ユーザ事例 & スペシャルレポート

大分県立芸術文化短期大学 美術科 デザイン専攻は、平成25年度より「ビジュアルデザイン」「メディアデザイン」「プロダクトデザイン」の3コース制に再編されました。1年生の前期で全ての基礎課程を学び、後期以降はコースに分かれ、時代の要請に合わせた工業的な進歩も取り入れながら専門分野で高度な技術と知識を深めています。

今回、プロダクトデザインコースを担当しVectorworksや3Dプリンタを活用した実践的な授業に取り組んでいる専任講師の松本康史(まつもと やすし)先生にお話をうかがいました。


-美術科 デザイン専攻の特徴と製図やCADのカリキュラムについて教えてください。 -

短期大学ですので2年間で学ぶということが特徴になります。美術科 デザイン専攻では1年生の前期は、横断的に全員が基本的な図法を習得するために簡単な手描きから始めます。コースに分かれる後期から、プロダクトデザインコースではCAD(Vectorworks)による基本的な製図を2Dで学び、選択授業で3DCAD(Rhinoceros)を学びます。2年生はデザインプロセスの各局面で必要に応じて図法を確認しながらCADも修得して卒業制作につなげていきます。デザイン専攻の定員は50名でその3分の1がプロダクトデザインコースに進んでいます。

-どのようなことを目標に製図やCADを教えていますか。-

CADや3Dプリンタなどデジタルを活用すると同時に、スケッチやモデルなどアナログで手を動かしながらつくっていくことにも重視した教育を行っています。そして2年間で、①基本的な図法を理解すること、②基本的な図法を基にプロダクトデザインに関する製図を2次元のCADで描けること、③3DCADの基本的な機能を使用してイメージを具現化できることの3つを到達目標として取り組んでいます。図法で戸惑ってしまう学生もいますから、最初はCADを使わず、自分がデザインしたものを方眼用紙に三面図で描くことから始めて、徐々にステップアップしながらCADも修得していく流れとしています。

-手描きやCAD(Vectorworks)の授業内容を教えてください。 -

1年生前期の手描きの授業では、デザイナーとつくり手の共通言語となる図面を描くトレーニングをしながら基本的な図法を教えています。例えば、「握るもの」といったテーマからイメージしたものを粘土やスタイロフォームで造形して使いやすさやスタイリングの検証を行い、その造形物を2次元の図面(三面図)に置き換えています。プロダクトデザインの分野では先に物体をつくることはスタンダードな手法で、先に「もの」があるので図法も教えやすいです。1年生後期のCAD(Vectorworks)の授業では、いくつか制約は設けますが「座るかたち」というテーマで自由にデザインをさせています。とはいえ、イメージしたデザインをすぐに図面に置き換えるのは難しいので、まず5分の1のスケールモデルをつくっています。授業ではデザインを決定するまでに何枚もスケッチを描かせますし、スケールモデルも何個もつくるので、最終的にデザインを決めてCADで図面化する段階で、学生はデザインや構造を理解していることもあって比較的図面化しやすくなります。

-デザイン教育のなかでのCADの位置づけは?-

デザイン教育のなかでCADは不可欠です。特に3Dデータは、3Dプリンタを活用すればそのまま「もの」になりますから、イメージを具現化するための共通言語として、これからは2次元の図面以上に重要になってくると思います。本学では1年生後期の選択授業「デザイン表現演習」で3Dを教えています。この授業では、アプリクラフトのRhinocerosを使ってモデリングの基礎を学ばせています。短大を卒業した後2年間学べる専攻科では、RhinocerosとVectorworksの3Dを教えています。年によって違いはありますが、専攻科には短期大学卒業後約半数の学生が進んでいます。

-3Dプリンタはいつごろから活用しているのですか? -

本学にプロダクトデザインのコースができたのが5年前ですが、その時に3Dプリンタも導入しました。3Dプリンタを活用するには、当然ですが3Dデータが必要になります。3DCADを使ったモデリングは、当初はかなり高いハードルでしたが、そこも徐々に克服できてきました。短期大学では3DCADの授業でつくった簡単なモデルを3Dプリンタで出力して、デジタルファブリケーションの基礎を体験させています。専攻科では、短大2年間の積み上げとしてさらに専門性を深めますので、デザインプロセスに沿って課題を進めながら、3Dプリンタで出力した試作モデルを使ってもう少しいろいろな切り口でデザインの検証をしています。最終的なものをモデリングして出力して終わるのではなく、デザインプロセスの途中で3Dプリンタを活用することがデザインを検討する上で有効になります。ですから、学生にはどんどん使わせたいと考えています。

-3Dプリンタ活用のメリットは? -

3Dプリンタで出力することで、模型とはいえパソコンの画面上でしか見られなかった3Dモデルを実際に手に取って見ることができるので、完成イメージがしやすくなるというメリットがあります。さらに、出力したモデルで機能やデザインの検証が可能になり、その結果を反映しながら検証を繰り返すことで、より質の高いデザインを目指すことができます。そして、従来の工法、例えば金型を使ってプラスチックで成型するような方法では、現実的でなく不可能であったデザインの具現化が可能になる点も大きなメリットだと思います。今後、3Dプリンタと3DCADの活用はプロダクトデザインの分野ではますます重要になってくると考えています。専攻科ではさらに3Dプリンタの活用を充実させていきたいと考えていますし、短期大学では2年間でどのように取り入れて成果をあげていくかが今後の課題です。

-3Dプリンタを使った特徴的な授業はありますか? -

専攻科1年生の「造形研究」という授業で、型からものをつくるプロセスを体験させています。この授業では、曲げ木の技術である成型合板の家具を自分でデザインしてつくります。週4日間2コマ続きで前期の半分を使った授業ですが、型の制作からすべてVectorworksの3Dで進めていて、最終的にモデリングしたデザインを3Dプリンタで出力したものがスケールモデルになります。成型合板の家具をつくるプロセスを通して、デザインに必要なCAD製図やデジタル演習の要素も包括できるような授業構成にしています。普通の仕事の進め方としてはデザイナーが型までつくることはないのですが、型の制作を知っていることを前提としたものづくりはちょっと違いますし、実際に体験することはものづくりではすごく重要だと考えていますので、この授業で体験させています。

-今後取り組みたいことは?-

3Dプリンタはプロダクトの世界では実際の素材の代替え品として使うケースが多いのですが、3Dプリンタで出力したものの質感など、例えば積層で現れる等高線などもひとつの素材として捉えた3Dプリンタの活用ということを考えています。その実現に一躍買ってくれるのではないかと思っているのが、1年生前期の集中講義「デザイン特論」という授業です。今年からの取り組みで授業はこれからですが、学生にはこの授業でデジタルファブリケーションについて理解して欲しいと考えていて、モデリングから出力検証までの体験ができるのではないかと思っています。そして、例えば、パーソナルなものづくりなどができることは3Dプリンタのひとつの特色でもありますし大きなメリットだと感じます。3Dプリンタの利点を最大限にいかしたものづくりを含めて、プロダクトデザインの可能性を探って行きたいと感じます。


ー取材を終えてー

取材を通して、プロダクトと建築では図法を教える手法に違いがあるように感じました。どんな分野にもおそらくスタンダードが存在するのだと思いますが、もしかしたら違う分野のスタンダードをあえて取り入れてみることは、今まで解決できなかった問題や新しい何かを生み出す糸口になるかもしれません。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

公立大学法人 大分県立芸術文化短期大学 http://www.oita-pjc.ac.jp/

美術科 デザイン専攻 専任講師 松本 康史 氏

(取材:2014年5月)

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