ユーザ事例 & スペシャルレポート

北九州市立大学 国際環境工学部 建築デザイン学科は、環境共生をキーワードに、人と人とのつながりやコミュニケーションを重視した教育を行い国際的にも活躍できる人材の育成を目指しています。その一環として、留学生と積極的な交流を通じてお互いの人的ネットワークを広げ、グローバルな視点を育てることを目的に毎年2週間ほどの日程で国際ワークショップを開催しています。

今回、建築デザイン学科でVectorworksを活用した基礎製図の授業を担当し、国際ワークショップでは企画からとりまとめまでを行っている教授のデワンカー・バート先生にお話をうかがいました。


-国際環境工学部の特徴と製図やCADのカリキュラムについて教えてください。 -

北九州市は環境モデル都市に選ばれていることもあって、環境に重視した教育に全学的に取り組んでいます。さらに、国際環境工学部ではアジアのネットワークを考えた国際交流活動も積極的に行っています。製図環境については、建築デザイン学科の開設時にさまざまな検討をした結果、1年生前期の製図基礎(演習)の授業から、製図の基礎とCAD(Vectorworks)を同時に教えています。この授業では手描きスケッチの課題も毎週出しますが、できるだけ早い段階からコンピュータで図面を描くことに慣れることが重要だと考え、CADを使って2次元図面の基本的な描き方を教えています。1年生の後期では、CADによる3D表現に加えて毎週出る課題をCADで仕上げる環境造形演習という授業があります。

-2年生以降、手描き製図の授業はありますか?-

2年生前期の設計製図Ⅰの授業は手描きとCADの両方を教えていますが、2年生後期の設計製図Ⅱ、3年生前期の設計製図Ⅲ、後期の設計製図ⅣはすべてCADです。手描きはとても重要ですが、大学の4年間は意外と短いです。社会に出るとCADは必須になりますから、その点も考えて最初からCADを教えています。CADと製図の基礎を同時に教えるのは難しい面もありますが、今の学生は高校時代からコンピュータを使い慣れていることもあって、CAD操作を覚えるのはすごく早くなっています。ただ、手描きだと大きさが想像できても、コンピュータの中だとわからなくなることもあるのでスケール感覚をどのように身につけさせるかは課題です。

-Vectorworksの指導で気をつけていることは? -

1年生後期の環境造形演習や、2年生以降の設計製図は課題に対して自分の設計をCADを使って表現しなくてはいけません。ですからCADの操作ができるだけでなく、早く描くことも重要になります。CADを使う必須科目は製図基礎(演習)、環境造形演習、設計製図Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの3年生前期までの2年半です。その期間でデザインツールとしてCADをいかに使いこなせるようにするかを考えて教えています。課題ではすべての平面図、断面図2面、立面図4面、内観と外観パースは必ずVectorworksで描かせています。どうしてもCADで表現できなければ手描きでも良いのですが、やはり見劣りします。アイデアを表現するにあたって、一番いけないのは表現しきれずデザインを変更してしまうことです。全体が難しいのであれば部分的でも良いので、最初のアイデアを表現するための努力を惜しまないよう指導しています。

-国際交流にはいつ頃から取り組んでいるのですか? -

地理的にもアジアが近いので、できるだけアジアの大学生とも協調してというのが大学の主旨でもありました。国際環境工学部開設以来、留学生の受け入れについては学部、大学院ともに試行錯誤を繰り返す中で、10日から2週間程度の短期、あるいは半年、1年といった期間で学生を受け入れたり派遣したりというプログラムを少しずつ始めました。その活動を建築デザイン学科で本格的に始めたのは5年前からで、最初に交流したのはタイのタマサート大学です。2週間の日程でタマサート大学の学生が本校に来た際にワークショップを開催しました。

