JDNレポート Vectorworks活用事例

MARU。architecture
高野 洋平 / 森田 祥子

JDN「ジャパンデザインネット」2021年12月3日掲載

JDNレポート Vectorworks活用事例

MARU。architecture
高野 洋平 / 森田 祥子

連載シリーズ「Vectorworks活用事例」では、設計に携わる方々にとって空間をつくる上で欠かせない設計ツール「Vectorworks」をどう工夫して使っているか、お話をうかがってきた。

今回フォーカスするのは、建築設計事務所「MARU。architecture(マル アーキテクチャー)」。自治体の大規模公共施設から集合住宅、個人住宅まで日本各地に多数の実績があり、2019年に竣工した松原市民松原図書館は、「日本空間デザイン賞2021」の公共生活・コミュニケーション空間部門で銅賞を受賞。地域と共存する公共施設のつくり手として注目を集めている。

建築設計を通じて、街に、社会に、自然に開かれた環境を生み出していきたいという同事務所。そんな思いがあるからこそ、建築物だけでなく、その周辺環境や人々が使用する情景をイメージしながら設計することを大切にしている。数値だけでは表現しきれない空間のあり方を伝えるためにも、Vectorworksは最適なツールとなっているようだ。常に周囲との調和を模索する共同主宰の高野洋平さんと森田祥子さんに、ひらかれた建築を具現化する方法をうかがった。

共存をテーマに、多様性を柔らかく包み込む空間を生み出す

まちづくりの核となる公共施設を中心に、二人三脚で挑む

「MARU。architecture」は、2010年に森田さんが立ち上げた建築設計事務所。2013年に高野さんが加わり、二人の共同主宰として改めてスタートした。もともとお二人とも前職から公共施設に携わることが多かったという。

森田祥子さん(以下、森田): 私はNASCAという設計事務所で小学校などの公共施設を担当していました。高野は、多くの公共施設を手がける佐藤総合計画に10年ほど在籍し、図書館の設計を経験していますし、『触発する図書館―空間が創造力を育てる』(青弓社2010年)という本も共著で出版しています。最近では、さまざまな自治体で集客力の強い図書館をまちづくりの核とするために建て直すことが増え、私たちが担当させていただくことがあるんです。

2019年11月に竣工した、土佐市複合文化施設「つなーで」(写真:KAI NAKAMURA)

共同主宰となってからは集合住宅や戸建住宅の設計やリノベーションを手がけていましたが、その間も公共施設のプロポーザルにはチャレンジを続けていたんです。

「MARU。architecture」としてはじめて受注した公共施設は、高知県土佐市の複合文化施設です。図書館や市民会館、公民館、社会福祉センター、商工会という5つの既存施設をあわせた、1万平米を超える大きな施設で、この仕事を契機に公共施設の設計に携わらせていただく機会が多くなりました。

高野洋平さん(以下、高野):高知県の案件は継続していて、いまは2024年に開館予定の南国市立図書館のプロジェクトに関わっています。そのほか、今年7月にプロポーザルで選んでいただいた静岡県伊東市でも図書館の設計が進行中です。

森田:ちなみに、事務所名の由来は「本当なの?」とよく聞かれますが、見ていただくとわかる通り二人とも丸顔で(笑)、顔がすごく丸いことから「MARU。architecture」という名前で活動しています。

地域の風土に馴染んだ、環境にも優しい公共図書館

2019年11月に大阪府松原市に竣工した松原市民松原図書館は、「MARU。architecture」として初めて取り組んだ公共図書館だ。ため池の環境を活かした親水空間にある建物は水の中に悠然と佇んでおり、街の風景に馴染んでいる。

2019年11月に竣工した、松原市民松原図書館(写真:KAI NAKAMURA)

高野:内陸地である松原市では昔から農業用のため池が重宝されていて、市内にため池が多く残っていました。近年はそれらを埋め立てて新しい施設が建設されています。今回もため池を埋め立てることを想定した、設計・施工一体型の珍しいプロポーザル案件でしたね。

さらに周辺には古墳が多く点在していることも特徴でした。古墳は人間がつくった人工の建造物なのに住宅地の街並みに自然と馴染んでいて、長い間その場所に存在し続ける土木のようなスケールを感じました。そういったところから、「土木と建築の間」「自然と建築の間」といった建築のあり方を模索し、「池の中に建つ土木的な建築」をつくることをテーマとしました。

