ユーザ事例 & スペシャルレポート

株式会社 東京音響通信研究所は、1965年の設立以来、全国各地で行われるイベントやコンサートなどさまざまな催し物を、音響面で支えるサウンドシステムのフィールドで活動を続けています。国内外のアーティストのコンサートツアーや室内楽コンサート、演劇、催事、国際会議や企業イベントなどの音響プランニング及び、音響オペレーションはもちろんのこと、コンサートホール、ホテル、スタジオなど各種施設における音響設計から製作施工、管理まで一貫して行っています。音響に関わる実務の現場で、Vectorworksがどのように活用されているのかをご紹介します。

今回、コンサートツアーやイベントなどで音響プランニングを行っている制作技術部 部長の添田 諭(そえだ さとる)さんにお話をうかがいました。


音量や音質を均一に届けられるように計画する仕事

-具体的な仕事内容を教えてください。-

基本的には、観客に音量や音質を均一に届けられるように、スピーカーの配置を考えて計画する仕事です。各会場にはスピーカーや機材を持ち込んで仮設で設営しますが、催し物ごとにどのくらいのスピーカーが必要になり、それをどこに置くか、あるいはどこに吊るか、向きはどうするかといったことを計画しています。音響と聞くと、客席でミキサーを操作しているイメージが強いと思いますが、客席ではなくステージ上の人にスピーカーやイヤホンで音を聴かせるモニターエンジニアという仕事もしています。モニターエンジニアの仕事でも、ステージ上にどのようにスピーカーを配置するかという検討からVectorworksを使用しています。

制約や動線を考えて、スピーカーの配置やケーブルの配線を考える

-モニターエンジニアの仕事はどのように進めるのですか? -

長年参加しているアーティストの全国ツアーでは、現在主流となっているイヤーモニターは使わずモニタースピーカーを使用していますが、アクティングエリアが広いためスピーカーの数はすごく多くなります。ステージ上は大道具に加えて演奏者の楽器や機材が置かれますし、コーラスやダンサーの動線や演奏者の視界の確保なども重要です。それらを考慮して、アクティングエリアすべてで音が聴こえるようにスピーカーの配置やケーブルの配線などを計画していきます。そして、最終的にリハーサルで調整してスピーカーの数や配置を確定します。

ひたすら図面を描き、細かい部分はリハーサルで調整

-どのような図面を作成するのですか?-

この全国ツアーの仕事では、客席側に音を届けるハウスエンジニアは別の会社の人が担当しています。さらに、スピーカーの配置や調整を行うシステムエンジニアもいますので、同じ仕事でも音響だけで数社入ることになります。その他、舞台監督、演出関係、照明、美術、特殊効果や映像などさまざまな人が関わりますので、担当で描く図面は違いますが、お互いに情報を共有しながら全体の調整をしていきます。私の場合はVectorworksでスピーカーの配置やケーブルの配線などの図面を描いています。その他にもスピーカーの吊り込み詳細図など平面だけでなく断面や側面で検討するので図面はひたすら描いているという感じです。また、大きな会場の場合は会場側との打ち合わせの前に提出する、客席側からステージへのケーブルの配線図や機材の配置図も作成します。

メイヤーサウンドスピーカーの吊り方と角度の検討がVectorworksを使うきっかけに

-Vectorworksはいつごろから使っているのですか? -

2000年に「MACWORLD Expo/Tokyo 2000」というイベントで、弊社にスピーカーシステムの依頼が来たことがVectorworksを使うきっかけになりました。幕張メッセイベントホールの真ん中に四角形に組まれているトラスにメイヤーサウンドのスピーカーを吊り下げる計画でしたが、エンジニアの指示通りにスピーカーを吊るのは非常に困難でした。

各イベントやコンサートごとにスピーカーの配置を検討後、スピーカーメーカーのシミュレーションソフト使用前に、Vectorworksでおおまかに音の広がりや到達状況を検証。

その翌年、同じ仕事の依頼がきた際、スピーカーの吊り方を検討するために会社に1台だけあったVectorworksを使って図面を描いたのが最初です。まずは2D図面から始めましたが、ホール全体に音が届いているのか不安になって、断面図をPDFで取り込んで2F席、3F席の勾配を出して、なんとか3D的な検証もしました。独学でしたので、とても大変でしたが相手の承諾も得られ、2年目は設営に手間取ることもなく、検証の甲斐もあって音も均一に届けられました。

