ユーザ事例 & スペシャルレポート

佐賀大学 理工学部 都市工学科は、「都市環境基盤コース」と「建築・都市デザインコース」の2コース制となっています。1970年に設立した土木工学科が始まりで、1982年には土木工学の発展的な拡充を目的に、建設工学科が設立され、「土木工学科」と「建設工学科」の2学科となりました。その後、1997年に理工学部全体の改編にともなって2学科を統合した「都市工学科」が誕生しました。

今回、「建築・都市デザインコース」を担当している教授の三島伸雄(みしま のぶお)先生と授業でVectorworksを使って新しい取り組みを始めている准教授の中大窪千晶(なかおおくぼ かずあき)先生にお話をうかがいました。


-理工学部 都市工学科の特徴と製図やCADのカリキュラムについて教えてください。 -

三島 2年生から製図や演習の授業が始まりますが、前期の基礎設計製図演習はトレースが中心ですのでまず手で描くことから始めます。そして、後期から少しずつCADを活用していくことを今年度は計画しています。これまではCAD環境が整っていなかったこともあって、研究室に入ってから個人的にCADを使っている学生もいましたが、今年度は3年生の建築都市デザイン演習ⅡでもCADで図面を描けるように環境を整えています。製図や演習では、周辺も含めた建物などを空間的に捉えて立体的に考えて欲しいと思っていますが、OASISにも入会したばかりで、CAD教育はこれからという面もあります。演習でもCADの活用を始めたばかりですので、これからどう変わっていくのかは楽しみです。

-他のソフトと連携した授業はありますか?-

三島 本校には「デジタル表現技術者養成プログラム」という全学教育プログラムがあります。このプログラムでは、画像・映像・Web・3DCGなどのデジタル表現技術を学びます。使用ソフトはVectorworksではありませんが、理工学部都市工学科の学生もこのプログラムで2年生の製図課題だったオリジナル住宅の3DCG化に取り組んで、上がることができない階段を設計していたことに初めて気づいたということがあったようです。都市工学科のCAD教育は始まったばかりですが、デジタルコンテンツコンテストなどもあるので、このプログラムともうまくコラボレーションして、表現のレベルでいろいろなものが出てくるとおもしろいと思います。そして、卒業設計などの表現力も向上していくことを期待しています。

-デザイン教育のなかでCADの位置づけと目標は? -

三島 社会に出るとCADなどのデザインツールを使うことが必須になりますから、学生のうちに修得して欲しいと思います。2年生の後期からCADを少しずつ学んで、演習でも活用しながら表現力を高めて欲しいと考えています。手で作業する部分とCADを活用して3次元を実感しながら考えること、そして画像表現力もきちんとシンクロさせて、手描きでは難しい部分もCADなどでリアルに表現できることを最終的には目指しています。さらに、デザインツールの開発や都市空間の分析など、それぞれ研究室で違いはありますが、CADの潜在力と可能性を最大限に引き出しながらデザイン教育をしていけたらと考えています。

-Vectorworksを活用した新しい取り組みについて教えてください。-

中大窪 2年生後期の情報基礎演習Ⅰという授業で、今年からVectorworksの開発言語であるVectorScriptを活用した取り組みをしようと考えています。2年生の後期からコースに分かれますので、この授業は「建築・都市デザインコース」を選択した学生が履修する科目となります。CADの授業というよりはBIM(Building Information Modeling)という位置づけにしたいと思っていますが、学部の2年生がどの程度理解してくれるかはやってみないとわかりません。大学院の修士課程では、VectorScriptを活用した授業をパイロット的な位置づけで2年前から始めています。

