ユーザ事例 & スペシャルレポート

第4回木質建築空間コンテスト(日本エンバイロケミカルズ株式会社主催)で「住宅部門賞」、住まいの環境デザイン・アワード2012(東京ガス株式会社主催)で「環境デザイン優秀賞」を獲得した 「葉山コンパウンド・ハウジング」は、コンセプトデザインから、申請図面までをVectorworksで行う。特筆すべき点は、Vectorworksの3Dモデリング機能をフルに活用し、BIMを実践したことだ。

建築家として、やるべきことはデザイン。テクノロジーの進歩で、コミュニケーションやデザインにより多く時間を費やすことが可能になった。
BIMはデザインに集中できると語るホアン氏のVectorworks活用方法とBIM実践に迫る。


-BIMとの出会い-

グラスゴー美術学校CAAD在学中の1996年当時から、建築におけるBIM的な3D設計の概念は既にありました。ただし、ツールが概念に追いついていなく、あくまでも机上の理論だったのですが、ここ数年で状況が劇的に変わりました。実は、2Dでの設計はしたことがないのですが、周辺の状況を聞く限りでは、2D設計は「重複」が多く、「あるプロセスを踏まなければ、次のプロセスに移れない」といった制限が付きまとい、効率的でないように感じられます。BIMなら、建築家を中心としたプロセスにより、効率的で、収益性の高いプロジェクトを遂行させることが可能です。

-BIMに移行するメリット-

現在の建築は環境性能等の要求が厳しく、建築に付随する情報も多元化しつつあります。建築家は建築の専門家ですが、設備や電気、エコロジーの専門家であるかと問われれば、答えは否と言わざるを得ません。

 

現代の建築では、それぞれの専門家が情報を持ち寄り、一つの建築を作り上げていくのですが、バラバラになった情報から必要な情報をピックアップして、統合する作業は本来の建築家の仕事ではないですよね。今はBIMで情報を一元化してあるので、工務店からの急な図面の要求にも、誰の手を煩わせることなく、数クリックで必要な図面はプリントアウトされ、工務店へ渡ります。

最近では、BIMからの一番の恩恵は、エコロジー対策です。高断熱を要求される住宅では、断熱位置等を3Dモデルを用いて、工務店の担当者と検討します。以前の方法(立面図や断面図を用いる方法)では、細かな部分までは詰め切れなかったのですが、今は納得いくまで打合せをすることができます。また、日当り等も特別なプラグインを用いることなく検証することができます。年間を通して、どの壁面がどの程度日射を得られるかを事前に把握できることは、クライアントにとっても、私にとっても重要なことなのです。

-情報の共有が生み出すもの-

建築家として悲しいことは、クライアントができ上がった建物に対して喜んでいない時です。先のプロジェクトでは、早い段階から設備、電気、構造、クライアント、クライアントの友達までもが、3Dモデルを共有して意見を出し合いました。「こんなはずじゃなかった...。」となる前に、意見を出し合い、議論することは建築にとって重要なプロセスです。BIMは最小限の説明でコンセンサスを得られる道具なのです。

-良い医師のようでありたい-

良い医師と出会えれば、末永くつき合いたいと誰しも考えるように、建築家もそのようでありたいと思います。従来の建築では、建物が完成すると、建築家との関係はそこで終了となりますが、BIMで情報を一元化し、家のデータベースとして保管することで、メンテナンスの相談に乗ることも可能ですし、維持管理のコストをコントロールすることもできます。今は建築家とクライアントの関係が最も希薄な時代と言えます。正しい情報を保管・管理することは、クライアントとの関係を維持することができ、より強いつながりを築くことが可能だと思います。

-あらゆることが可視化される-

3Dモデルから建材の数量を拾い出し、工務店の見積と照らし合わせると、どの程度安全率を見て建材を発注しているかが可視化されます。大抵、大工さんは安全側で見積を取るのですが、物件の規模が大きくなればなるほど、その差も大きくなります。

コスト管理がシビアになれば、その差分をコントロールすることも必要になります。3Dモデルをデータベースとして活用することで、工務店が要求する建材量を短時間で提示できることのメリットはとても大きいです。

-Vectorworksを選んだ理由-

2004年から日本で活動するようになり、以前より使っていた3D/2D-CADから Vectorworksに変更しました。Vectorworksを選んだ理由は、「導入コスト」、「パフォーマンスの高さ」、「トレーニングが楽」、「2D/3Dの両方が可能」等からですが、「ユーザベースの大きさ」 も重要でした。ユーザベースの大きさは、それだけ実務に即した「“ ティップス”(実務的なCADスキル)」等をVectorworksのコミュニティから得ることができます。これらは、Vectorworksのスキル向上へ大きく寄与しました。

-Vectorworksについて-

Vectorworks 2012は、3Dモデリング機能がとにかく良くなっています。これは今回の新たな機能と言うよりも、今までの積み重ねが有ってのことだと思いますね。

「太陽光設定ツール」は、年間を通した日当りの検討ができとても気に入っていますし、レンダリングのチューニングもかなり良くなっています。

「ストーリ」機能は、多層階のデザインをする際に、非常に重要で役に立つものだと思います。細かな改良のおかげで業務が効率化され、デザインに集中できるようになったことが何よりも嬉しいです。

Vectorworksを使っていて、とても楽しく作業しています。図面を描いている感覚とは違い、バーチャルの世界で建物を建てている感覚です。従来の建築手法を踏襲するのではなく、新たなことにチャレンジできるのがBIMなのです。

【取材協力】

有限会社 コミュニティー・ハウジング建築設計事務所 http://www.chousing.info/

Juan Ordonez (ホアン オルドネズ)氏

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