JDNレポート Vectorworks活用事例

株式会社エキスポインターナショナル
中来田 秀之

JDN「ジャパンデザインネット」2019年12月19日掲載

JDNレポート Vectorworks活用事例

株式会社エキスポインターナショナル
中来田 秀之

連載シリーズ「Vectorworks活用事例」では、設計に携わる方々に空間をつくる上で欠かせない設計ツール「Vectorworks」をどう工夫して使っているか、お話をうかがってきた。

今回フォーカスするのは、展示会や見本市、イベントに特化した空間づくりのプロフェッショナル集団、株式会社エキスポインターナショナル。「東京モーターショー」や「ツーリズム EXPO JAPAN」、「FOODEX JAPAN」など国内最大級の展示会から、同社の強みでもある海外企業との密なコミュニケーションを活かし、日本企業の海外出展のサポートまで多く手がけている。

そんなエキスポインターナショナルが展示会・見本市の空間づくりにかける想いや、設計におけるVectorworksの活用方法などを、取締役 企画部部長の中来田秀之さんにお話をうかがった。

「展示会」を舞台に、世界をかけ抜ける。エキスポインターナショナルの空間づくり

グローバルな視点が強みの「エキスポインターナショナル」

そもそも、展示会や見本市とひとくちに言っても、開催規模はもちろん、食品やロボティクス、観光産業、エンターテインメントなどさまざまなジャンルのものが全国各地で開催されている。展示会場で有名な東京ビッグサイトや幕張メッセなどでは毎日のように展示会が行われ、新しいビジネスが生まれている。そんな人と人、ビジネスとビジネスをつなぐ場をつくりあげているのがエキスポインターナショナルだ。

創業から35年、手がける展示会・イベントは年間100件以上。展示会へ出展する企業や政府機関のサポートだけでなく、運営事務局の代行やイベントの主催など、エキスポインターナショナルの業務は多岐にわたる。プランニングから設計、デザイン、施工、時には展示会自体の運営まで、決してぶれることのないハイクオリティなサービスを提供し続け、世界中のクライアントからの信頼も厚い。依頼のリピート率が高いのもその証拠だ。

当社は、社名に「インターナショナル」とある通り、海外との取引を得意としています。国内企業が海外の展示会に出展する際や、逆に海外企業が日本の展示会に出展する際にも、創業当初から続く経験と実績からお仕事を任せていただいています。

また、当社には語学堪能な日本人スタッフだけでなく、外国籍のスタッフも多く在籍。8カ国もの言語に対応できますし、それぞれが出身国の文化的な価値観を持っていますので、より効果の高いサービス提供が可能です。

株式会社エキスポインターナショナル 取締役・企画部部長 中来田秀之さん

海外での強固なネットワークを持っていることも、海外案件に強い1つの理由。同社は、世界中の展示会で広く使われているディスプレイシステムを手がける、ドイツのオクタノルム社とパートナーシップを結んでいる。オクタノルム社は、世界55カ国にパートナー企業を有しており、パートナーメンバー同士の協力体制が築かれているそうだ。

オクタノルム製の「柱」や「梁」といった施工に欠かせない部材を、日本でいち早く導入しました。展示会の空間づくりに関わる人なら誰でも知っているであろう、有名な部材です。オクタノルム社との繋がりから生まれた海外ネットワークは、創業当初から私たちの業務基盤となっています。

さらに、より良い空間づくりのため、自社工場で新しい部材の設計から開発も行っています。例えば、オクタノルムはアルミ製の部材なので、アルミのテクスチャーが見えてしまうとブースのデザインによってはミスマッチになってしまうこともあります。当社では、オクタノルムの部材はそのままに、アルミの素材感を隠すための材料を作るなど、クオリティの高い空間づくりを追求し続けています。

個性豊かなパビリオンで盛り上げる、食の祭典「FOODEX JAPAN」

2020年に45回目を迎える、アジア最大級の国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN」。幕張メッセを会場に行われる同展示会は、世界中の食品・飲料メーカーらが出展し、毎年大きな賑わいを見せる。エキスポインターナショナルの仕事が光る現場の1つだ。

