ユーザ事例 & スペシャルレポート

東放学園専門学校 テレビ美術科は、テレビやイベント、舞台美術まで幅広い美術スタッフの育成に特化した教育を行っています。そのため、美術デザイナー・美術プロデューサー・大道具・小道具・持道具・装飾・衣装・美術監督などあらゆる美術スタッフの仕事について実践も通して専門的に学ぶことができます。さらに、デザイン系の授業ではデッサン、CADデザインなどアナログとデジタル双方の良さを身につけるカリキュラムとなっています。

今回、テレビ美術科でデッサンとVectorworksの授業を担当されている非常勤講師の吉田章司(よしだ しょうじ)先生にお話をうかがいました。


-テレビ美術科の特徴を教えてください。 -

東放学園専門学校は、株式会社東京放送がエンタテインメント業界の後進を育てるために設立した学校です。その中で、テレビ美術科の学生はテレビやイベントの美術スタッフを目指しています。美術スタッフと一口に言っても、大道具や小道具、特殊効果、電飾、衣装、持道具、美術デザインや制作など職種は幅広く、目指す方向は学生によってそれぞれ違います。そのため、何を目指すか迷う学生もでてきますので、一人ひとりに合わせた指導が必要になります。ですから、テレビ美術科では、幅広い分野それぞれで必要なスキルを専門的に学び、実践も交えて美術制作の技術とセンスを身につけていきます。

-テレビ美術科での製図やCADはどのようなカリキュラムになっていますか?-

テレビ美術科は二年制の学科で、CAD(Vectorworks)は1年生と2年生共に選択授業があります。1年生は前期にAdobe IllustratorとPhotoshopを学び、CADの授業は後期から始まります。1年生は2DでVectorworksの機能を理解することと、図面作成の基本操作を修得することを目標にして課題に取り組みます。2年生のCAD授業は前期だけですが、3Dのモデリングを学び、最終課題ではセットデザインに取り組みます。そして、2年生の後期は卒業制作となりますので、その中でVectorworksを活用する学生もいます。また、CADとは別に、デッサンの授業が1年生は通期で、2年生は前期にあります。デッサンも選択授業ですが、デッサン力が身につくと頭のなかで空間をイメージしやすくなります。イメージをスケッチで表現できることも重要ですので、学生にはアナログ、デジタル両方学ぶことを勧めています。

-CADの授業はどのような内容からスタートするのですか? -

1年生は、まず2Dの基本操作から始めます。線や面、図形をどのように描くのか基本になるツールの操作方法を教えた後、自分の手のひらを描くことに挑戦してもらいます。ある程度自由に線が描けるようになったら、次は自画像を、最後に自分の部屋を描きます。CADが苦手という人のほとんどが、曲線を描くことに苦手意識を持ってしまうようです。ですから、曲線が自由に描けないことが原因でイメージしたデザインをあきらめるなど、自らデザインの幅を狭めてしまわないように、まずVectorworksで曲線を描くことに慣れてもらいます。

-CADの授業ではどのような教材を使っていますか?-

CADの授業でテキストは使っていません。ひとつの図形を描くにもいろいろな描き方がありますから、テキストに沿って最初から全員で同じ操作をするのではなく、まずは基本操作を教えて作図のヒントだけを示しています。学生は基本操作やヒントを頼りに、与えられた時間でいろいろな機能をどんどん触って考えながら課題に取り組みます。その後、描き方の一例を示して、再度全員で確認しながら描くという流れで授業は進めています。とにかくVectorworksに触ってメニューやパレットのどこに何があるのか、見つけ出す力も養って欲しいと考えています。自力で描けるところまで描かせてから操作方法を示したほうが、テキストを使って操作方法や手順を覚えるより、知識として定着しやすいのではないかと考えています。

