Vectorworks活用事例

「Vectorworks」でBIMを始めよう。
 HIRO建築設計工房/中尾忠廣
 中岩建築設計事務所/中岩学
 暮+建築設計/日髙雄介

「建築知識」2024年10月号掲載

建築知識 Vectorworks活用事例

「Vectorworks」でBIMを始めよう。
 HIRO建築設計工房/中尾忠廣
 中岩建築設計事務所/中岩学
 暮+建築設計/日髙雄介

写真=嶋井紀博

「Vectorworks」は建築をはじめ、さまざまな分野のデザイナーに人気が高い設計ツール。近年ではBIM対応が進んでおり、労働生産性の向上を力強くサポートできるようになっている。今回は、大分県中津市で設計事務所を営む、中岩学氏(左)、中尾忠廣氏(中)、日髙雄介氏(右)に、それぞれの視点から、「Vectorworks」導入の利点や今後の展望について話を聞いた。

「Jw_cad」との連携もスムーズ

中尾 私が設計事務所を開設したのは1989年。当時は手描きで図面を作成していましたが、後に無料のCAD「Jw_cad」に移行。その後、模型の代わりに3Dパースを作成するようになりました。しかし、各ソフトの掛け持ちが段々と面倒に感じるようになり、3DCADの導入を考えるようになりました。そんなとき(2014年)に、出会ったのが「Vectorworks」です。ある程度BIM化したデータに2Dを加筆する使い方もでき、完全にBIMを使いこなせなくても使用可能なので「Jw_cad」から「Vectorworks」の移行に特に苦労は感じませんでした。図面、パース、プレゼン資料の作成もすべて「Vectorworks」上でできるので、数多くのソフトを使いこなす手間も減りました[1]。

[画像=HIRO建築設計工房]

[1]3Dパースで耐震改修の計画内容を明確に可視化

古民家の耐震改修を計画する際に、「Vectorworks」を使用して3Dで構造図を表現。既存の躯体(丸太梁など)と新設柱や筋かい(耐力壁)といった補強箇所を色分けして表現することで、伏図や軸組図よりも、補強計画のポイントを明瞭に可視化している

中岩 私はさまざまなCADを使ってきましたが、独立の際、学生時代に使用していてなじみがあったということもあり、他社との価格比較をしたうえで、最終的に「Vectorworks」を選びました。BIMを意識してのことですが、完全なBIM移行はしたくありませんでした。それは、2Dの使い勝手のよさを残しておきたかったから。階段などの詳細図は2Dで描いていました。1カ所を修正すればすべての図面にその内容が反映されるBIMのよさと、自由度の高い2Dを織り交ぜた“なんちゃってBIM”として使い始めました。今では施工者や建築主との完成イメージの共有がより楽に図れるようになったと感じています。

日髙 「Vectorworks」には設計業務の面でいろいろなメリットがありそうですね。私としては、工務店や行政、ほかの設計事務所など、周囲を見渡すと、まだまだ「Jw_cad」を使用している方が多く、その方たちと一緒に仕事をすることを想定すると、「Vectorworks」への移行に二の足を踏んでしまいます。中尾さんはもう「Vectorworks」しか使っていないと聞いていますが…。

中尾 「Vectorworks」はJWW形式データ互換がスムーズに行えます[※1]。工務店などから建築確認代行(代願)の依頼もよくあるのですが、送付されるデータが「Jw_cad」で使用されていたとしても、この機能を使えば、手間を要さずに代願業務を行えます。互換性の不安をもつ人も多いと思いますが、私は「Vectorworks」機能による作業メリットは大きいと思っています。便利な機能の1つが「引出線付き注釈ツール」[※2]。納まりが標準化されていれば、注釈を再入力する必要がありません。

  1. 1 「Vectorworks」ver.2022までプラグイン提供、ver.2023より標準搭載。JWW形式の入出力が可能なほか、取り出し時には線種・線幅変換をはじめ、「Jw_cad」では対応していないシンボル図形をグループ図形に変換する機能なども搭載
  2. 2 引出線付き注釈オブジェクトを配置し、図面内のアイテムに注釈を付けられる。引出線付き注釈を注釈リストにも使用できるほか、引出線付き注釈を注釈データベースに接続して、標準の注釈を使用するたびに再入力しなくても配置できる拡張機能が含まれている

