ユーザ事例 & スペシャルレポート

株式会社 俳優座劇場は、『「築地小劇場」(戦後に戦災で焼失した新劇の拠点)に代わる劇場を』という演劇人の熱い要望を受けて、1953年(昭和28年)に誕生しました。そして、舞台美術家であり初代社長でもある伊藤熹朔氏の発案により、劇場付属の舞台美術部(大道具製作)を開設し、半世紀以上に渡りテレビや演劇、イベント関係の大道具製作場として多くの番組や公演に関わっています。大道具製作の現場で、Vectorworksがどのように活用されているのかをご紹介します。

今回、営業本部 営業部 副部長の藤江 修平(ふじえ しゅうへい)さんと製作本部 草加工場 製作係 主任の野村 伸広(のむら のぶひろ)さんにお話をうかがいました。


舞台、テレビセット、イベントなど大道具全般の製作から納品まで

-舞台美術部の具体的な仕事内容を教えてください。-

藤江:ひとことで言うと大道具全般の製作です。営業部ではテレビ局や美術製作会社、美術家、舞台監督、劇団などから大道具製作の依頼を受け、予算の見積もり折衝など受注から納品まで全体を通して社内外との折衝や調整を行っています。

野村:製作係では実際に大道具の製作を担当しています。基本的に製作物は木工が中心になります。製作スケジュールは非常に短いものも多く、小規模なテレビのセットなどは仕事の依頼から納品まで数日のこともありますし、納品当日の朝に変更追加というようなこともあります。

デザイナーから提示される図面やスケッチをもとに大道具を製作

-仕事はどのように進めるのですか? -

藤江:営業部では、先方から提示される道具帳(舞台美術のデザイン画)をもとに打ち合わせをします。製作段階で必要になる基本的な情報に加えて、デザイナーの想いや、つくりたい舞台セットの雰囲気など細かい要望も営業部で聴き取りを行います。そして、道具帳が手描きの場合などは、必要に応じてVectorworksで製作係に渡すための図面を作成します。図面がない依頼の場合には営業部で図面化することもありますし、単純なものであれば寸法と形のメモ書きをそのまま製作係に渡すこともあります。

野村:製作係は営業部から受け取った図面や情報をもとに製作をします。Vectorworksを活用する以前は頭の整理のために実物製作前にベニヤ板に10分の1の図面を描いていました。

Vectorworksは大道具製作に無くてはならないツール

-Vectorworksはいつごろから使っているのですか?-

藤江:2004年ごろに依頼されたイベントの仕事で先方がVectorworksを使っていたことから、必要にかられて使い始めました。その際、会場の総間口を実際に測りに行くことができず、Vectorworksの図面データだけを信じて大道具を製作して納品しました。図面通りに納まるのか不安だったのですが、設置誤差が3mm程度で正直びっくりしました。その時、本当にすごいと思いましたし、この先ずっと活用されるソフトウエアだろうと感じVectorworksの勉強を始めました。今では大道具製作に無くてはならないツールになっています。

野村:当時、テレビ業界はVectorworksを使っている人が多かったのですが、演劇関係は違うCADを使っている人もいました。ですが、現在は圧倒的にVectorworksを使う人が多いと感じます。そして、Vectorworksを使って道具帳を描くデザイナーも増えてきています。

舞台転換など舞台上での大道具の動きや寸法をVectorworksで検証

-どのような図面を作成するのですか? -

藤江:大道具製作にすぐに取りかかれるように、例えば、舞台上にユニットの平台を設ける場合は平台の割り付けの平面図などを作成します。道具帳も必要に応じてVectorworksで作成します。演劇など舞台転換が多い場合は転換図を作成してセットの動かし方や製作寸法の検討もします。さらに、大道具をトラックに積み込めるかという検証図面も3Dで作成しています。

野村:製作段階では弊社の規格に合わない部材の寸法の見直しや、細かい壁の納まりや割り付けなどを検討するためにVectorworksを使っています。また、パネルに打ち付ける物も規定の幅や寸法があるのでその位置やセットの分割場所の検討図面なども作成しています。

現場で起こる問題にも臨機応変に対応できることが重要

-大道具製作で苦労する点は? -

藤江:納品先で大道具の加工作業はできるだけ避けたいのですが、想定外のことも起こります。以前、稽古場に舞台セットの納品に行った際、入手した図面の寸法が現場の寸法と違っていたことがありました。当然設置できず、その場でVectorworksを使って平台の敷き方を検討し直して、平台を一枚切ることでなんとか納まったということもありました。また、大道具を設置してみたら演技者の動線を塞いでいたというようなこともあります。納品の時はVectorworksも持っていきますが、変更や追加などにもすぐに対応しなければいけない点は苦労します。

