ユーザ事例 & スペシャルレポート

汎用CADソフト「Vectorworks」シリーズに、建築設計者向けの新バージョン「Vectorworks Architect 2009J」が新登場。1月16日にエーアンドエーから発売された。設計者の直感的なひらめきをデザイン、設計へと展開し、本格的なBIM時代の建築設計ワークフローに対応するための機能も強化されている。高画質のCG、パースを作成できるレンダリングプラグインソフト「Renderworks」を同梱したパッケージも用意されている。


「今すぐ使えるBIM」を目指した新バージョン
建築設計者のための機能を集大成

直感的なデザインを形にし、建設可能な設計図面までスムーズにつないでいける汎用CAD「Vectorworks」に建築設計向けの新バージョン「Vectorworks Architect 2009J」が登場した。

Vectorworksはこれまで、基本的なパッケージである「Fundamentals」と、建築や機械など各分野の専門家向けに「Designer」があった。これらの両タイプに加えて今回は建築設計やBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に関する機能に絞った中間的な位置付けの「Architect」を新たに投入したのだ。

開発元である米国ネメチェック社CEO、ショーン・ フラハティ氏は「Vectorworksユーザーの多くを占めるのが建築設計者だ。そのニーズにこたえるために、Vectorworks Architect 2009を開発した」と語る。

建物の3次元モデルを使って設計や施工、維持管理にわたる業務を一貫して処理するのがBIMの理想像だが、現在はようやくデザイン検討や製図などの段階が実務で行われるようになったところだ。「建築設計者も施工者も、今すぐに使えるBIMを目指した」とフラハティ氏は語る。

つまり、建物を3次元モデル化し、そのモデルから整合性のとれた平面図、立面図、断面図を作成する作業をスムーズかつ効率的に行えることを目指して、今回のバージョンは開発されたのだ。

製造業向けハイエンドCADと同じカーネルを採用
将来のBIMによる本格的な解析にも準備OK

BIMなど3次元モデルによる建築設計が普及するにつれ、2次元CADにはなかった課題も浮上してきた。例えば、手すりの設計で、手すりの断面を3次元的な線に沿って押し出す際に、以前のバージョンでは押し出し線の形状によってはエラーが発生したり、不自然な形状になったりすることがあった。また、システムキッチンのシンクの高さを変えると、水栓がシンクの中に埋まってしまうことがあった。

また、図面の作図では正確にスナップを行うために、スクロールや拡大を繰り返すといった作業も必要だった。ちょっとしたことだが、将来的にはモデリング作業の障害となり、作業効率を低下させることが予想されたのだ。

そこで、今回のバージョンアップでは、「カーネル」と呼ばれる3次元CADのエンジン部を、「Parasolid」という高性能なものに載せ換えた。 Parasolidとは、航空機や自動車などの設計に使われるハイエンド機械設計CADの「SolidWorks」などにも用いられている堅牢なモデリングカーネルで、いわばCADソフトの“縁の下の力持ち"に当たる。ドイツのシーメンスPLMソフトウエア社が開発したものだ。

「今後、建物のモデリングや図面作成だけでなく、構造解析や環境シミュレーションなど、BIMによる本格的な解析業務にもVectorworksが対応できるようにするための決断だった」とフラハティ氏は説明する。

その結果は、操作のいろいろな面で現れて、前述のようなモデリングや作図上の障害は大幅に改善された。設計者の直感に従って自由な造形を行ったり、移動したりするなど、設計者の意図を反映したモデリングを行えるようになったのだ。

例えば、マウスを構造物の角に近づけるだけで端点スナップが利く機能や、端点などの周辺部分が自動的に拡大されて小窓に表示される「スナップルーペ」機能も搭載された。これらの改良の結果、操作性も前バージョンの4~5倍(英語版での比較)と向上したのだ。これらの操作性の改善は、Parasolidカーネルによって実現された。

つまり、「今すぐ使えるBIM」というメリットを第一に追求しつつ、「中・長期的なBIMの発展」をにらんだ戦略的なバージョンアップと言えるだろう。近い将来、BIMによる本格的な解析やシミュレーションが実務で行われるようになったとき、製造業での過酷な解析に耐えて改良を重ねてきた Parasolidエンジンは、そのパワーを全開にすることになるだろう。

BIMによるワークフローでの使用を意識した機能としては、BIMの国際的な3次元モデルデータの交換フォーマットである「IFC2x2」や「IFC2x3」の入出力機能や、グーグルアースへの書き出し、「.3ds」形式の入出力機能がある。このほか、正確な縮尺でPDF図面を取り込む機能など「すぐに使えるBIM」を意識した機能が大幅に拡張された。

海外ソフトでありながら“親日的"な開発方針
ユーザーコミュニティや教育機関への支援も充実

「Vectorworksは米国で開発されているが、日本では、すでに20年の歴史があり、数多くの日本のユーザーに支えられている。そのため日本ユーザーからの改善要望は重要に受け止め、ソフトの改良に生かしている」とフラハティ氏は語る。海外のソフトでありながら、“親日的"な開発を行っていると言えるだろう。

その陰には、Vectorworksの前身である「MiniCad」時代から長期間に醸成されたユーザーコミュニティや、 Vectorworksの“達人"とも言われる中核ユーザーからなる「A&Aプロフェッショナル・アドバイザー」の存在がある。ユーザー自身が、建築設計のプロとして開発した活用法は、これらのコミュニティや全国各地で開催されるセミナーやイベントなどを通じてユーザー同士が共有し、様々な問題解決に役立っている。

また、学校教育に対しては「OASIS(オアシス)」というプログラムを提供しており、Vectorworksを授業に使う際の優待価格制度や教員に対するサポートなどを行っている。これまで、主に専門学校などの学生向けに行っていたVectorWorks操作技能保持者認定試験も新しく、Vectorworks操作技能マスター認定試験(仮称)として準備中。2009年夏からはOASIS参加校も対象とする予定だ。

Vectorworksは米国の開発元と日本の国内総販売元が緊密なコミュニケーションをとりながら、それぞれが日本のユーザーの立場に立った事業展開をしていることが、日本での根強い人気を支えている。もちろん、本格的なBIMでの使用にも対応する3次元CADでありながら、他のBIMソフトよりも半額以下という価格帯も大きな要因でもある。

この事例は日経BP社の許可により「建設・不動産の総合サイト ケンプラッツ」で
2009年1月16日より掲載された記事をもとに編集したものです。

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