中岩 私は福祉施設やクリニックなどの非住宅の仕事が多いので、木造耐火建築物の設計にも使える「Vectorworks」は重宝しています。建築確認の電子申請も「Vectorworks」で作成したデータで行っています。最近では改修計画などでiPhone Proの「LiDARスキャナー」を用いて、既存建物の点群データスキャンも行っています。「Vectorworks」は「LiDAR」の点群データを読み込めるので、提案段階での現地調査が随分楽になりましたね[2]。

[画像=中岩建築設計事務所]

[2]「LiDARスキャナー」のデータを既存平面図の作成に生かす

廃業した飲食店の改修計画時に「LiDARスキャナー」を用いて現地調査を行い、その点群データを「Vectorworks」に読み込んだ。スキャンした画像を天井の少し下のレベルで水平方向に切断すれば、既存平面図をスムーズに作成できる。この規模(1階のみで200㎡程度)だと誤差は数㎝程度しかなく、調査図面への記載漏れや写真撮影のし忘れなどで再度現地に足を運ぶことも、ほぼなくなったという

4号特例廃止にも対応

日髙 私も地元で行政と連携して農家民宿などの設計業務を行っているので、その機能は役に立ちそうだな、と思います。「Vectorworks」への移行に当たって、ソフトの使い方に関するサポートも気になるところですが、その点はどうでしょうか?

中尾 メーカーによるサポートのほか、「Vectorworks」のFacebookグループに登録すれば、グループ内のメンバーに直接質問し、丁寧な回答が得られます。加えて、ベクターワークスジャパンが主催するセミナーも充実しているので、それを利用して習熟度を高められるようになっています。

中岩 私も興味のあるセミナーには積極的に参加するようにしています。今後は、中級&上級者向けのためのセミナーを開催してほしいな、と考えているところです。

日髙 なるほど。さまざまな視点から「Vectorworks」のよさを知ることができたと思います。周りにユーザーが増えてくると、私もより積極的に導入しやすくなると思いました。教育現場で「Vectorworks学生・教職員向けライセンス」[※3]の利用率が高まれば、「Vectorworks」を利用しやすい環境が整ってくると想像しています。

  1. 3 設計やデザインを学ぶ学生、および教職員を対象とした無償提供ライセンス

中尾 建築業界が抱える問題は多々ありますが、BIMで緩和できることは多いと思います。一括での修正変換などの基本的なBIMの機能は作業を効率化させますし、BIM申請になれば煩わしい作業工程はさらに減り、意匠設計者はアイデアの創造に時間を割けるようになるでしょう。「Vectorworks」は2D、3D、BIMが可能な汎用ソフトなので、BIMをマスターしなければいけないという強迫感がありません。これからのBIM導入を考えている方にも受け入れやすいのではないかと思います。

中岩 2025年4月には4号特例が廃止され、戸建住宅の建築確認で、構造・省エネ関連の図書を提出しなければならなくなりますが、2024年9月から「Vectorworks」は、構造計算ソフト「ホームズ君 構造EX ver5.0」(インテグラル)[※4]とのデータ連携が可能になる予定で、こうした内容にも柔軟に対応できる土壌があると思います。「Vectorworks」の機能を活用し対応できれば、ほかの設計者と差をつけるチャンスになるとも感じています。

  1. 4 構造計算ソフト「ホームズ君 構造EX ver5.0」については、インテグラルのHPを参照
  • この事例は株式会社エクスナレッジの許可により「建築知識 2024年10月号」で掲載された記事をもとに編集したものです。記事中の人物の所属、肩書き等は取材当時のものです。
  • 記載されている会社名及び名称、商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。製品の仕様、サービス内容等は予告なく変更することがあります。

Vectorworks

2D/3Dのシームレスな作図機能に、彩色豊かなプレゼンテーション、リアルなレンダリングなど、デザイナーの設計環境を支援する汎用CADソフトウエアです。

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評価版(トライアル)

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