ユーザ事例 & スペシャルレポート

BIM(Building Information Modeling)は、大規模物件の設計・施工ではすでに活用がはじまっています。一方、小規模住宅での実例はほとんど目にする機会がないというのが実情です。「Vectorworks Architect 住宅設計のためのBIM入門 ベーシックマスター」では、Vectorworks Architectを使用して、小規模の住宅設計でBIMをどのように活用したのか、木造住宅を例にその手法が解説されています。

今回、「Vectorworks Architect 住宅設計のためのBIM入門 ベーシックマスター」の著者であり、Vectorworksの前身であるMiniCadから、長年Vectorworksをお使いいただいている、一級建築士事務所インターコアの代表である建築家の福田一志(ふくだ かずし)さんにお話をうかがいました。


BIMという言葉が出る前から3次元で設計し2次元化していた

-いつごろからBIMの活用を始めたのですか?-

PBIMという言葉は、2009年ごろにメディアや雑誌に登場しましたが、Vectorworksはその前身であるMiniCadの時から3次元表現ができたので、BIMという言葉が出る以前から3次元を活用していました。平面図を3次元化してデザインの検討を行って、それをまた2次元の図面にするという使い方です。3次元モデルから2次元の図面化はBIMでいうと図面の取り出しという機能です。その部分はかなり前からやっていましたが、BIMということを意識して取り組んだのは最近です。書籍で紹介した物件で、初めて仕上げ表や面積表なども含めてBIMを活用するとどうなるのかということに取り組みました。

ツールをどのように使うのが良いかという興味からスタート

-なぜBIMを取り入れようと思ったのですか? -

コンピュータのアプリケーションであるCADは、あくまでもツールです。そのツールがどんどん進化して身近になると、知的な好奇心としてどうやって使って行けばより良いか、という興味が生まれます。それがBIM活用のきっかけです。そして、ヴァーチャルな空間だとしても、頭の中で2次元の図面を組み立てて考えるより3次元の方が思い通りの検討ができます。BIMの活用は、今まで以上にデザインの検討が自由にできることが一番重要で、単なる効率化は目的ではありません。結果として2次元の図面や面積表が取り出せるなど、一から全てを描く必要がなくなることはBIM活用の副産物的なものと考えています。

テクノロジーの進化によって今まで以上のものができることが重要

-BIM入門で伝えたかったことは?-

技術的なテキストでは、必ず操作法の解説が主流になっていますが、今回の書籍はちょっと違う視点で書きたいと思いました。アルベルト・アインシュタインの「知性は方法や道具に対しては鋭い鑑識眼を持つが、目的や価値については盲目である」という言葉が大好きで、本の「はじめに」で引用しています。伝えたかったのはテクノロジーが進化してきた時、なんのためにその道具を使うのか、どのように使うのか、そして使った結果今まで以上に質の高いものができることが一番大切です。意外とその目的に気づかなくなって、早いとか便利だということだけになりがちです。今後もテクノロジーはどんどん進化するので、それを見極める目を持つことも非常に重要になります。

BIMの実務者だけでなく学校の教科書としてぜひ薦めたい

-どのような方に読んで欲しいですか?-

この本は、BIMの初心者向きですが、例えば、大学や専門学校などの4年制のCAD教育で、1年生で2次元、2年生で3次元と2年でVectorworksのテクニカルな部分は終了できると考えると、特に3年次からの学生のみなさんに読んで欲しいと思います。後半部分は設計事務所向きの実務という面がありますが、学生のみなさんは技術的な操作法を覚えるというより、Vectorworksを使って小さな家一軒をどのように設計しているのか、実際の仕事はどのように行われているのかを知って欲しいです。さらに、書籍の前半部分に関しては、「テクノロジーを教えることとその先に何があるのか」ということに対する思いも込めました。ですから、先生方にぜひ読んで欲しいですし、教科書として活用して欲しいです。

目的はつくることではなく情報が伝えられるかどうか

-実務でBIMを活用しづらい、あるいは難しいと感じる理由は何か?-

コンピュータやCADの出始めと同じで、BIMに関しても知らないことに対する恐怖心を持つのだろうと感じます。「BIMは設計の革新的な使い方で、一般的になると言われているけれど、本には難しいことが書いてあってついていけない」そう思っている方はかなり多いのではないでしょうか。ですが、情報という意味では、伝えられるかどうかです。BIMの考え方は実に論理的に整理されていて、必要な情報をどんどんつくり直すのではなく、足して行くことです。今までは描き直していた実施設計図面も、基本設計図面にどんどん情報を付加して精度を上げることができるという意味でBIMは非常におもしろいです。

