ユーザ事例 & スペシャルレポート

米子工業高等専門学校 建築学科は、社会環境及び建築技術の革新にあわせた知識・技術を修得し、建築の企画、設計、生産に従事する創造的な実践的技術者の養成を目標としています。また、建築分野におけるコンピュータの役割が増大する状況を踏まえて、低学年から一貫した情報教育も行っています。今回、建築学科4年生と専攻科1年生のみなさんにVectorworksで建築分野における先進技術であるBIM(Building Information Modeling)を体験していただきました。1時間目から4時間目までの約3時間で行われた『BIM演習』についてご紹介します。


1時間目から4時間目の『BIM演習』

-BIM(Building Information Modeling)とは?-

BIMはBuilding Information Modeling の頭文字をとった略称で、建物情報を3次元モデル化し2次元で描いていた図面情報を一歩進めた考え方であることをCADの歴史も交えて説明しました。また、BIMを取り巻く現状に加え、事業主をはじめとして意匠設計、設備、構造、施工、維持管理まで多くの人が関わる建物の生涯(ライフサイクル)にわたって、BIM導入がいかに有効であるかについても細かく解説しました。そして、設計から施工まで含めた大きなBIMの事例を紹介し、今回はVectorworksで作成した3次元モデルから2次元の平面図や立面図、断面図などを取り出すSmall BIMの体験であることを伝えて実際の操作に入りました。

-間取り作成から空間オブジェクトへ -

体験ではあらかじめ用意されたテンプレートファイルを使ってRC造2階建て住宅を作成していきます。まずは「1F−床」レイヤに四角形や多角形ツールで間取り(2次元図形)を作成し、スペース作成で2次元図形を空間のオブジェクト(3次元モデル)に変換します。演習では、ツールセットパレットのスペースツールでカテゴリの設定方法と図形からスペースを作成する操作方法に加え、3次元モデルに部屋名や天井高、面積などの情報を埋め込む体験をしました。

-基礎と躯体の作成 -

次に、建物ツールセットの壁ツールとスラブツールを使って「基礎の立ち上がり」レイヤに基礎の立ち上がり部分を、「基礎スラブ」レイヤに基礎スラブを作成しOpenGLレンダリングで3Dモデルの確認をしました。1Fの壁作成では、スペースから壁を作成する操作方法と壁スタイルの置き換えを体験しました。さらに、リソースブラウザのシンボルフォルダに用意された3Dシンボルを使って建具と階段の配置方法を学び、スラブはスラブツール「境界の内側モード」で作成する操作を体験して1Fが完成しました。2Fの壁、スラブ、屋上のスラブ、パラペットなども同様の操作で作成すると全体モデルが完成です。

-平面図、断面図、パースの作成とモデルの変更 -

最終段階となる図面の取り出しでは、まず完成した3DモデルをOpenGLレンダリングで確認した後、ビューメニューのクリップキューブで3Dモデルの断面位置を設定する方法を学びました。さらに、建物の影の動きがわかるソーラーアニメーションの機能や設定方法も紹介されました。平面図の作成ではビューメニューのビューポート作成から平面図を取り出す方法と、ビューポートの編集で壁を基準にして簡単に寸法が入れられる操作体験をしました。断面ビューポートで断面図を取り出す手法も学び、平面図、断面図ともに縮尺や配置を自由に変更できることも確認しました。ビューポートを使ったパース作成では、アングル設定やウォークスルーも体験し、限られた時間で駆け足の説明ながら作業はとても順調に進みました。最後に、3Dモデルの階高を変更すると取り出した平面図、断面図、パースはビューポートを更新するだけですべて最新の図面になることを確認して3時間の『BIM演習』は終了しました。