シミュレーションによって最適な音環境が実現できる

-Vectorworksと他のソフトウエアとの連係はありますか?-

音がどのように客席に到達しているのか、シミュレーションできるソフトウエアがスピーカーのメーカー各社から出ています。例えばメイヤーサウンドのMAPPというソフトウエアは、2Dのみでのシミュレーションですが、より最適な音環境を探すためにスピーカーから出力する音量や時間を細かく設定してシミュレーションすることができます。こういったことを耳で聴いて調整することはほぼ不可能です。MAPPは当初読み込める形式がCSVだけだったのですが、今はDXFも可能になったのでVectorworksの図面も利用できます。最近は、ラインアレイスピーカーのNEXOなどメーカーによっては3Dで検証できるものもありますし、シミュレーション精度も高くなっています。

図面を作成するだけでなく、さまざまな検証が可能に

-Vectorworksを使用するメリットは? -

Vectorworksは使い方がわかってしまえば作業の効率化が図れると思いますし、前回使った図面がデータとして残っていることが一番のメリットです。スピーカーの配置は高さや角度も重要になるので基本的には3Dで作成をしています。使う機材はその都度ハイブリッドシンボルで登録していますし、業界内の横のつながりで、シンボル図面をもらうことも多いので効率的に作業が進められます。また、ビューポート機能を使うと複数の方向から見たビューが作成できますし、変更があっても修正後にビューを更新することで変更が反映される点は非常に便利です。Vectorworksを使うことで、図面の作成が楽になり、さまざまな検討や検証ができるようになりました。

積み込み図面や仕込みマニュアルの作成にも利用

-どのような検証をしているのですか? -

シミュレーションソフトの利用もその一つで、図面で心配な部分も音がどのように客席に届くか目で見て確認できるので便利です。現在は、メインスピーカーについてはひと通りシミュレーションをして現場に行くようにしています。その他、ある程度機材が決まると、搬入のトラックに機材が積み込めるか、Vectorworksで積み込み図を描いて確認しています。感覚でやってしまって積めないこともあるので、事前に検討できる点はメリットです。さらに、スピーカーの仕込み方のマニュアルもVectorworksで作成して活用しています。

実際の現場ではスピーカーの仕込みを安全に行うことが重要

-スピーカーの仕込み方のマニュアルをつくろうと思ったきっかけは?-

スピーカーメーカーのホームページなどにも仕込み方のマニュアル的なものがあるのですが、それを見て、現場に即したものをつくってみようと思ったのがきっかけです。チェーンモーターで1台ずつ、合計8台のスピーカーを吊り込む一連の作業手順に、人員や注意点などを描き込んでいます。手順ごとにレイヤにわけて作成してあるので「パラパラまんが」のように見せることができます。メーカーによって機構なども違いますし現場ごとに吊り方も同じではないので、使い回しは難しいのですが、幹事をやっている日本舞台技術安全協会というNPO法人に内々で紹介したところ評判は良かったです。このマニュアルのスピーカーは、1台113Kgありますから安全管理という面からもこういったマニュアルは重要になります。

すべてのセクションで3D図面のままやりとりができるようになることが理想

-Vectorworksを使って今後取り組みたいことは?-

今の段階では、業界的にはまだ2Dが主流ですので、関係者には図面を2Dで配布しています。ですが、スピーカーは3Dで図面を作成していますし、スピーカーメーカーのシミュレーションソフトについても3Dは非常にわかりやすいので、すべてのセクションで3D図面のままやりとりができるようになることが理想です。そうなれば、今以上に検討しやすくなるだろうと思います。ですから、大きな会館や劇場の図面は3D化したいという気持ちはあります。以前、東京ドームの3D図面を入手しましたが、会場の図面も3Dで音響の計画をしてみたいと思います。また、スピーカーのシミュレーションソフトとVectorworksとの連係では、Vectorworksのデータがそのまま読み込めるなどさらに使いやすくなることが理想です。


ー取材を終えてー

コンサートや演劇、イベントなどでスピーカーの存在や位置をあまり気にしたことはありませんでしたが、目には見えない「音」をデザインする仕事は、3Dで計画することがとても重要な気がしました。そして、機材の進化も手伝って「音」の世界はより高度な領域に入っていくように感じました。コンサート会場などでは「音」を楽しむだけでなくスピーカーの場所や向きも確認してみようと思います。

エーアンドエー株式会社 カスタマー・リレ−ション課 竹内 真紀子

【取材協力】

株式会社 東京音響通信研究所 http://www.tokyo-onken.co.jp

制作技術部 部長 添田 諭 氏(NPO法人 日本舞台技術安全協会 幹事)

(取材:2016年2月)

この事例のPDFファイルをダウンロードする

 

記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様は予告なく変更することがあります。