野村:CADを活用することで精度も上がり、事前に検証もできるので現場で起きる問題は減っていると思います。ですが、最初の図面で間違えると切り出しも機械ですので、セットとして組むまで間違いに気が付かないということも起こり得ます。そこは注意が必要です。

シートレイヤやハイブリッドシンボルは非常に便利

-Vectorworksで良く使う機能は? -

藤江:大道具製作では2次元図面が基本になりますが、鉄骨の発注図面やトラックへの大道具積み込み図面は3Dで描いています。ですから、2次元と3次元で表記の切り替えができるハイブリッドシンボルは非常に便利です。また、シートレイヤも良く活用しています。特に鉄骨の発注図面ではパーツの詳細図やボルトの位置など細かい図面と3Dの全体図を1枚にわかりやすく表現できるのでシートレイヤはとても使いやすく便利です。

野村:現段階で、クラスはあまり使いこなせてはいないのですが、クラスも細かく分けてレイヤとクラスを上手く使っていくと製作の際、かなり便利になるだろうと感じます。

デジタル技術の広がりで大道具のデザインにも変化がみられる

-Vectorworksやデジタル工作機の活用で変化したことは? -

藤江:Vectorworksを使うようになってからは、作業が効率的に進められますし、寸法の取り間違いなどは手描きの頃に比べると激減していると思います。

野村:VectorworksなどCADを導入することによって、製作する大道具はNCルーターやレーザーカッターなどのデジタル工作機で切れるようになりました。それによってデザイナーの描くデザインも変化してきています。以前は手で切り出していましたので、曲線のデザインは手間やコストの問題もあって製作するのは難しかったのですが、CADやデジタル工作機を使うことで曲線も簡単に作れるようになりました。大道具業界全般的にみて、曲線のデザインがすごく増えてきたと感じますし形状も複雑になってきています。

3Dの活用やアニメーションにも挑戦したい

-Vectorworksを使って今後取り組みたいことは?-

藤江:Vectorworksは独学の社員が多いので、スキルレベルを合わせるための教育が必要だと感じています。3D含めVectorworksの機能を最大限に活用できるようになれば大道具製作の幅も広がると思っています。また、個人的にはアニメーションにも挑戦したいです。

野村:Vectorworksの3Dで建物モデルを作成することにも挑戦したいと思っています。セットでパース図を描くことは多いのですが、ほとんどの場合はデザイナーの描いたスケッチから起こしています。将来的に背景に使うパース図は、建物の3Dモデルで見たいアングルを決めて外観パースとして出力したものに着色するだけで仕上げることができたらと思います。そして、大道具製作は近い将来、図面もカットする機械も3D化されるのではないかと感じます。

株式会社 俳優座劇場

代表取締役社長

浅野 醇市 氏

代表取締役社長 浅野醇市氏よりひとこと

舞台美術とひとくちに言っても、弊社では演劇、テレビ、イベントとさまざまなジャンルの大道具製作を手掛けています。ですから、クライアントの要望も多岐に渡ります。木工製作が中心ですが、スチロールなど多様な素材が登場してきたことで、3次元曲面の製作も可能になりました。そして、図面から製作まですべて手作業で行っていた時代には難しいと考えられた形状もデジタルデータの活用で製作可能になり、要求される精度も高まっています。そういう意味では長年培ってきた技術に加えてVectorworksを含めた最先端のデジタル技術も積極的に活用し、常に新しい視点と感性で最高の大道具を届けていきたいと考えています。


ー取材を終えてー

大道具製作の仕事もデジタル技術を活用することで、すべて手作業で行っていた時代に比べてスピードと精度が一層要求されるようになっているようでした。とはいえ、イメージしたものを創り出すのが「人」であることは今も昔も変わりません。手作業の時代から培った技術力に加えて、ものづくりに欠かせない創造力でデジタル技術の良さを最大限活用し大道具製作の可能性を広げて欲しいと感じます。

エーアンドエー株式会社 カスタマー・リレ−ション課 竹内 真紀子

【取材協力】

株式会社 俳優座劇場 https://www.haiyuzagekijou.co.jp

代表取締役社長 浅野 醇市 氏

  舞台美術部 藤江 修平 氏

  舞台美術事業部 野村 伸広

(取材:2016年8月)

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