-交流はどのようなかたちで続けているのですか? -

ワークショップを開催した翌年からは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を活用して、中国、ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心に、学生を受け入れる大学の教員がワークショップを企画して交流する活動を始めました。北九州市立大学では毎年2月に2週間の日程で学部生も大学院生も参加できる国際ワークショップを開催しています。こちらからは、今年度は9月末に中国、10月にはインドネシアに15名から30名ほどの学生を連れて行く予定もあります。これらの活動は、それぞれの大学がFacebookを使って情報発信していることもあって、広く認知されてきているようで問い合わせも多くなっています。

-国際ワークショップの内容を教えてください。-

毎年ワークショップにはアジアからおよそ80名から90名の学生が参加しています。参加学生をランダムに8つのグループに分けて、最初の日は設計課題の対象地域などの説明をします。次の日には現地調査に行って、さらに2日から3日間は市内見学でお互いにコミュニケーションを図っていきます。その後はグループごとに課題に取り組み、中間発表会を経てさらに作品を練った上で、A1図面2枚にまとめて最終プレゼンテーションに臨みます。プレゼンテーション後、教員と学生の審査によって3つのグループの作品に賞が与えられます。日程は非常にタイトですが、国際ワークショップに先立って、同じ対象地域でアジアの学生に参加してもらうコンペを行っていて、ワークショップではその作品も参考にすることができます。

-ワークショップを開催して感じることは? -

北九州市立大学の学生は平面図や立面図に力を入れますが、海外の学生はプレゼンテーションにものすごく力をいれます。そして、3Dをすごく描きますし、3D表現が得意な学生も多く表現力は高いと感じます。参加者の中には海外から使い慣れたパソコンとソフトを持ってくる学生もいますが、本校の学生はVectorworksを使いますし、期間中はCAD室を24時間開放して参加者は全員そこで作業をしています。作業はグループ内で分担して進めていて、最終的に提出するプレゼンテーションシートはさまざまなソフトを使って描いたものをひとつにまとめるので苦労していると思います。さらに、ワークショップでの基本言語は英語ですが、参加者はそれぞれ母国語が違うこともあって意思疎通には苦労しているようです。とはいえ、本校の学生の参加も増えていますし、グループワークの中でお互いに良い影響を受けていると思います。海外にも目を向けて就職を検討する学生もでてきていますし、ワークショップを始めた当初に比べると当たり前のように海外とつながりを持って交流ができてきていると感じます。

-今後取り組みたいことは?-

3年生後期の選択授業設計製図Ⅳでは、昨年初めての試みとして、3人ぐらいのグループごとに学期内で提出できる外部コンペを2つか3つ探させて、そのコンペ課題に取り組ませました。授業では審査員に見せることを意識させるため、伝えたいことは文章ではなく絵で毎回プレゼンテーションシートに表現させました。それによってCADでの表現力も身に付きますし、CADの使い方も含めて提出までのスケジュールが大切であることも指導できました。今年も同じ取り組みをしています。国際ワークショップも2週間でなくもう少し長い期間でプログラムを組んでやってみたいです。現状で期間を長くすることは難しいのですが、例えば、半年あればいくつかのグループをつくって海外のコンペにワークショップのような形式で参加することも可能になります。また、難しいことも多いのですが、アジアの大学と単位の相互互換ということもお互いに提案をしながら少しずつ試していきたいと考えています。そして学生には日本とのつながりも持ちつつ海外にどんどん出て行って欲しいと思います。


ー取材を終えてー

製図基礎の最初からCADを使用するという発想はとても新鮮に感じました。そして、国際ワークショップは、グループごとの競争の中で、CAD表現やプレゼンテーション手法などお互いに良い刺激を受けると同時に学生は楽しみながら参加しているということでした。広い視野を持って外の世界に目を向けるだけでなく、そこでいかに楽しめるかで吸収力も変わるのではないかと思いました。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

公立大学法人 北九州市立大学 http://www.kitakyu-u.ac.jp/env/

国際環境工学部 建築デザイン学科
教授 デワンカー バート ジュリエン氏

(取材:2014年5月)

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