基本設計から実施設計図面に仕様を置き換えられる壁ツールは強力

-実際にBIM活用で使いやすかったVectorworksの機能は?-

壁ツールが圧倒的に使いやすいです。そこからすべて派生できます。今までは、企画段階で考えた図面の精度を上げて行く時にCADで描き直していることが多かったのですが、壁ツールを使うと、基本設計図面から実施設計図面用に壁の仕様を置き換えることができます。これによって作業効率がものすごく上がります。その他BIM活用の基本ツールであるストーリは、複数階で明らかに不確定要素がある場合は使った方が良いと思いますが、階高自体が基本設計から大きく変わることは比較的少ないので、そこまで必要ではないかもしれません。スペースについては、図面だけでなく仕上げ表や面積表も取り出すことを考えると、BIMの機能としては効果的です。

付加して行く情報をきちんと選ぶことが重要

-BIM初心者へのアドバイスは? -

Vectorworksで基本的にはなんでもできますが、できることとやることをしっかり分けなくてはいけません。例えば、釘一本からつくることもできますが、そこに意味があるかどうかは問題です。最初にどんな目的でどうBIMを使うかということをはっきりさせないと、ただつくることだけに労力を使ってしまい、本来の質の高いものづくりにはならなくなってしまいます。特に付加して行く情報をきちんと選ばないと、むやみやたらにビックデータになるだけです。そこを考えて、コンピュータのスペックに合わせたBIMにすればいいのです。実践編については、これを使ったらものすごく効果があがったというひとつの例として見て欲しいです。技術的な面では最低限の操作手法は紹介しているので、十分参考になるのではないかと思います。

普通のことを普通に設計に取り入れることも必要

-執筆して感じたことは?-

本書を執筆して、空間をデザインする時、コンピュータに振り回されることなく、情緒的なものも含めて、普通のことを普通に設計に取り入れることも必要だろうと改めて感じました。そして、書籍の前半部分にこの本を書いた思いがあります。BIMはまだ始まったばかりですので、これからだと思います。使い方によっては、明らかに効率が良く、簡単になる部分もありますし、これからいろんな事例が出てくると思います。さらに、シミュレーションではいろんなシミュレーションがどんどんできるので、それを見極める目を持つことも必要です。

テクノロジーの進化とともに建築家の真価も問われる

-今後取り組みたいことは?-

知的好奇心という意味ではコンピュテーションに興味があります。そして、ひとつのソフトウエアで全てを完結しようという時代も終わっていくような気もします。また、デジタルファブリケーションも始まったばかりですが、どんどん展開しています。3Dプリンタも含めて、これからは仮想空間だけではなく現実空間での3次元化も加速していくと思います。空間に入った時に感じるアナログ的な心地よさとは違った世界がコンピュテーションとデジタルファブリケーションによって急激に表に出て来ています。CADの世界も、単なるCADツールを超えてきたのですごくおもしろくなってきました。ただ、より成熟した社会の中での環境を考えると、なんとなく気持ちが良い、心地よいと誰もが感じる空間が連続してある街であって欲しいと思います。そういう意味で建築家の真価が問われ出していると感じます。

Vectorworks Architect 住宅設計のためのBIM入門 ベーシックマスター

VectorworksのBIM教材がついに登場!

Vectorworks Architectを用いてBIMを実践した、実在の戸建て住宅を紹介。実務に沿った内容ですので、これから3D設計、またBIMによる設計を習得されたいみなさま、必見です。

著者 : 福田一志 氏
出版社: 株式会社 秀和システム
価格 : 3,600円(税別)

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ー取材を終えてー

取材ではBIMから、設計やデザインの根元的な話題になりました。「デザインすること」「図面を描くこと」、テクノロジーが進化した今、改めて原点に立ち戻る必要性がデザインに関わるすべての人にあるように感じました。単なる技術ではない著者の思いが込められたこの本をぜひ手にとってみてください。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

一級建築士事務所インターコア http:// www.i-core.jp

代表 建築家 福田 一志 氏

(取材:2014年1月)

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