-授業でVectorScriptを教えようと思った経緯は? -

中大窪 カリキュラム変更で、1年生の後期に情報の教養授業の一環として位置づけていたプログラムの授業を2年生の後期に変更して内容も見直した経緯があります。1年生の後期ではExcelのVBAのプログラミングを学科全員を対象に教えていたのですが、2年生の後期では、コースに分かれて「都市・建築デザインコース」の学生のみになります。このコースの学生は建築の設計を学ぶことがメインで、数値解析をすると言うより設計のアイディアを出す時やCAD(Vectorworks)で図面を描く時にプログラムが使える方がいいのかなと、考えました。VectorScriptはプログラミングとCADがシームレスにつながっているので、計算結果を2次元、3次元で可視化できるのが魅力でした。

-大学院でのパイロット授業の内容を教えてください。-

中大窪 パイロット授業は4日間で15コマ2単位の集中講義としました。1コマは90分で、1日4コマを基本としています。その中で1日(4コマ)はBIM(Building Information Modeling)の授業を行って、残りの11コマでプログラムの話をしています。まずプログラムでどんなことができるかを見せた後、Vectorworksの簡単な使い方からVectorScriptの書き方に進みます。1年目はプログラムで足し算をどうやるかというところから入りましたが、今年は箱をランダムに置くにはどうするか、ということからスタートしました。最初に箱をつくるプログラムを見せて、乱数の出し方などを説明しています。さらに、ソート(並べ替え)のアルゴリズム(計算方法)の話、レコードの話というように順を追って進めていきました。簡単な部分は学生に調べさせて、つまずきそうな部分は説明をしています。具体的には、256個の四角形の面積を求めてソートをかけて、色を割り振るというプログラムに挑戦させました。

-授業を進めるにあたって難しい点は?-

中大窪 大学院生とはいえ、プログラミングをすることはほとんど無い学生ですので、指導にあたって、難しいことは余り言わずにプログラムは四則演算と繰り返し計算(loop)や条件分岐(if文)が使えれば、基本的にはなんでもできるということを毎回強調しています。長いプログラムを書くことが目的ではないですし、20行から30行のプログラムで、かなりヒントを与えて授業を進めていますが、書いたプログラムが動かない学生も出てきます。1コマで1つのプログラムができるぐらいのペースで授業を進めたかったのですが、今のところ4コマで3つ、進まない日は2つということもあります。集中講義の場合、プログラムのバグを修正するまで他の学生も先に進めなくなってしまう点は指導が難しいです。とはいえ、苦労してバグを修正してプログラムが動いた時におもしろいと思わせる仕掛けも重要だと思いますので、2年生の授業では、進めていく中で学生の状況にあわせて内容も見直していきたいと考えています。

-今後取り組みたいことは?-

中大窪 VectorScriptの授業では、もう少しアルゴリズミックデザインというような話に近づける課題がどうすればできるか試行錯誤しているところです。あまり難しい理論ではなく、簡単な四則演算でおもしろいと感じられるものを見せてあげながら、学生にもできるような工夫ができたらと思っています。パイロット授業ではフラクタル図形を書かせることも考えていましたが時間的な問題で断念しました。2年生の授業は週に1回1コマなので、フラクタル図形にも挑戦しようと思っています。そして、大学院の修士課程では、自分でプログラムを書き、回路を組んで温度センサーや角度センサーを比較的簡単に制御できるArduinoなどを利用して、直接触って動かすことができるデザインツールを自分でつくるということにも挑戦できたらと思っています。


ー取材を終えてー

プログラミング言語で書かれたソースコードは、初めて見ると謎の文字と数字の塊にしか見えず、抵抗感しか持てない気がします。ですが、Vectorworksの可能性を広げているのは、VectorScriptを使用したプログラムとも言えます。授業を通じてVectorworksの潜在力と可能性を感じて、さらにデザインすることを楽しんで欲しいと思いました。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

国立大学法人 佐賀大学 大学院 http://www.saga-u.ac.jp/

工学系研究科 都市工学専攻 教授  三島 伸雄 氏

工学系研究科 都市工学専攻 准教授 中大窪 千晶 氏

(取材:2014年5月)

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