ユーザ事例

葉脈の庭「緑島」
株式会社プレイスメディア 編

株式会社プレイスメディア 小林 祐太 氏

ユーザ事例

株式会社プレイスメディア
小林 祐太 氏

大学の同級生4名でパートナーシップを組んだところから始まった設計組織プレイスメディアでは、日本国内にとどまらず、世界中のランドスケープデザインに関わるあらゆるコンサルティング業務を展開されています。中国太倉市の裕沁庭は、2018年のグッドデザイン賞を受賞され、2019年には中国土木建築学会の最高賞である、中国土木工程詹天佑奖优秀大奖(住宅部門)を受賞されました。

今回は設計を担当された小林祐太(こばやしゆうた)さんにVectorworksをどう使用してデザインを形にされたのかについてお伺いしました。

多方面の情報を横断的に把握

御社の業務について教えてください

単なる屋外の植栽デザインではなく建築・インテリアとの関係性や、都市計画に対する建築を含む敷地やインフラとしての公園・広場・緑地計画・デザインなど、多方面の情報を横断的に把握して、様々な事象との関係性の中で成り立つ職業と感じ、知識や経験も必要となりますがやりがいがあります。建築家の方々も屋外との関わりを重視されていますし、コラボレーションによってお互いの空間が良くなるように総合的な空間作りをしたいという方々にお声がけいただくことが多いです。お声がけいただいた方々、協働するデザイナーの意向もよくお聞きして、議論しながらより良いものを提案することを心がけています。

ランドスケープと建物のコントラストが美しい裕沁庭

植物の葉のアナロジー

裕沁庭のデザインコンセプトは?

今回の計画における緑地のデザインでは、植物の葉のアナロジーを当てはめることで「植物の個体維持と生長をささえる仕組み」を「居住者の快適な生活を支える空間の仕組み」に読み替え、将来にわたって生長し住み続けることのできる住環境を生み出すことを目指しています。敷地内に葉の植物細胞に相当する空間領域として異なる性格を持ったGardenを配置し、彩り豊かな四季折々の植物や水景、さまざまなアクティビティを誘発する設えを施し、それらを葉脈に見立てた園路のネットワークを回遊しながら楽しめる環境を目指しました。

パースの持つ訴求力

3Dはどの段階で作られるのですか?

我々の組織ではコンセプトイメージとデザインの方向性を共有した後、平面図を最初に出すくらいの割と早い段階でパースを作ることが多いです。印象的なポイントとなるシーンを見ていただいてクライアントに納得いただけるかは重要ですし、パースの持つ訴求力は非常に強いです。実際に見え方はどうなのか?という話になることが多いので、ここのマウンドが高ければ〜、低ければ〜、などの比較表示をすることもあります。多くの案件で3Dを作ります。スタディ模型も重要ですが、全体とアイレベルでの見え方検証ができる点では、3Dの方が早くてコストもかかりません。裕沁庭はマンションなので、販売用のCGは中国のプロの方々が作ったようですが、我々でもプレゼンや説明に耐えうる3Dを作れるのでVevtorworksは重宝しています。

16の異なるテーマを持つGardenが組み合わさって成形されている。

建物から地形モデル

パースはどの順番で作成されるのですか?

まず建物を入れて、次に地形モデルです。建物はデータをもらって、SketchUpなど互換性があるものはそのまま使います。データが重くて動かない場合は、柱状体に階層のラインが入っているだけのものなど簡単なボリュームを自分たちで作ることもあります。

裕沁庭プロジェクトがスタートした時は地形を作成する機能をよく知らなかったので、すべて独学でNURBS曲線を駆使して作っていました。大きな地形ができたら園路を作って植物を入れた後、ファニチャーや添景物を作成します。樹木も1本1本等高線から地面の高さを割り出して数値を入力して動かしていました。「地形モデル」を使って「敷地表面に移動」コマンドの機能を知った時には愕然としました(笑)。便利な機能が沢山あったことをこのプロジェクトの後で知りました。

マルチビュー機能で平面と3Dを並べて表示しながら微調整を行う。

リアルな検証結果

地形ができたら緑のボリュームを入れて、設計通りになっているかを確認し、微調整をおこないます。最近のバージョンでは2画面表示ができるので、平面と3Dを並べて表示して、平面の画面上で樹木の位置を動かしながら、アイレベルで立った状態で、水面に樹木が映り込むかなどの検証に使ったりします。またクライアントには「水面に逆さに映り込んで、実際にこう見えますのでご安心ください」というような説明をしています。リアルな検証結果の資料となるのでこちらの意向を理解してもらうに当たり説得力が増します。

植物は現地調達

植栽も3Dですか?

