JDNレポート Vectorworks活用事例

UDS株式会社 高宮大輔 ・ 安藤数保
有限会社ソラ・アソシエイツ 藤田久数 ・ 塩井弘一

JDN「ジャパンデザインネット」2016年9月5日掲載

JDNレポート Vectorworks活用事例

UDS株式会社 高宮大輔 ・ 安藤数保
有限会社ソラ・アソシエイツ 藤田久数 ・ 塩井弘一

「カスケード原宿(CASCADE HARAJUKU)」は、表参道から一本奥まった敷地にある食の複合施設。幾何学的な形状をもつ建物は開放感に溢れ、中央には建物4階にわたる吹き抜けがある。

第9回 International Design AwardsのArchitecture/Landscape部門金賞受賞、JCDデザインアワード2016 BEST100 にも選ばれ、国内外からの注目を集めている。企画・設計、ランドスケープ・照明を担当した4名に、施設の特徴やVectorworksの活用状況についてうかがった。

内と外がシームレスにつながる新しい空間-カスケード原宿

文化のなかったエリアに新しい食の施設を発信

高宮大輔さん(以下、高宮):JR原宿駅徒歩2分。表参道と竹下通りに抜ける2本の道路につながり、どちらからでもアクセスできる好立地。カスケード原宿(CASCADE HARAJUKU)は、そんなポテンシャルの高い場所に位置しています。ところが、プロジェクト開始前は周辺に目的施設が少なかったため、大通りから一本奥まった場所なので人通りが少ないという現実がありました。ですが、現地を訪れたときにまず感じたのは、環境の利を生かせば新しい文化の発信地となり得るチャンスのある場所ということでした。

クライアントは、当初はオフィスを中心とした施設も検討されていましたが、「単体目的となるオフィスビルや建物ではなく、きちんとコンセプトを立てて、その場所から何かを発信するくらいのインパクトがある施設をつくるべきでは」とお話ししました。クライアントにとって新規事業となりましたが、商業中心の複合施設をあえて提案したところ受け入れていただき、ブランディングやサイン計画なども含めた、企画の段階から関わることになりました。

カスケード原宿(撮影:ナカサアンドパートナーズ)

いびつで高低差のある敷地に“新しい道”と“顔”をつくる

高宮:商業施設は、路面に対してどれだけ“顔”が見えているかで、お客様を引き込む力が変わってきます。しかし今回の敷地は、接道距離に対して奥行きがあり、かつ特徴のかなりある不整形な形状をしていたため、大事な“顔”が狭くなってしまうことが大きな課題でした。さらに、土地の高低差は約4m。表参道側は1階レベル、竹下通り側は地下レベルと分断されていて、「向こうに行きたいのに、スムーズに行けない」というストレスが生まれていました。そこで、設計よりも先に考えたことは、施設の中に“新しい道をつくる”ことです。お客様がゆるりと道を歩いている延長で、いつの間にか施設の敷地内に入ってしまうような道。敷地内に生まれる新しい道にも“顔”をつくることでお客様が集まり、にぎわいを彷彿するようなさまざまなプランを考えました。

安藤数保さん(以下、安藤):設計は、“新しい道”を中心に進められました。1階から地下へ続く大きな階段を降りると、中央にサルスベリの巨木がある中庭があります。そこから、竹下通りへ抜ける道は、テナント専用スペースにもなる通路です。こうして、高低差を生かした道が生まれました。大きな階段はゆるやかに降りてこられるように、そして中庭は3階まで吹き抜けにすることで、見上げるとすべてのテナントの入口、つまり“顔”が見えるようになっています。また、中庭を囲むように各階にはテラスが巡っていますが、これも人々のにぎわいが感じられるようにと設計しました。複雑な形状の敷地という条件のもとで、吹き抜けが課題解決の唯一の方法でしたね。

好立地だが、高低差約4m(右上の図面)ある不整形な敷地
地下から竹下通りへ抜ける通路。テナント専用のスペースになっている(撮影:アック東京)

インテリア、エクステリア、テラスをつないでシームレスな空間に

藤田久数さん(以下、藤田):私たちソラ・アソシエイツが参加したときは、すでに建築のボリュームやおおよその骨格はできていました。建築設計を見たとき、とてもワクワクするものを感じましたね。おもしろい立地、形状、建物、それらをランドスケープとライティングの力でさらに活性化したい。外気に心地よく触れられるような空間に展開できないだろうかと考えました。

