ユーザ事例 & スペシャルレポート

西沢立衛氏は妹島事務所でコンピュータと出合い、以後約20年、自身とCADが共進化するようにユニークな建築作品を手掛けてきた。CAD黎明期を知る西沢氏に、CADが建築家にもたらした変化を語っていただく。


Vectorworks Design Pick Up 01

CADは設計の技術ではなく 建築家の感受性に革新をもたらした。

コンピュータとの出合いは1993年まで遡ります。その年、事務所でQuadra800を購入し、買ったのはいいが誰も触れず半年くらい放置されていました。それでは意味がないと、使い始めたのが最初です。当時はまずIllustratorとか、Vectorworksの原型でもある汎用CADソフトMiniCadを使っていました。CADを使うようになって、設計変更が楽になったのをよく覚えています。描き直しが一瞬でできるのだから、すごい世界だと思いました。

また、スケールがないことも驚きでした。どこまででも拡大できる。抽象化の仕方が今までと違うと思いました。手描きの時代は、線には太さという感覚がなくて、断面線は見え線に対して太く描きますが、それは単に強調しているだけで、太さという概念ではなかった。ところがCADでは拡大していくと線が面のようになる。あれは、建築家の感受性を相当変えたと思いますね。二本の線が接するといっても、いろんな接し方があるんだということは、手描きの時代には思いつかなかったことです。

また、一つの案に手を入れて徐々にリアルなものに仕上げるかつてのやり方に対し、コンピュータの世界では今日と明日で全然違う案をどんどん生み出すことができた。そういうコンピュータの力によって、僕らの設計は相当変わったと思います。
人間は新しい表現のために道具をつくり、その道具が未知の表現を生み出してきました。僕らの場合、その道具がコンピュータだった。Illustatorであり、Vectorworksだったわけです。

最近僕らは3Dソフトを使うようになってきました。3Dソフトは、複雑な三次元立体を簡単に描くことができます。道具が変わると建築も変わるので、僕らが作る建築も、以前と比べて三次元的なものになってきました。むしろ、3Dソフトじゃないと設計できないような空間を考えるようになってきた。2Dソフトを使っていた昔は、平面図というものが空間の中心でしたが、3Dソフトになった今では、平面図はかつてのような位置づけではなくなってきたことを実感しています。

でも人間の感受性と道具の関係というのは、双方向的に創造しあう関係で、そのまま昔に戻ることは決してないと思います。建築家はそうやって、新しい時代の精神とか感受性というものを育てているのだろう、と思うのです。

新建築:2010年9月号掲載)

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