神戸松蔭女子学院大学 人間科学部 ファッション・ハウジングデザイン学科
Vectorworksを使い総合製造機器メーカー滝川工業株式会社の本社エントランスを学生デザイナーが大改造
コンセプトは「GEO-METALLIC HARMONY」

六甲山の麓に近い神戸松蔭女子学院大学 人間科学部 ファッション・ハウジングデザイン学科では、産学協同プロジェクトへの取り組みをおこなっています。
2019年に兵庫倶楽部で行われた神戸松蔭女子学院大学、米原先生の講演「神戸の街・建築の魅力と可能性」で学生作品をご覧になられた滝川工業株式会社 取締役社長 瀧川 松平氏が、その学生達の活動に感銘を受け「是非、学生さんに自社のエントランスをデザインしてほしい」とアクションを起こしたのが始まりとなります。
そして、デザインを学ぶ学生達に自社のエントランス空間を提案してもらう、産学協同プロジェクトが実現されました。瀧川社長の熱い想いを受けた米原ゼミでは有志を募り、3年生から5名の学生デザイナーが集まりました。
滝川工業株式会社は1943年創業から続く、兵庫県加古川市に拠点がある産業機械のメーカーです。鉄、アルミ、ステンレスなどの高度な加工技術を誇り、全国の製鉄設備、食品製造設備などの産業機械の設計製作を手掛け、顧客主眼のものづくりと、社内のコミュニケーションを重んじる企業です。
企業側より伝えられた要望は、産業機器メーカーの企業イメージを大切にしたいので「重厚長大」、「力強さ」をキーワードに、さりげなく会社をアピールできる要素を盛り込んでほしいとのことでした。


なお、条件としてオフィス棟の社屋は2018年の完成から1年半ほどとまだ築浅なため、造作など変更は行わないことが条件として挙げられました。
また、来客者への配慮として、短い滞在時間の中でも、エントランス空間で社風を伝えたい、清掃などのメンテナンス面の行いやすさや、時計の設置、柱の有効活用など、来客者が待ち時間を充実して過ごすことのできるエントランス空間にしてほしいとの要望でした。


早速、5人は滝川工業本社へ訪問し、現地調査から活動がスタートしました。
現地では社屋見学や工場、社員の方々とのコミュニケーションを通じて得た情報や、事例研究で収集された情報から具体的なデザイン計画が始まり、エントランス空間の構想イメージは、幾何学図形や滝川工業のロゴをモチーフに動きのあるジオメトリーをアシンメトリーに配置し、柔らかい、躍動感、素材感、企業イメージを力強く表現させる要素を含んだ方針に決定しました。

プロジェクトは3月の事例研究、リサーチからはじまり10月の完成まで約7か月の期間で完成しました。コンセプトは幾何学+金属+調和から「GEO-METALLIC HARMONY」と名付けられました。

ミーティングの進行には参加者が全体像の把握や理解を深めるため、Vectorworksによる2D図面だけでなく3Dモデルデータや、アニメーションでのシミュレーションが何度も行われました。その他カッティングプロッターを駆使し型紙から1/20模型や、1/5部分模型の2つの模型も作成されました。

3Dデータや、模型を作成したことで、空間全体を俯瞰してみることができるようになり、より多くの情報が獲られ、デザインや配置計画だけでなく、搬入方法・組み立ての計画までもイメージすることができました。良いものを作ろうと思う情熱は、会議に参加した誰もが時間をも忘れ、夜間にまで及ぶ議論が続けられました。


各デザインを担当された学生デザイナーの作品をご紹介します。
担当エレメント:正面壁と受付
作:池野 真由さん
産業機器メーカーでありグローバルな企業としての印象をつたえるため、社名はあえて英語表記とし、ステンレス素材を用いた斜めのサインプレートや、デジタル時計、LEDディスプレイがバランスよく配置されました。電話台(箱型)にはステンレス素材が採用され、デザインの調和を保ちつつ、金属加工の高い技術力をさりげなくアピールしています。