来館者に人気だという、ため池が見える席(写真:seki takuya)

森田:ため池は図書館がオープンした今も農業用水として使われています。建設期間中も土のうを積み、池の一部を農業用に残しながら施工しました。今回のプロポーザルでは、私たち以外の提案はすべて埋め立てて建設する計画だったそうです。

高野:水の中に建てるというメリットの1つには、埋め立てをしないので、環境負荷やコストを軽減でき、工期も短くなるという点が挙げられます。ただそれだけでなく、建物のまわりにお堀のように水を循環させて池の水質改善を図ること、水辺の環境自体を活かして省エネルギーな建築をつくること、公園と一体となった親水空間をつくることという全部で4つのメリットを挙げて提案しました。

そうは言っても普通に考えれば、本と水、建物と水は相性が悪いですが、今回は設計・施工一体型という強みを活かし、建設会社である鴻池組の土木部門と連携してその実現性をアピールできた点が大きかったと思います。世界的なエンジニアリング会社のアラップ・ジャパンにも協力していただき、ため池の水面で冷やされた風を館内に取り込んだり、ため池によって街の環境自体も冷やすという環境シミュレーションも実施しました。

森田:竣工後の計測では、環境的に予想以上のよい結果が出ています。外壁はコンクリートの打ちっ放しですが、通常は外気に触れる外側と室内側の表面温度の差が大きく出ます。しかしこの図書館は冬も夏も1年を通じて室温が安定し、コンクリートには内部結露も出ていません。

書棚は風の流れがうまく通るよう、整列したものから少しずらして配置されている(写真:seki takuya)

高野:外壁には通常の約3倍の600mmのRC(鉄筋コンクリート)を使用しています。壁には断熱材を入れるのが一般的ですが、分厚いRCはそれだけで断熱や耐震の役割を担ってくれます。その上、壁自体が耐力壁の役割を果たすので、建物内部に耐震のための柱が不要です。だから設計の自由度が高く、立体的に人の動線を考えながら吹き抜け空間を設けることができました。

人の動線と重ね合わせて、内部の風の流れも解析しています。スパイラル状に風が抜ける空間に人も流れるように設計し、書棚もまず一度整然と並べたものを少しずらして流れをつくっています。それにより図書分類のわかりやすさは保ちつつ、視覚的には通路を抜ける際に本が飛び込んでくるような動きのあるレイアウトとなり「本をめぐる体験」を豊かにする狙いです。

日射制御の観点から窓は全体の壁の11%しかないが、開口を大きめにするなど工夫が施されている(写真:KAI NAKAMURA)

外観写真だけを見ると、閉じた箱のような印象がありますが、来館された方は「思ったより明るい」とおっしゃってくれます。図書館は日射制御も重要なので、実は窓が全体の壁の11%しかありません。そこで開口を3m以上に大きくするなど工夫して、開口部が少ないからこそ印象的に光が差し込むように採光をデザインしています。

また、建物の外壁は、ピンクのカラーコンクリートを用いて、色むらを残した仕上がりになっています。新築の時が最高の仕上がりで、そこから劣化していくということではなく、経年を感じさせない外観を目指しています。完成時には賛否が分かれましたが、松原市の担当者の方から「使い込んだ焼き物のように味が出てくるんだ」と嬉しいコメントもいただきました。

壁には、少し珍しいピンクのコンクリートが使われている(写真:seki takuya)

垂直な部分もほとんどないのですが、自然の中では真四角の方がむしろ違和感がある。形については、模型をつくって体感的に検討しています。

森田:近代建築がどんどん壊され、保存ができないことを建築家として課題に感じているのですが、この図書館を手がけるにあたり、「時間を超える」ということもテーマとして持っていました。最初のプロポーザルでは、市内の8つの図書館を1つにするという要件があったのですが、街の身近な図書館がなくなってしまうということは、そこに住んでいる人たちにとっては大問題です。だからこの場所が100年経っても残り続けるということは、街の人々にとっても必要なんじゃないかと思います。新しい建物ができましたというよりは、「ずっとここにありますよ」ということをメッセージとして伝えたいですね。

