ユーザ事例 & スペシャルレポート

文部科学省では「成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進事業」を進めています。平成24年度からは教育機関と産業界が文部科学省の委託事業として産学官コンソーシアムを組織し、成長分野における実践的な知識・技術・技能を身につけるための教育プログラムの開発に取り組んでいます。3年目となる平成26年度は、開発した教育プログラムの科目『建築設計製図演習』について、日本工学院八王子専門学校で熱環境シミュレーションツールThermoRender Pro(サーモレンダー Pro)を活用した実証講座が実施されました。今回、実施された『BIM・3DCADを用いた「Bioclimatic Design(生気候学的アプローチ)」の建築設計製図演習』についてご紹介します。
実証講座は建築設計の先端技術であるBIMについて熱環境シミュレーションツールThermoRender Pro(サーモレンダー Pro)も使用して週に1回(3時間)全5回で行われました。建築学科4年生の20名が受講し、4班に分かれて「日本工学院八王子キャンパスのスマートハウスをベースに、環境負荷の小さい快適な街をつくる」という課題に取り組みました。1回目は建築環境に関わる温熱環境についての講義と温度測定などの実測演習が行われ、2回目はThermoRender Proの基本操作演習と課題での設計目標の検討を班に分かれて行っています。3回目は中間発表と問題点の検討を行って4回目から最終プレゼンテーションの資料作成に取りかかり、5回目に最終プレゼンテーションと講評会を行うプログラムです。
Vectorworks上で動作可能な熱環境シミュレーションツールThermoRender Proは、学生も初めて操作するため、用意されたスマートハウスのBIMデータをベースにして、材料設定方法やモデルの作成方法を学んでいます。2回目の授業では、スマートハウスの現状と外装材や色を変えた場合の熱収支シミュレーション結果を3DCAD上に出力して班ごとに設計目標の検討に活用しました。最終プレゼンテーションまでには班ごとに改善案の効果検証も行っています。
各班ともに、夏に快適な環境を検討しました。A班の「自然力とスマートハウスのハイブリット生活」は、よりよい環境は五感で自然を感じることと捉えて、屋根と壁面それぞれに適した果物や野菜を栽培する緑化によって熱環境の改善を目指しました。B班は、日本は水の豊かな国であることから「水を利用した涼しい住宅」として、保水性塗装と徹底的な雨水利用を考えています。建物の上に設けた大屋根にも水を流し、デザインにもこだわった計画としました。C班は建築と環境の両方を考えてデザインする「クリマティックデザイン」を表題として、屋根面の緑化とドライエリア、スプリンクラーの設置でよりよい環境の実現を目指しました。D班の「House with a circulating water」は、家の周りに設けた池に冷たい地下水を汲み上げて循環させ、落葉樹を植えることで熱環境の改善を視覚的な側面からも考えた計画としました。
プレゼンテーション後には各班ともに参加した3年生からもさまざまな質問を受けました。授業を担当した福田一志先生は「よりよい環境とは何か?から始めて、本当にいろいろなことを考えてもらいました。この講評会も含め、問題点を明確にして討論することの大切さや、さまざまな視点があることを認識できたことは、意識改革にも繋がり短い時間ですばらしい成果があったと思います」と述べられました。講師の放送大学 梅干野晁先生からは「建築は構造や環境などすべてを秩序立てて考えて行くことが重要で、コミュニケーションにおいては3DCAD表現や熱環境シミュレーション結果は有力な武器になります。シミュレーションを駆使すればさらに可能性が広がると痛感しました。そして、快適さは五感で感じるという話もでましたが、その人なりの価値観を持つことが大切です。BIMや3D、シミュレーションを修得すると共に感性も高めて行って欲しいと思います」と総評が述べられて全5回の実証講座は終了しました。
CADは1年生からVectorworksの授業が始まり、2年生の終わりにVectorworksで自分の作品を2D、3Dで表現できることを目指しています。施工図などもCADで学びますが2年制の建築設計科はそこで卒業になります。4年制の建築学科は2014年度に初めての卒業生を送りだしますが、この4年間は授業カリキュラムも試行錯誤の段階でした。2年制の建築設計科のカリキュラムに加えて、4年制の建築学科ではBIMについても学ばせていきたいと考えています。その最初の試みが今回の実証講座です。この講座を行ったことで方向性も見えてきましたので、今後は3年生からBIMに特化した授業を展開したいと考えています。そして、2015年度からは文部科学省の委託事業の中で検討したカリキュラムに移行していきたいと考えています。