左下:サインプレート(正面壁)、右下:受付のイメージパース
担当エレメント:パンフレット棚・アルミ壁面パネル
作:横川 藍さん
2か所のエレメントを担当。
1つは柱を取り囲むステンレス製のパンフレット棚です。対となる反対の柱には楕円形のベンチを配置しているため、個々でのデザインは非対称を意識した四角い棚がデザインされました。クオリティーを高める間接照明や、安全性と質感の両方を高めるため、コーナーは丸める加工が施されました。

2つめは、左右のコーナーのデザインです。装飾パネルをデザインし、企業ロゴをベースに作成した幾何学模様がアルミ板に配列されました。エントランスのコンセプトであるアシンメトリーを意識した左右非対称のデザインを取り込み、フロストガラスから透過される間接照明は、前面に置かれるオブジェとの調和がとれた空間に様変わりしました。

デザイン:幾何学(四角形)/シンプル/アシンメトリー、素材:アルミ/フロストガラス
担当エレメント:楕円形ベンチ
作:光田 百合絵さん
パンフレット棚と対となる柱の周囲は「動き、色彩、素材」をコンセプトに企業イメージが表現されています。鉄素材を採用し、安全でインパクトのある大型の楕円形ベンチを配置することで居住空間を作り上げ、来訪された方も座りながら広範囲のエントランスを見渡せる場所となりました。また、座面には3色の円形クッションを並べ居住性を高め、短時間の打ち合わせの来客対応時にも、立ち話ではなく、座って落ち着いて対応ができるようにもなりました。側面には円の切り抜きによるデザインを施し、簡易に清掃が行えるような機能面にも工夫が凝らされています。

担当エレメント:ロゴオブジェ
作:田邉 明日香さん
愛着のある企業ロゴをモチーフに採用し、素材には鉄を使用した臨場感のある象徴的なデザインとなっています。課題となったのは照明ライトの位置、ロゴの角度、オブジェの支柱強度でしたが、最終的には50㎜の鉄板をレーザーカットして赤く塗装し、背面の支柱は1本で支え、下からのライトアップ効果により、冷たい印象の鉄が温かみと重厚感のある仕上がりとなりました。

担当エレメント:ロゴモチーフ照明
作:東 桃佳さん
コーナーの奥行を活かし真鍮、鉄、ステンレスの素材を用いた空間へと作り上げられました。
形状は四角柱、四角錐、半角柱の3つを作成し、それぞれに企業ロゴを模様としてレーザーカットで切り抜き配置されました。
その幾何学的な美しさは内部からの光源によりさらに神秘性を深めたデザインとなりました。また、メンテナンス面にも配慮がされており、電球交換のためにパネルの脱着ができる仕様となっています。

左下/右:レーザーカットで切り抜いたロゴモチーフ照明を設置
ほとんどの作品は、滝川工業株式会社の自社工場で制作され、現地に設置されました。重量のあるオブジェが多いため設営には慎重を期した丁寧な作業が行われ、無事に学生達のアイディアによる新しい空間が生まれました。
今回、依頼をされた滝川工業株式会社 瀧川社長は、期待していた以上の仕上がりに満足されていました。本件をご担当された三宅部長のお話しでは、来客者の反応も上々で、学生がアイディアを駆使したユニークなエントランスに大変興味を持ってもらえた。と語りました。

新しく提案されたエントランスの前で撮影。
最後に、米原先生からは原寸大のインテリアを実用化できた体験は何事にも代えられない学びとなったことに感謝するとともに、今後も人とかかわることのできるプロジェクトの推進や、災害、新型コロナ、地球環境などの問題にも空間デザインによって改善する必要性が増えてきている時代の中、多くの学生に体験できる機会を作っていきたいとコメントを残されました。


左から、池野さん、田邉さん、横川さん、光田さん、東さん
【取材協力】
- 神戸松蔭女子学院大学 人間科学部 ファッション・ハウジングデザイン学科
- 指導:准教授 米原 慶子 先生
- 実習助手:山岡 奈央子 さん
- 3年:池野 真由 さん、田邉 明日香 さん、横川 藍 さん、光田 百合絵 さん、東 桃佳 さん
- 滝川工業株式会社
- 総務部長※ 三宅 俊宏 氏
- 当時、現職は総務部 顧問
- 記載されている会社名及び名称、商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。記事中の人物の所属、肩書き等は取材当時のものです。製品の仕様、サービス内容等は予告なく変更することがあります。