プレゼンテーションとドローイングに最適なVectorworks

松原市民松原図書館を手がけるにあたり活躍したというVectorworks。図面を描くツールでありながら、フリーハンドで試行錯誤でき、ドローイングソフトのようにも使えるという。さらに、正確な図面とイメージを描いたドローイングを1枚で表現できる点が高野さんにとっては魅力のようだ。

建物の断面図

高野:今回は建設会社や環境エンジニアリングの専門家と組みましたが、建物の形の意味をエンジニアとのコラボレーションの中から見出すことができた点は、面白い発見でした。水の中に建っている意味や、厚いRCを用いたシンプルな構造であることの意味が技術的に説明でき、一見変わった印象の建物なのに突き詰めて考えた上の必然性があるんです。

1階の一般開架の図面

特にこの図書館では、建物と水の接点、つまり、防水と排水の部分が一番の肝でした。このような建築の場合には、技術的な整合性を図ることと空間をイメージすることを同時に行いながら図面を描くことが大事だと思っています。だから、背景や人間のスケールも含めて1枚の図面自体で、この場所の情景が見えてきてほしい。その方が自分も思考しやすいですし、その際にVectorworksがドローイングに近い感覚で使えるんですよね。

森田:図形に模様を付けるハッチングや彩色は情景描写にも使いやすく、普段からプレゼンテーションだけでなく実施設計段階も含め、すべてのCADの作図にはVectorworksを使用しています。ダイレクトにプレゼンテーションツールにもなりますし、自分たちの情景描写としてのドローイングもできる。それを同時にできることがVectorworksの一番の魅力だと思います。

人もトカゲも植物も、みんなが心地よく暮らせる住居

2021年夏に竣工した、生態系と共に生きる家(写真:MARU。architecture)

森田:個人住宅では、大阪府箕面市にある「生態系と共に生きる家」が最近竣工したばかりです。立地は、都心部からのアクセスが良好な上に、温泉が出たり紅葉が有名だったりと自然に囲まれたエリアで、山から流れる大きな川と支流が合流する眺めのよい場所です。

住宅内部の様子(写真:MARU。architecture)

施主はとても動物好きな方で、彼からの要望は、奥様と3人のお嬢さん、そして何種類も飼育されている熱帯性のトカゲと一緒に暮らせる家をつくりたいというものでした。トカゲといっても尻尾まで入れたら1mもある大きな種類もいて、そのトカゲを水槽などのガラスケースに閉じ込めるのではなく、自由に彼らの生態系をつくりながら、そこに人間も一緒にいるような状態が理想だとおっしゃっていました。

ただ、熱帯に生息するトカゲの適温は25〜30度である一方、人間は30度になると過ごしにくくなってしまいます。さらに、箕輪市は山に近く冬場の寒さも厳しい場所です。そこで、住宅の中心を暖かいトカゲエリアとし、それを囲むように人間の居場所、その外に箕面の自然があるというように入れ子の構造をつくる必要があると考えました。

一般的に、高断熱・高気密の家は外部に対して保温瓶のような閉じた状態になりますが、それでは川に面した自然豊かな立地は活かせません。そのため、高断熱を維持しながら外部環境に接続できる工夫として、壁を井桁状に配置しました。

壁を井桁状に配置することで、季節を問わず快適に暮らせるようになっている。
1階・2階 図面
2階への階段を室内森の中に設置したことで、トカゲの生活している様子をより身近に感じられる(写真:MARU。architecture)

4枚の壁は、冬至の日の出、日の入りの時刻から角度を決定し、太陽光の当たり方をコントロール。壁自体は太陽光を蓄熱する分厚い珪藻土でできていて、トカゲに暖房が必要な冬は、この壁に直接太陽光が当たって保温するような効果が得られます。夏は、蓄熱する壁には一切太陽光が当たらないように開口の位置を調整。自然エネルギーを取り入れて、補助的にトカゲの環境と人間の環境を良くしていこうという試みです。これにより快適に過ごしながら、冷暖房が必要ない期間をできるだけ長くしています。