-どのようなことを目標にしてVectorworksを教えていますか? -

頭に浮かんだデザインをVectorworksで難なく表現できることが理想です。そして、CADは仕事に結びつくスキルですから、なんとなくわかっているだけでは不十分です。縮尺の概念やレイヤの概念もしっかり理解しておく必要があります。単に機能を覚えるだけではすぐに忘れてしまうと思いますし、やはり、課題を通して学生には、描きたいものをどう描くか、考えながら描く時間を与えることが重要です。そして、図面は相手に見せて理解してもらうためのものですから、見やすい図面を描くことも重要です。そういったこともしっかり教えるようにしています。2年生の最後の課題はセットデザインで、平面図と立面図、さらに一番良いアングルで見せられるパースとアニメーションを作成します。相手に伝え、相互にコミュニケーションを図るために、どのように表現するのが良いかといったことも課題を通して学んで欲しいと考えています。

-テレビ美術におけるVectorworksの有用性は?-

特にデザイナーを目指している学生にとって、Vectorworksは相互にコミュニケーションを図るための重要なツールになります。そして、デザイナーだけでなく大道具や小道具などの美術スタッフも、Vectorworksを使うことで効率は非常に良くなります。さらに、3Dでカメラアングルの確認や照明のシミュレーションも可能ですので、Vectorworksが使えるということはテレビ美術の分野において非常に有利です。授業では2年間で2Dと3Dの両方が使えるように教えていますが、学生は3Dの方が2Dより楽しいようです。柱状体や3Dパス図形など3Dモデルができあがると感激するようですし、楽しいことは覚えるのも早いと思います。3Dまで使えることは社会に出た際、強みになると思います。ただ、2Dの基礎をしっかり身につけておけばどの企業でも即戦力として役立ちます。

-今後取り組みたいことは?-

学生はVectorworksとは別に、Adobe IllustratorとPhotoshopを授業で学びます。今のところ、それらのソフトを連係させた授業はありませんので、ソフトの連係ということにも取り組めたらと思います。また、デザイナーがVectorworksを活用してデザインをした後、どのような流れで実際の仕事が動いているのか、現場ではどのように展開していくのかを教えることも必要ではないかと思っています。舞台美術、大道具、小道具、照明、音響など、すべてVectorworksでやりとりがされていることも知識として持っていた方が良いと思いますし、実際の仕事の流れを伝えていくことも必要だと思います。ですから、今後はそういった内容の話も授業の中に盛り込んでいけたらと考えています。

東放学園専門学校
テレビ美術科
主任 津田 周二氏

テレビ美術科 津田 周二先生よりひとこと

テレビ美術科は、テレビだけでなく映画や舞台など、さまざまな職種を学生が目指します。そのため、学生一人ひとりに合わせたきめ細かな指導が必要になることも学科の特徴のひとつです。その中で、吉田先生初め講師陣はテレビ美術に関係する仕事をしている方々です。

基本的にはデザインに重きを置いて、デザインを読み込む力がつくようなカリキュラムを組んでいます。そして、2年生の夏休みにはほとんどの学生がインターンシップを通して実際の現場を体験します。Vectorworksについては、図面や模型制作などテレビ美術の分野では即戦力として使えるツールになりますので、多くの学生に修得して欲しいと考えています。


ー取材を終えてー

取材の際、学生はVectorworksの授業でコーヒーカップの3Dモデリングに取り組んでいました。形状や配色、そして小物を添えるなど、それぞれに個性があふれ、自分のイメージを表現することを楽しんでいる印象を受けました。卒業後は、スピードが要求されるテレビ美術の現場でも表現することを楽しみながらコミュニケーションツールとしてVectorworksを使いこなして欲しいと思います。

エーアンドエー株式会社 カスタマー・リレーション課 竹内 真紀子

【取材協力】

東放学園専門学校 http://www.tohogakuen.ac.jp/

テレビ美術科 主任 津田 周二 氏

テレビ美術科 非常勤講師 吉田 章司 氏

(取材:2016年4月)

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