海外企業は、国ごとにパビリオンという大きなスペースを持っていて、その中に自国の食品メーカーや代理店のブースが軒を連ねます。アメリカのパビリオンだと、アメリカの企業が60~70社ほど出展していますね。出展企業数は、国によってまちまちです。

FOODEX JAPAN アメリカのパビリオン(パース)
FOODEX JAPAN アメリカのパビリオン(図面)

当社では毎年、複数の海外政府機関から依頼を受け、パビリオン全体の設計から運営管理まで行っています。各国からは「こんな感じにしたい」と要望が来て、それに応じてイメージとレイアウトを固めていきます。例えば前回のカナダのパビリオンは、従来からのカナダのイメージを踏襲しました。木目などのナチュラル素材で表現し、特に天井のグリッドには力を入れました。各社の間仕切にはイメージフォトとカナダのカエデのマークを使い、より国自体の魅力をストレートにアピールしています。

FOODEX JAPAN カナダのパビリオン(パース)
FOODEX JAPAN カナダのパビリオン(実際の完成写真)

メキシコのパビリオンは指定のロゴがあったので、デザイン的にはそこに使われている色を使って全体のカラーリングを決めました。あとは木目の自然なイメージで南米らしさを表現しています。出展社が多く、カテゴリーも決まっているので効果的な動線作りからの作業でしたが、パビリオンとしての一体感も重視しました。それぞれ、その国の個性を大切に、特徴あるデザインに仕上げます。

FOODEX JAPAN メキシコのパビリオン(パース)
FOODEX JAPAN メキシコのパビリオン(実際の完成写真)

ドイツはドイツ出身のスタッフが担当、南米出身のスタッフはブラジルやメキシコといった国を担当することが多いです。みなそれぞれの国の文化に精通しているので、より的確な提案ができるのは当社の強みですね。

「FOODEX JAPAN」のイベントの施工期間は、なんと3日間しかないんです。しかも3日目は各企業が展示物や商品を持ってきて展示を始めるので、実質的には2日しか施工ができません……。電気工事や家具の入れ込み時間もあるので、施工は時間との勝負なんです。そのため、設計に関してもクオリティを保ちつつ、短い期間で施工が可能なよう、工夫を凝らした組み立て方法を考えています。

2020年3月開催の「第45回 FOODEX JAPAN」でも、アメリカやカナダ、メキシコなど10数か国のパビリオンを担当する予定です

  • 「第45回 FOODEX JAPAN」は、2020年2月26日発表の政府方針に基づき中止されました。

ユニバーサルなツールで確実にイメージを伝える

パビリオン全体のレイアウトやデザインが決まってしまえば、個々のブースのカタチは基本的に同じ。しかし、その1つ1つのブースにおいて「各社の要望を反映させていくこと」が何より大変なのだそう。

複数の国、複数の企業の準備を同時進行しますので、取りまとめには何より神経を使います。準備段階では、各国の企業から要望がどんどん入って来るんです。例えば「ここにこれを置きたい」とか。でも、実際に置けるスペースがなかったり、そこに置くと商品が見えなくなってしまったり、ということも多いんです。日本人同士で国内でのやりとりなら、電話でひとこと言えば解決するかもしれませんが、海外企業で、かつ時差もあるのでそう簡単にはいきません。

さらに、言語が堪能なスタッフが対応しているといえど、海外とのコミュニケーションなので、微妙なニュアンスが伝わりづらいこともある。そんな時は「入らないでしょ?」「商品見えなくなっちゃうでしょ?」と口や言葉で言うより、世界中の多くの国で利用されているVectorworksで実際に設計図やパースを描き、直接見てもらうことが確実です。海外とのやりとりに欠かせないコミュニケーションツールですね。

FOODEX JAPAN カナダのパビリオン(図面)。細かい箇所まで丁寧に説明が施されている

設計やデザインでは、Vectorworksを活用しているエキスポインターナショナル。以前は、手描きでパースや図面を起こしていた中来田さんは、その便利さについて語る。