設計時はまだ植栽ツールを知らなかったので、写真データを取り込んで添景をシンボルにして使っていました。作成した樹木のシンボルはみんなで使えるように所内で共有しています。

太倉市の気候は日本と近かったので、国内で調達するような樹種を中心に選定した後、現地の同業者が指定した樹種が実際に調達できるか市場を調べてくれました。我々も直接中国の圃場に行って実物を確認し、現地アテンドさんに「この木を基準にしてこれよりも良いものを選ぶこと」といった指示をしていました。基本的に1本1本すべてを選べるような規模ではなかったので、全種類の木の選び方の基準を事細かく指示しました。

アイレベルのパース
オリジナルデザインのパーゴラが葉のコンセプトに馴染んでいる

ファニチャーや構造物のデザインでの3D活用

ファニチャーなどの上物は、既製品ではなく基本的にはオリジナルをデザインして作るようにしています。そういった時に3Dは重宝しています。平面・立面・断面だけでは伝わりきらないことも多いですし、何より早く正確に立体に書き出せます。モデリングデータ上で設計したファニチャーを据えてみて、その場での見え方を確認することもできます。クライアントに見せることもありますが、所内での合意形成でも画面上でくるくる回し確認するのに使っています。

平面図の検討と断面図の作成

Vectorworks Landmarkでよく使われるのはどの機能ですか

日常的に使っているのは、「平面を回転」です。断面図を書く時に建築と違って切りたい切断面が平面図上で水平垂直ではないことが多いので、「平面を回転」ツールで画面を回さないとかなり大変です。この機能が出る前までは、必要な部分の情報を別のファイルに抜き出し図形を回転させて作業していました。断面の位置が変わる度にデータを抜き出して回転して書くのを繰り返していたのですが、この機能が使えるようになってからは同一ファイル内で平面図の検討と断面図の作成ができるので、手間が大きく減りましたし変更時の修正がとても楽です。

竣工写真(設計段階から水景などが変更)

必要な情報の表示をワンタッチで

ナビゲーションパレットはかなり重要です。一番はコレかもしれません(笑)。Vectorworksの良いところは、画層がクラスとレイヤの2種類あるところだとずっと思っています。樹木の表現だと春夏秋冬で葉の色を変えたクラスを作っておいたり、基本設計時は樹冠を表現しておいて、実施設計になったら記号的な表現にしたり。1つのシンボルを登録しておけばナビゲーションパレットをワンタッチするだけで、その表示切り替えが可能です。他社とのやりとりの中でDXFに変換したデータを渡して戻ってくると設定が変わってしまうのが悲しいところですが(笑)。

目的や見せるべき情報に合わせてビューポート上でクラス属性の変更や、線の太さや透明度の調整ができることも重宝しています。工種ごとにハッチングのクラスを作っておけば、舗装系だけを表示する図面や、植栽系だけを表示する図面を、同じレイヤ表示のまま使い分けられますし、画層が分かり易く整理できるので両方の画層を使っています。

ナビゲーションパレット
図形の表現や必要な情報を瞬時に切り替えられるように設定

多彩な表現が強み

Vectorworksを使う上で大変だったことは?

強いて言えばデータの互換性です。裕沁庭プロジェクトでは建築データが別のソフトで作成されていたので、一回変換しなくてはならないのが手間ですが、それは仕方ないですね。逆に良いこともたくさんあって、色や模様をつけたり、透明にしたり、グラデーションをかけたりとデザイン意図を表現するにあたってVectorworks上で多彩な表現ができることは大きいです。しかも図面データの変更と連動して調整できる点を気に入っていますし、モデリングも作図もプレゼンデータも一つのソフトで作れます。他社の方がプレゼン資料を作る時に、CADで描いたものを書き出してInDesignなどに貼り込むといったことをよく聞くのですが、Vectorworksはそれをシートレイヤとビューポートでレイアウトした上で写真を貼り込んだり、上からイラストを描いてダイヤグラムを作ることができるのですごく便利だなと感じています。

高速レンダリングに期待

今後Vectorworksに期待することは?

水の映り込みや反射などがOpenGLレベルの速さでレンダリングできるとありがたいですね。CGをつくることが当たり前になってきたと思っていましたが、最近では動画やVRが出てきて、今度はそれが当たり前になりそうなので、出先でゴーグルを使ったプレゼンなどが手軽にできると良いですね。

周囲の景観が水面に映りこみ、完成形をリアルに想像させる
小林 祐太(こばやし ゆうた)

株式会社プレイスメディア

【取材協力】
  • 株式会社プレイスメディア Associate 小林 祐太 氏
【写真提供】
  • 積水ハウス株式会社
  • 設計組織PLACEMEDIA
【裕沁庭 プロジェクト概要】
  • 事業主体:積水ハウス株式会社
  • 設計・監理:積水ハウス株式会社、坂倉建築研究所
(取材:2019年9月)
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Vectorworks

2D/3Dのシームレスな作図機能に、彩色豊かなプレゼンテーション、リアルなレンダリングなど、デザイナーの設計環境を支援する汎用CADソフトウエアです。

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評価版(トライアル)

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