能です。限定的な範囲だからこそ、短時間で問題を解決できる強みもあります。この強みを生かして対応していくことが、インテリアデザインの役割であり、土木や建築では対応できない小さな事を、使い手とのやりとりを積み重ねながら解決していく事が、震災復興においてインテリアデザインの観点では重要であると考えています。