建築学科 准教授 高増佳子(たかます よしこ)先生にお話をうかがいました。

-建築学科での製図の授業やCADの授業はどのようなカリキュラムですか?-

製図の基礎を学びながら課題を仕上げる設計製図の授業は1年生から始まります。コンピュータを使った授業も1年生からありますが、CADは2年生の建築情報Ⅰの授業の後期から始まります。通期でCADによる作図方法を学ぶのは3年生の建築情報Ⅱからです。後期は科目間連動して、模型制作や木材でベンチ制作を行うデザイン基礎Ⅲの授業でデザインした作品を、建築情報Ⅱで図面化してプレゼンテーションボードの作成まで行っています。さらに、4年生はCAD・CGの授業で、CADを使った建築の製図から3Dモデリング、レンダリングとアニメーションまで学びます。CAD・CGの授業は設計製図Ⅳの最後の中層オフィスビルの課題が連動して総合プレゼンテーション作成をCAD・CGの授業で行います。5年生になるとCADの授業はありませんが、設計製図Ⅴの課題はVectorworksを使用しています。設計製図課題でのCAD使用は自主性に任せていますが、4年生の設計製図Ⅳの最初の木造町家の課題は手描きということもあって、ほとんどの学生が4年生の後期からCADで課題を仕上げています。本校ではCADを使いこなせた上で設計製図能力のある学生を育てたいと考えています。

-『BIM演習』のねらいは? -

『BIM演習』を受講した4年生は、Vectorworksで一通りの操作ができて自分の設計した製図の課題を図面やプレゼンテーションボードに表現できる段階です。3次元の使いこなし方は学生によって違いがあるとは思いますが、VectorworksにはBIMの機能がありますし実際の仕事の現場でも今後はBIMが活用されていくのだろうと感じていました。とはいえ、学生が授業の中でBIMに触れる機会はなかったので、ぜひ体験させたいと感じました。そして、体験したことでBIMに興味を持って自分でもやってみようと思ってくれたら良いなと考えていました。

-『BIM演習』後の感想は? -

今回の『BIM演習』は、操作に入る前にBIMについてのガイダンス的な話もしていただけたのでとても良かったと感じます。学生が実際に操作する時間は、授業単位としては3時間分もなかったと思いますが、その中で一通りの作業体験ができて良かったですし考えていたほど難しくないという印象を受けました。また、スペースをラフに与えてそこから壁をつくるという操作は使いやすそうな気がしました。簡単なブロックプランからスタートしていたのでエスキース的なこともBIMでできそうだなという印象を受けました。その一方で、『BIM演習』では初期設定のデータが用意されていたので学生もつまずくことなく操作をしていましたが、初期設定のデータをつくるところからとなると少しハードルが高い気もします。

-今後取り組みたいことは? -

今回の演習を体験した学生には、5年生の設計製図か卒業設計でBIMにぜひ取り組んで欲しいと思います。今回体験したBIMはRC壁式構造でしたが、木造も含めていろいろなバリエーションが体験できることが理想です。できればBIMも使えるようになりつつ、さまざまなプレゼンテーション能力も身につけて欲しいと考えています。『BIM演習』のような授業は今後も続けたいと思っていますが、どのように取り入れて行くかは悩むところです。また、建築学科には3Dプリンターがありますが、現在は研究室での利用にとどまっていて授業ではまったく使っていません。Vectorworksでの3D操作は学生もできますので、授業の中でCADと3Dプリンターを模型制作などと上手く連動させて取り組むことができたらと考えています。


ー取材を終えてー

教室の後ろから『BIM演習』を見学させていただきましたが、駆け足で進んだにもかかわらず、誰ひとりとして操作につまずくことなく4年生までにVectorworksの操作をしっかりと修得している様子がうかがえました。黙々と作業する姿が印象的で、学生のみなさんには今回の体験を通じてBIMをもっと身近に感じると共にデザインするツールであるVectorworksを今以上に使いこなしていって欲しいと思いました。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

米子工業高等専門学校 http://www.yonago-k.ac.jp/

建築学科 准教授 高増 佳子 氏

(取材:2015年4月)

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