東京大学高齢社会総合研究機構のメンバーである建築学専攻建築計画研究室から遠野市に対し、津波被災住民のための仮設住宅とサポートセンターの基本設計、実施設計に関する提案があり、実現しました。岩手県盛岡市から沿岸部へ向かう、ほぼ真ん中に位置する遠野市。ここに高齢社会の研究をしている大学院生の冨安氏が震災後常駐しているとのことで、雪の降る遠野市を訪ねたのは、昨年12月20日。

その3ヶ月前の9月、岩手県陸前高田、大船戸、釜石を訪ねた折、崩壊した建物、津波に押し流された家々や車、家財道具など生活を一瞬にして奪う自然の猛威を見せつけられ、言葉を失いました。
盛岡市内へ戻る途中、目の奥にはまださっきの壮絶な光景が残っていましたが、景色が一変、遠野市の美しい山々の連なりを見たときには、思わず涙がこぼれました。大きな自然の懐に包まれた風景が心をなぐさめてくれました。

遠野市は民話の国としても広く知られるところですが、震災前から沿岸地域の避難場所として、仮設住宅(仮設のくらし)を受入るため、様々な取組みをしてきたそうです。遠野市は山に囲まれ、おいしい果物や野菜はあるが、海の幸は三陸の方々が運んでくれたとして、「地震があったら、避難場所として受け入れる」と し、海沿いに暮らす人々の仮設のくらしをサポートする体制が準備されていたようです。民話を生み出す土壌は自然に対する畏敬の念が深いのかもしれないと、 案内をしていただいた冨安さんの話しを聞きながら思いました。

仮設住宅にはお年寄りも多く、いろいろな地域の方々がくらしていますが、できるだけコミニティーがとれるように行政とボランティアが一体となって、さまざま なサポートが用意されていました。
すべての被災者の方がおなじ仮設住宅に住むことははむずかしいですが、民間の借り上げアパートに住む人にも、同じように サポートをする。というのを原則に、きめ細かな心配りがされていました。


今年4月、釜石の仮設住宅(200戸)と遠野市の仮設住宅(46戸)を再度訪ねました。釜石は、瓦礫がかたづけられ、倒壊した建物の撤去が進められ、仮設商店街にも人々が戻っていました。
仮設住宅には子供やお年寄りが集う場所もあり、また花屋さんや美容室もあり、仮設でのくらしも少しづつ日常にとけ込んでいるかに見えます。
みなさんが笑顔で声をかけ合う姿もみられました。また、仮設住宅の一角を利用した、子育て支援の輪もひろがり、互いに支え合う環境をつくりだしていました。
仮設住宅でのくらしの中に、都会が見失った互いにいたわりあう気持ちが、この場所で続くことを願っています。

(2012.6)
内田 和子
(取材協力:東京大学高齢社会総合研究機構          
東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 助教 岡本 和彦 氏 )