実証講座の目的は2つありました。今まではCADの修得で終わっていましたが、BIMについてもしっかり学ばせて、将来的にはBIMマネージャーになれる人材を育てたいということがまずひとつです。また、BIMは建築を学ぶ初期段階での授業でも使えると感じます。今までは理論だけで学んでいた環境工学の授業もBIMを使うことによって、CAD上ではありますが、熱環境を実際に目で見ることができました。BIMによって建築の授業自体を変えることができるのではないかという気がします。ですから、BIMを建築の教育ツールとして上手く使っていくということが2つめの目的で、BIMによる新しい建築教育があるのではないかと考えています。
ThermoRender Pro(サーモレンダー Pro)については、Vectorworks教育シンポジウム2014で梅干野先生の特別講演「Bioclimatic Design(バイオクライマティックデザイン)のすすめ」を聴講し、いろいろお話をする機会があったことがきっかけになりました。学生はVectorworks以外のCADソフトも学びますが、1、2年生はずっとVectorworksを使っています。ですから、一番使い慣れたソフトでもあるVectorworks上で動作可能な熱環境シミュレーションツールThermoRender Proで試しにやってみるのがよいだろうと考えました。
4年間でBIMについてどのように学ばせるか、BIM的な授業への学生の関心の示し方や理解度、さらには、グループワークへの学生の取り組み方について実証講座で検証しようと考えていました。その結果、通常のCAD授業に取り組む姿勢以上に学生が熱心に取り組む姿勢が見られ、非常に手応えを感じる講座となりました。受講した学生の反応も良く、建築設計と環境を連動させて考える意識も高まったようです。環境工学も座学で学ぶよりは実体験を通して学ぶことで理解も深まったと思います。そして、環境は建築設計と連動させて学ぶことが重要だということも改めて感じましたし、建築教育の見える化ツールとしてのBIMの可能性も感じました。
まずやってみようと考えて取り組んだ今回の実証講座は、教員が考えていた以上に学生が真剣に取り組んでくれました。間違いなくひとつの大きな成功例になったと感じています。BIMを教育のツールに使って行くことは、今後のひとつの方向性だろうと考えていますので、この実証講座を踏まえてさらに発展させたいと思います。そして、今後は構造、設備含めて建築に関わる全てをBIMで体験できることが理想です。文部科学省委託事業の産学官連携を通じて可能となった今回の講座は、BIMを使って見える化できる新しい建築教育の実現に向けた第一歩だと考えています。
『BIM・3DCADを用いた「Bioclimatic Design(生気候学的アプローチ)」の建築設計製図演習』
受講後の感想の一部をご紹介します。
学校法人片柳学園 副理事長
日本工学院専門学校
日本工学院八王子専門学校
学校長 千葉 茂 氏
平成24年度より3年間、文部科学省委託事業として社会基盤分野の中核的専門人材を養成するプロジェクトに産学官で取り組む機会を得ました。エーアンドエー株式会社を始め、企業と連携することでこういった取り組みが初めて実現したことは、プロジェクトの成果の一つです。今後、これらの講座(教育プログラム)を本格的に導入していくことで、これからの建設業界で必要となるBIM・CIM等の先端技術を身につけた学生を社会に送り出せるようになる点で大きな意味があると考えています。
ー取材を終えてー
講評会では、講師の先生からのするどい質問を受けつつ、どの班も自信を持ってより良い環境を目指した提案内容をプレゼンテーションする姿が印象的で、短い時間とはいえ非常に内容の濃い講座であった様子がうかがえました。講評会には3年生も参加していましたが、これから展開されるだろうBIMを使った新しい教育の中で、より良い建築デザインや設計をさまざまな視点から追求して欲しいと感じました。
エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子
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