塩井弘一さん(以下、塩井):意識したのは、インテリアとエクステリア、テラスをつないで、敷地や施設の内と外をシームレスな関係にすることです。例えば、テラス照明には、ふだんは部屋の中を照らすために使うスタンドタイプを採用しています。これをあえてテラス空間に連続して置くことで、内と外をあいまいにしました。また、吹き抜け部分を中心とした立体的な建物形状を生かすために、吹き抜けの周囲にスタンドライトを配置して、上階へと導く効果も演出しています。

塩井:それから、外気を感じるアイテムとしてグリーンは欠かせません。今回の計画においては、刺激的で人を呼び込むパワーが絶対に必要だと思ったので、植栽選びにはかなりこだわりました。見た人が「なんだこれは!?」と驚いてしまうような樹種であったり、形が変わっていたり、足元にふわふわした植物やもっさりした植物を選んだり……。これほどに多品種でパワーのある植栽計画はなかなか見られないと思います。

高宮:建築だけでいくら頑張ってもいいものには仕上がらないんです。与えられた環境と一体化するランドスケープ、それらを相乗させる照明計画などが組み合わさって、インパクトのある施設ができ上がる。ソラ・アソシエイツさんなしでは成り立たないプロジェクトだったと思います。

施設の至るところにある多品種の植栽は見どころのひとつ(撮影:ナカサアンドパートナーズ)

不整形な敷地だからこそ本領を発揮したVectorworks

Vectorworksが各階のランダムに重なる積層テラスを生んだ

高宮:カスケード原宿は、Vectorworksでなければ実現できない計画でした。まさに、Vectorworksが生んだデザイン計画だなとあらためて思います。というのも、中庭から見上げた各階の形状は似ているようで、実はテラスの角度を各階で微妙にズラした設計になっています。当初の計画では、まっすぐな形状で進めるつもりだったんですが、Vectorworksの画面上で角度を振りながら検討したところ、各テナントのスペースの広がり感が増すうえに、上の階から見下ろしたり、中庭から見上げたりしたとき、路面店のように各階のシーンが抜けて見えることに気づいたんです。お店の入口前のテラスに看板を置くのもひとつの演出ですが、それよりも、そこでお客様が美味しいそうに食べている姿が積層されるシーンのほうが、とにかく刺激的です。この建物の一番の目玉になるとクライアントに提案しました。

こういった“空気感”を相手に伝えるのに、Vectorworksは優れていますね。他のCADソフトも使うことがありますが、このような表現は難しいです。企画の段階から、クライアントとの検討資料として利用できるので、Vectorworksはある意味コミュニケーションツールとも言えます。

(左から)安藤数保さん・高宮大輔さん(UDS株式会社) 塩井弘一さん・藤田久数さん(有限会社ソラ・アソシエイツ)

2社間で共通ソフトを活用し、手間を省いて効率アップ

安藤:チーム内で共通のソフトを使うことにもメリットを感じています。弊社もソラ・アソシエイツさんもVectorworksを利用しているので、今回も図面データのやりとりを2社間で頻繁に行いました。Vectorworksは、特に色付けの表現が優れていますし、透明度や線の種類の調整などが共有できるため、塩井さんが綺麗に仕上げてくださった図面をそのままプレゼン用の資料として使える点も良かったですね。他のCADソフトでやりとりをすると、線などの整合性がとれず、プレゼンの度に手直しをして、プレゼン用と設計用の資料を分けて用意しなければなりません。ストレスなく進められ、大幅な効率化が図れたことはよかったですね。

塩井:Vectorworksは、表現力も圧倒的に優れていると思います。例えば、床に採用した木質調のタイル。建物もある意味、幾何学的な形状をしているので、藤田さんが「じゃあ、タイルの配列も幾何学的に仕上げよう」と提案したんです。Vectorworksなら、タイルを取り込んでテクスチャを図面に貼るだけで、試してみたいことをすぐに表現できます。スピーディーにデザインを進められるため、時間を最大限に活用できるのは嬉しいことです。

藤田:「ここをもう少し修正して」とお願いすると、一瞬で仕上げてくれます。リアクションが早くてありがたいですね。

吹き抜けに面している各テナントの入口にあるテラス(撮影:アック東京)
プレゼン用資料にもなる平面図

机上で実作業を検討できるのも大きなメリット

高宮:テラス感を大事にしたかったので、植栽にもかなりこだわりましたが、この計画にもVectorworksを大いに活用しました。テラス感を出すには、施設に自然をどう織り込むのかが重要なポイントになります。とはいえ、限られたスペースのため、大量に緑地帯をつくれるわけではないので、最少で最大のインパクトをどうやったら与えられるのかを考えていきました。