我々の仕事は、変更も多いし時間もない。いちいち平面レイヤーを修正して、立面修正して、3Dを修正して……とやっていると、時間のロスになりますし、ミスも増えてしまいます。Vectorworksで3Dをつくっておくと、3Dデータを修正するだけで、平面も立面も同じように修正されるんです。昔は1つ1つ直していたので、それがストレスなくできるのはいいですね。

また、国内案件の場合は、木工造作や電気工事に携わる協力会社などに施工に関する発注を行う際、Vectorworksのデータをそのまま渡しているんです。我々が図面データを送ると、その図面の上に先方が照明の位置や配線などを書き込んでくれる。スムーズに施工についてのやり取りができるのは、とても便利です。

ビジネスの視点から、空間の主役を考える

展示会は、短期間で多くの来場者を集めるだけに、新たなビジネスが生まれる場所として期待されている。限られた期間とスペースの中で、効果的な空間を作り出していくにはどうすればいいのだろうか。中来田さんは、展示会という場の面白さについて語る。

展示会がお店と違うのは、短時間で色々なブースの会社を回ることができること。それが良さでもあるのですが、逆に考えると、じっくり腰を据えるような場所ではないんです。だからこそ、目を引くような空間づくりが必要です。

しかし、それ以上に大切なのは、展示会の主役は何なのか、という視点です。それはもちろん、商品であり、その商品を売る人ですね。ブースの色や形状、インパクトばかりを重視して、ビジネスとしての機能性が失われてしまうようなことがあってはなりません。展示会には、商品・展示を見に来て、商談する、という一連の流れがあります。この流れがスムーズに進むように、あくまでも商品や売る人のことを第一に考えながら設計を行っています。

例えば、商品が通路からきちんと見える位置にあるか、アテンドする人が立つスペースはきちんと確保されているか、商談スペースに行くまでの道のりが複雑になっていないか、商談スペースは過ごしやすい空間になっているかなど……。もちろん、お客様の要望は優先して取り入れますが、こちらから提案を行う際には「御社の製品を活かすには、こう見せていけばもっと効果的です」と、デザイン面だけでなく、ビジネスの視点で一歩先を見るように心がけています。

また、スペースや使用できる材料、施工期間も限られていますので、その中でいかにクオリティの高い空間を生み出せるかは、私たちの腕の見せどころです。制約が多いのは難しいことですが、それが展示会という場所づくりの面白いところですね。

密なコミュニケーションが必須な海外事例

エキスポインターナショナルは、2019年の4月に開催された、デジタルやAI、各種産業の最新技術などが一堂に会するドイツの「HANNOVER MESSE 2019」にて、川崎重工業株式会社の出展ブースを手がけている。

「HANNOVER MESSE 2019」川崎重工業株式会社の出展ブース(実際の完成写真)
「HANNOVER MESSE 2019」川崎重工業株式会社の出展ブース(ワイヤーフレーム)

クライアントからの最大の要望は「川崎重工業という企業名を世界にアピールしたい」ということでした。それを受けて当社のデザイナーは「イノベーショングリッド」という先方のブランディング戦略である平行四辺形のコンセプトを、どうブースデザインに取り入れ具現化するかという点からスタートしました。その上で、デザインコンセプトとして「スタイリッシュ性」「先進性」をイメージさせるかがポイントとなりました。

クライアントが扱う分野が多岐にわたり、ブースの中にさまざまな担当部署が共存するなか、企業としての統一感を保つために明確なゾーニング分けや壁面などによる仕切りをつくらないようにしました。そのため来場者動線については何度も試行錯誤を繰り返しましたね。

海外の展示会の場合は、準備期間が1週間と長いものも多いので、鉄骨を組んでより本格的な設計が可能です。川崎重工業様のブースは、空間を存分に使用した2階建て。2階部分に商談スペースを設けました。

3Dデータを活用し、さまざまな角度からブースの見え方を確認
「HANNOVER MESSE 2019」川崎重工業株式会社の出展ブース(イメージ立面図)