写真:MARU。architecture

設計段階では、住宅の中心にある室内森を中庭として閉じてしまう構造も考えましたが、施主から「大きなケージを家の中央に配置しているだけでは、トカゲと一緒に暮らしていることにならない」というご意見がありました。そこで、1階にリビング、2階を各々の部屋にし、家族みんなが毎日このトカゲのいる室内森を通過することになるよう、階段を中庭の森の中につくったんです。それによりトカゲの環境を人間も享受できますし、中庭と一体となった室内テラスには、施主がトカゲと一緒に過ごせる書斎スペースも設けました。

写真:MARU。architecture

室内テラスからは、トカゲのいる中庭越しに子ども部屋が見えたり、1階のキッチンではお母さんが食事をつくりながら、リビングでみんなが団らんする様子を眺めたりできるなど、中庭越しにいろんな家族の風景を楽しむことができるようになっています。直接目線が合うと居心地が悪く感じてしまう時もあるかもしれませんが、トカゲのための空間が挟まることで、お互いの気配は感じながらちょうどいい距離感を保てるんです。みんなが一日中一緒にいても居心地がいい。人間の環境にとってもこのトカゲのための中庭がすごく効果的なものになりました。

高野:動物や自然と暮らすのは、手がかかります。中庭の池にはカニや魚も住んでいますし、植物も含めて常に手入れが必要だったり、温度環境にも気を配るなど、どうケアするのかを考えながら暮らしていかなければなりません。ですが、人種やジェンダー、自然環境などの問題により、ボーダーレスに他者や自然とつながって生きていくことを一人ひとりが積極的に受け入れることが求められる時代になって、この家はある種それを体現しているんじゃないかなと思います。

森田:特殊な住宅のようですが、人間の住む環境を確保するだけではなく、庭のような半外部の外に開かれている空間をつくることによって、その周辺に生息する鳥や虫にとっても住みやすい環境になる。家の中だけでなく、まわりの自然とつながる植栽があったり、鳥が集まってきたり、虫が家の中に入ってきて、それをトカゲが食べてしまったり……。そこに住む人間や動植物が少しずつつながり、同じ環境の中で生きているという状態が、この家を中心に展開するとすごく夢が膨らむなと思います。

外部環境から構造を割り出して設計した高層集合住宅

集合住宅は、個人住宅とはまた違った課題がある。現在計画が進行中という東京都三鷹市の集合住宅は、計画地の環境や土地の形状で、難題を抱えていたそうだ。ウィークポイントをカバーする設計を行うため、ツールとしてVectorworksを活用し、安心して過ごすことができる住環境に昇華させたという。

周辺建物との距離/視線ダイアグラム。グラデーションの色が濃いほど距離が近いことをあらわしている

森田:三鷹の集合住宅では、街の環境からのプランニングを試みています。というのも、計画地が三鷹駅に比較的近い2本の道路沿いの角地で、周囲にも同じような高層の集合住宅が迫っていたのが欠点としてありました。そこで、Vectorworksを使って日影計算や天空率計算を行ったんです。Vectorworksの図面を元に、まわりの集合住宅の住民との心理的な距離までダイアグラムであらわしました。

この図ではグラデーションの色が濃いほど距離が近いということをあらわしていて、例えば、後ろのマンションのベランダは、この集合住宅に向いているため心理的な距離が近いことが分かります。一方、比較的閉鎖的な窓や壁が向いている部分は、物理的な距離は近くても人の視線が気になることはありません。計画中の集合住宅は、この分析をもとにバルコニーや窓の位置を調整しています。

三鷹の集合住宅の模型。真ん中に立つ細長い模型が、該当の建物。

建物が縦に長く倒れやすいため、構造的に成り立たせることも注力しました。そこで耐震壁を中央に集約して安定させ、そのまわりは自由にプランニングできるようにして、開口部分の位置を決めていきました。

さらに、こちらは賃貸物件のため、「成型の部屋の方が、借り手がつきやすい」という不動産業者の視点も考慮しました。土地が不定形で狭いので、メインとなる部屋は成型で確保しつつ、ベランダや収納、デスクスペースなどを外側に張り出していくことでプラスアルファの余剰空間を豊かにつくることがコンセプトとなっています。この張り出し部分をどこまで広げられるかは天空率計算で導き出しました。Vectorworksであれば、図面上で形を変えると連動して計算もできるので、こういったプロジェクトには非常に適したツールであると感じています。

