有限会社サムコンセプトデザイン一級建築士事務所
小規模事務所こそBIMの活用を!建築からインテリアまで
住宅、共同住宅、商業施設や医療施設など、声が掛かった仕事は断らないのがポリシー。待機児童対策としての保育園に携わった事がきっかけで園舎設計にハマる。子どもの自立にとって建築がどう関わるべきかを自身の子供と照らし合わせながら思考している。
有限会社 サムコンセプトデザイン 一級建築士事務所
MiniCadとの出会い
大学の研究室にあったMacintosh II fx。そこにMiniCadのバージョン3がインストールされていた。自由に拡大縮小ができ、紙上の縮尺という概念のないCADに一瞬にして魅了された。
その後設計事務所に就職。CAD導入に関わることとなり、そこからVectorworksを使った設計活動がスタートした。
2D CADとしてのVectorworks
多くの設計者と同様、Vectorworksを長らく2D CADとして活用してきた。
反復図形が多い建築設計図面では、手描きに比べて圧倒的に2D CADは効率的で、単に成果物としての二次元図面作成だけであっても導入効果は絶大であった。またそこへ至るスタディやプレゼンテーションにおいて、他のソフトを介在させずに完結できるVectorworksの強力な2Dグラフィック機能に多いに助けられた。
他のCADでは、今だに塗りつぶしやハッチングをかけるのも一苦労するようであるが、Vectorworksには当時からグラフィック専用ソフトに負けない表現力を持ち合わせており、2D機能とプレゼンテーション機能で、設計活動を支えてきてくれた。

BIMのきっかけ
BIMの導入は2013年に設計した認可保育所「港北チャイルド園」だった。行政からの補助金を受けた「公共工事」の扱いで、提出する図面資料も民間プロジェクトに比べ圧倒的に多くなることが想定された。
建築設計は常に「変更作業」の連続と言えるが、一箇所の変更が多くの関連図面に影響するため、従来の2D CADによる作業ではどうしてもケアレスミスが発生する。しかし入札が絡む保育園の場合、たったひとつの図面上のミスが致命傷となり、設計上の「事故」に繋がる。そこで、従来の2D主体の設計手法ではなく、3Dモデルを作成し、そこから図面を取り出すBIMのワークフローに挑戦した。ほぼ一人で設計している身として、「ケアレスミスの発生」というストレスから抜け出すためにもBIMの可能性に懸けてみたのである。
果たして、BIMモデルから全ての図面が一斉に自動修正・反映される事はこれまでの設計スタイルを大きく変えた。ただ、戸惑いもあった。2Dワークフローでは図面のできあがりが目に見えるため、作業のペースをつかむことが容易であった。しかし、BIMでは当初は3Dモデルを作成することがメインとなるため、その後の図面作成にどの程度時間がかかるのかがわからず、スケジュールに対する焦りがあった。

BIM活用の現状
BIMを導入して3年が過ぎたが、以前に比べ飛躍的に業務が効率化し、手がけられる物件数が増加した。2Dワークフローでは年に住宅3件程度が限界であったが、今は更にインテリア設計も5〜6件、また保育園を2年に1件こなすことができるようになった。これを実質一人で動かしている。
これまでは、
- スタディ :2割
- 基本設計:3割
- 実施設計:5割
の時間配分だったものが、BIMの導入により図面作成が圧倒的に効率化し、実施設計は全体の2割程度で済むようになった。その分スタディに、より多くの時間を費やすことができ、建築を作り上げる上で最も重要な「思考」するという事に、より集中できる変化は想像以上に大きい。
周辺環境・敷地も含めた3Dモデルで光もシミュレートし、その空間をリアルタイムで動かしながら打ち合わせをする新しい設計スタイルは、コンピューターを利用した理想的な時代が来たと実感させる。更にその3Dモデルから自動的に書き出される図面を見ると、本来「図面作成」が設計ではなく「空間を考える」ことこそが本来の設計であることに気が付かされる。

インテリアもBIMで
建築設計だけでなく、インテリアデザインにもBIMを取り入れている。
ある物件では壁面仕上げで札幌軟石を2000個乱積みしたが、それを実際に使う9種類の3Dパーツを組み合わせて表現した。施主と施工者に単なるイメージとしてのCGではなく、図面と連動したBIMデータからの具体的なイメージを呈示できる意義は大きい。Vectorworksはもともとインテリアデザインの分野で圧倒的なユーザベースを持ち、大規模商業施設等の内装監理室のほとんどがVectorworksを使用しているため、インテリア分野でのBIM活用は、もしかしたら建築よりも普及スピードが早いかもしれない。


今後の展望
私のような個人・小規模設計事務所こそ、BIMの活用が大きな役割を果たすと考えている。特にVectorworksは、部材などをプリセットされた限られたツールからしか作れない他のBIMソフトとは違い、汎用性の高さによりさまざまなアプローチで作ることが可能で設計者の意図を反映させやすい。しかしその分、ノウハウや暗黙知が共有されづらい事も確かである。
今後は、先進的ユーザが互いに自身の使い方を情報交換できれば、さらにBIMの活用が普及すると考えている。現在もBIMlogというサイトがあるが、こういった場をもっと活用していきたい。そのためにはソフトウエアベンダーの協力も必須となる。機能強化だけでなく、使い方の面でも大きなサポートを期待したい。




泉 俊哉 氏
経歴
- 1968年 横浜生まれ
- 1991年 日本大学 生産工学部 建築工学科 卒業
- 1991年~ プランテック総合計画事務所
- 2000年 サムコンセプトデザイン一級建築士事務所設立
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