海外展示会の施工は現地の会社が担当。日本国内の施工に比べると、より的確な指示や、現地の知識が非常に重要になってくる。

海外の企業って、国内の企業ほどは気を遣ってくれないんです(笑)。「図面に描いてなくてもわかるだろう」という当たり前なことでも、向こうからすれば「図面に描いてなかったから作っていないよ」なんてことが起きてしまう可能性があるんです。なので、とにかく要望はできるだけ具体的に、正確に伝えることに注力していますね。

壁に貼るグラフィックの出力も現地企業で行いますので、グラフィックのサイズや設置場所、貼り方など図面はとにかく細かく描いてます。場合によってはスケッチを描き、よりわかりやすくなるよう指示を出しています。

画像キャプション

現地で入手できる素材についても、きちんと把握しておかなければなりません。日本で簡単に入手できる素材でも、現地では非常に高価だったりします。しかも、10cm角の柱を使ってもらう指示をしたのに、現地に20cm角の柱しかないなんてことも多いにあり得ます。「20cmの柱しかないけど、どうしますか」ときちんと確認してくれる場合もありますけど、そのまま誤ったサイズの柱で施工が進んでしまうことも……。なので、密なコミュニケーションは欠かせません。

日本企業が海外での出展を行う際は、そういったトラブルが不安の種なのだと感じています。なので、海外案件の豊富さ、現地ネットワークの連携の強さ、安心の対応力で今後も当社をアピールしていきたいですね。

それでも、海外の展示会へ出展する日本企業はまだまだ少ないのだそう。中来田さんは、海外出展を考えているお客様へ積極的に声をかけ、多くの企業をサポートしていきたいと語る。そんな提案の場でも、Vectorworksは欠かせない。

プレゼンテーション資料は、今まで別途Illustratorで作成していたんですが、Vectorworksのデータがそのまま利用できるのはとても便利です。時間短縮にもなり、ずいぶん楽になりましたね。

提案の際は、紙に印刷したものを持っていったり、PDF形式にしたものをプロジェクターで映したりすることが多いです。最近は、ウォークスルームービー(実際の空間を歩いているように見える動画)や、ブースを回転させて見せる際に、Vectorworksのアニメーションを活用するようになりました。より効果的なプレゼンテーションを行うためにも、今後はもっとアニメーションを活用していきたいです。クライアントに提案する際に「青色の場合はこう見えて、黄色の場合はこう見えます」と、その場で色を変えたりはぜひやってみたいですね(笑)。

人と人をつなぐ場として、展示会をデザインしていく

実は、かれこれ20年前くらいから「展示会はなくなるだろう」と言われていたんです。インターネットが普及して、お店や展示会に足を運ばなくても物が買える時代ですから。リアルに、インターネット上の展示会が開かれるなんてこともありましたね。でも、展示会は今でも多く開かれ、変わらぬ賑わいを見せています。展示会の良さはやっぱり「face-to-face」なところではないでしょうか。人と話して、実際に商品を見て……そういうビジネスの良さはきっと変わらずに存在し続けると思います。

それでも、展示会のカタチや商品の見せ方は変わっていくと思います。

目を引く見せ方と言えば、昔はターンテーブルに商品を乗せたりしていましたが、今はライトや映像を上手く使って、モニターやスクリーンに映し出したりするのが主流になってきました。今は透過性のスクリーンもあるので、デザインの幅もより広がっていくのではないかと感じています。

今後は、プロジェクションマッピングや、壁に映像を写して触れば反応するようなアトラクティブな見せ方も出てくるのではないかと思います。お金をかけたイベントで最初は使われ始めていき、それがだんだんとリーズナブルになっていけば、展示会でも多く使われるようになる。そういう流れはあるかもしれません。

当社も業界を盛り上げるためにも、そういった最新の技術やトレンドにもアンテナを張って、取り入れていきたいと思います。

中来田 秀之(なかきた・ひでゆき)

株式会社エキスポインターナショナル 取締役 企画部部長

  • 取材・文:室井美優(Playce) 撮影:高比良美樹 編集:石田織座(JDN)
  • この事例はJDNの許可により「ジャパンデザインネット」で2019年12月19日より掲載された記事をもとに編集したものです。
  • 記載されている会社名及び名称、商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様、サービス内容等は予告なく変更することがあります。

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