さまざまな工夫を凝らしましたが、そのひとつに“緑量感”を味わえる演出があります。人は両サイドから囲まれたグリーンの中を抜けたときに、体感的に緑量を味わえるものだと考え、あえてひん曲がった形の木を探してゲート状にし、人がこの中をくぐり抜けられるような計画にしました。その表現も図面上で行い、クライアントや施工者とイメージを共有していきました。一番苦労したのは、中庭に植えた3メートル程度の一本の大きなサルスベリです。あまりにも大きかったため、施設前の道路幅や施設の通路幅を考えると運び込みが難しかったのですが、Vectorworks上で細かく寸法を追いながら、「これなら通せる」という方法を探っていきました。机上で検討したことが実作業のプロセスにうまく生かすことができ、安心しましたね。このVectorworks上の検討がなければ、すぐに「無理!」となっていたでしょうから。

地下と1階平面図

最高のメンバーと一緒に進めたい

安藤:大通りから一本奥まった敷地にも関わらず、日本初出店の3店舗を含む魅力的なテナントにこの場所を選んでいただきました。中には現地を内覧した際に入居を即決されたテナントもあると聞きました。直接的な評価ではないかもしれませんが、「ここなら、出店してもいい」と思っていただけたことには間違いないと思うので、とても喜ばしい結果でした。

塩井:これまでさまざまな物件に携わらせていただいていますが、今回の計画ほど小さな単位のランドスケープには関わったことがありませんでした。ランドスケープデザインをしているというよりは、インテリアデザインを考えているような感覚でした。ランドスケープやインテリア、エクステリアの領域を超えた、新しいジャンルの可能性を見いだせた事例になったのではないかと感じています。

藤田:一般的には人が歩く場所に覆いかぶさる樹形は避けるようにオーダーを受けることが多いので、今回のような樹木配置は独特だと思います。でも、だからこそ原宿らしさのある、この場所ならではの回答が出せたと、今は思っています。

高宮:僕は、カスケード原宿の内装監理室業務にも関わらせていただいたこともあり、今もテナントの皆さんとつながりがあるのですが、そもそも企画の段階から一緒に携わっているテナントの方もいらっしゃいます。全体設計者とテナントとの関わり合いが、これまでとは変化してきているのを感じます。形状は違うかもしれませんが、また同じメンバーで一緒に新しいものをつくりたい。そして、その動きが社会的に評価されるような意義深いものになるといいなと思いながら、日々邁進しています。

3メートルもある中庭のサルスベリ(撮影:アック東京)
高宮大輔(たかみや・だいすけ)
UDS株式会社 COMPATH General Manager

千葉大学大学院卒業後、2001年都市デザインシステム(現UDS)入社。株式会社コプラスを経て、現在はUDS COMPATHのGeneral Managerを務めている。商業・宿泊施設から住宅まで幅広いジャンルの建築設計・空間デザインに携わり、近年では家具デザインを手掛けるなど、多岐に活動している

安藤数保(あんどう・かずほ)
UDS株式会社 COMPATH designer

千葉大学大学院卒業後、2001年都市デザインシステム(現UDS)入社。株式会社コプラスを経て、現在はUDS COMPATHのGeneral Managerを務めている。商業・宿泊施設から住宅まで幅広いジャンルの建築設計・空間デザインに携わり、近年では家具デザインを手掛けるなど、多岐に活動している

藤田久数(ふじだ・ひさかず)
有限会社ソラ・アソシエイツ 代表 ランドスケープデザイナー

1980年照明デザインのLDヤマギワ研究所入社。1993年自然光が生み出す景色に魅せられALS景観デザイン研究所設立に参画。ランドスケープデザイン、環境アートを担当。1998年照明デザイナーの川村和広とソラ・アソシエイツを設立。個人邸から再開発まで広範囲にプロジェクトを手がけける。主なプロジェクトに「山梨県立博物館」「パレスホテル東京」「新宿イーストサイドスクエア」などがある

 
塩井弘一(しおい・こういち)
有限会社ソラ・アソシエイツ ランドスケープデザイナー

2007年ソラ・アソシエイツ入社。公共施設、商業施設から住宅まで幅広いジャンルのランドスケープデザインに関わる。主な担当物件に「新宿イーストサイドスクエア」「国立科学博物館 筑波研究施設」「JR神田万世橋ビル」などがある

  • この事例はJDNの許可により「ジャパンデザインネット」で2016年9月5日より掲載された記事をもとに編集したものです。
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