「生態系と共に生きる家」の模型。細かなところまで精巧につくられている

高野:天空率計算により、スラブ(構造床)をどこまで張り出せるのかということをVectorworksで3Dを立ち上げてシミュレーションし、さらにそれを模型に落とし込んで確認しながら外形を検討しています。

森田: 3Dはファサード(建物の正面デザイン)のパターンなどを一斉に検討することに向いています。また、居住者の視点で内部に入り込んで、どう見えるのかを確認しやすいのですが、一方で、構成を俯瞰的に見るのは、模型の方が体感的にわかりやすい部分もありますね。ですからどのプロジェクトでも、3Dを立ち上げることと模型をつくることを同時並行で行っています。

誰もが主役になれて、多様性を受け入れられる未来を建築から

公共施設の設計で注目を集める「MARU。architecture」だが、根底にある考え方は住宅設計でも変わらない。最後に、公共施設をはじめとした建築への向き合い方や、今後の展望についてうかがった。

写真:seki takuya

森田:さまざまなお仕事をさせていただいていると、地方の自治体は人口減少で弱体化しているところが多いように感じます。そうなると、これまでサービスを受ける側だった住民も、行政に関わらざるを得ない。市民が自分たちで使う場所として、それをどのように運用するのかというところからまちづくりは始まるので、そのきっかけとして公共施設はとても重要です。その意味でも、その土地の方々とコミュニケーションをしながら地域の理解を深めていくことは重要ですね。

高野:公共施設を手がける上では、その土地の風土を、身体感覚的に理解するように意識しています。例えば、土佐市の複合文化施設の案件で感じたのは、海に向かって外にひらかれている視野だったり、幕末に改革を起こした人間性みたいなものが、今も脈々と続いているイメージ。また、街の産業構造や、それが過去から現在までどう変遷してきたのかなど、政治や文化にも興味をもち、それを感じながらつくることを大切にしています。

公共施設を、地域の住民が自分ごととして捉えて活用していくためには、地域の風土に根づいたメッセージが重要だ。その自覚が、公共施設だけでなく設計に向き合う際の姿勢としてあらわれている。

写真:MARU。architecture

高野:公共施設では、意思がはっきりと表明されたものをつくることが大切だと考えています。それがメッセージとして多くの人に伝わると思うからです。松原市民松原図書館で言えば、「池の中に建つ大きい箱」という伝わりやすいメッセージがあって、でも実際に行ってみると、外観だけでは伝わらないそれぞれの感じ方があります。伝わりやすいことと伝わりにくいことの両方を含めて、みんながそれぞれの思いを共有しあえるということも公共性と言えるのではないでしょうか。

森田:公共性という意味では、「生態系と共に生きる家」をつくる中で感じたのは、トカゲのように熱帯の特殊な環境で生きている生物とも、人間は共存できるんだなということです。日頃から、ガラス張りで透明な建築でもそこには必ず境界面が発生してしまうという悩みを感じていたのですが、室内に外があってもいいし、半屋外みたいな人間の居場所があってもいい。人間も動植物も中も外もなく、それぞれが居心地のよい場所をその時々に選択して過ごせるような暮らし方ができたら建物はもっと自由になるのかなと感じます。

高野:今後はさらに、建築の中でいろいろなものが共存できるような関係をつくっていきたいですね。一つの考え方だけに閉じた建築ではないものを手探りしながら、それを発展させて具体的にどのような設計手法で実現できるのかを考えたいです。

森田:私たちが今いるこの事務所の空間も、それを実感できる場所です。上野という土地柄や建物のつくりから、観光客の方が多く通り、写真を撮ったり、話しかけられることもあるんです。事務所自体が閉じたコミュニティにならないことで、事務所内のコミュニケーションも円滑になっていく。それは、公共施設でも住宅でも重要なことですね。

高野洋平

1979年愛知県生まれ。名城大学理工学部建築学科卒業、千葉大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。佐藤総合計画を経て、2013年よりMARU。architecture共同主宰。

森田祥子

1982年茨城県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学大学院修了。NASCAを経て、2010年MARU。architecture設立。

  • 取材・文:小野口真絹(Playce) 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)
  • この事例はJDNの許可により「ジャパンデザインネット」2021年12月3日より掲載された記事をもとに編集したものです。記事中の人物の所属、肩書き等は取材当時のものです。
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