ユーザ事例 & スペシャルレポート

集合住宅や公共建築を中心に企画・設計・監修を手がける山設計工房。代表取締役副所長の照沼博志氏はBIMを活用できるプロジェクトが出てきたことなどを機に事務所で使っていたVectorworksをVectorworks Architectにアップグレード。BIMを活用したプロジェクトを複数手がけている。


BIMにスムーズに移行できるツール

Vectorworksの導入

CADを導入したのは20年ほど前になる。その頃は多摩ニュータウンの業務があり、協力企業との兼ね合いで他社製CADを導入した。ちょうど、手描き図面からCADに移行しようという社会的機運も高かった時期だった。

しばらくはそのCADを使っていたが、学生時代にVectorworksを使った経験のある所員が増えてきたこと、周囲の会社もVectorworksを使っているところが多かったためVectorworksを導入していった。一気に移るのではなく、緩やかな移行だった。現在はすべてVectorworksで作業している。

当初、Vectorworksのレイヤとクラスの考え方に戸惑った面が多かった。しかし、レイヤは「トレーシングペーパー」、クラスは「ペン」という意味を理解してから、非常に自由に使えるようになった。この2つの階層構造は、他のCADにはないユニークなもので、表示の仕方を設定することによってプレゼンテーションボードの作成などで効果的になる。

BIM導入のきっかけとその後

3年ほど前に「平面図で建具を変更すると、建具表の内容が変わる」機能があると聞いた。当時はBIMという言葉が広く使われていなかったと思うが、そういったものに興味があった。2012年になって、Vectorworksをバージョンアップするタイミングだったことと、BIMを活用できるプロジェクトが出てきたことなど、複数の要因が重なったためタイミングよくVectorworks Architectにアップグレードすることができた。

BIMを導入してから1年ほどであるが、部分的な活用を含めて4件ほどで実行している。中には平面とパースを行き来するレベルも含まれるが、平面・立面・断面のすべてをBIMモデルから作成したプロジェクトもある。Vectorworksはモデルから図面化がスムーズなので、非常に助かっている。また、古くから2Dツールには定評があるため、モデルから切り出した図面に詳細を描き込んでいくことも簡単である。

Vectorworksには多くの機能があるため、一気にすべての機能を使うのではなく、プロジェクトごとにある機能を試したりするなど、どの機能がどのように使えるのかを試行錯誤している。

VectorworksのBIM機能

Vectorworksに搭載されている「ストーリ」は画期的な機能だと思う。建物の垂直構成を明示的、論理的に組み立てることができる。各階に配置した建築オブジェクトをストーリに拘束させることで、高さの変更などが常に整合性を持って更新される。

「デザインレイヤビューポート」もよく使う機能の一つとなっている。他のデザインレイヤで作成したモデルを参照する機能であるが、基準階の作成などでモデリングを省力化できる。一つのモデルを変更するだけで、参照先の他階のモデルも自動的に更新されるため、ワークフローがスムーズになる。

窓やドア、階段などの「プラグインオブジェクト」も扱いやすい。特に階段は、蹴上げや踏面、段数など重要なパーツがパラメータ化されているため、数値を確認しながらモデリングすることができる。こういったものは、システマチックになることによってミスが減り、スムーズな設計を支援してくれる。

さらに、モデル内の情報を「ワークシート」に集計することができるため、設計の初期段階から数量の当たりがつけやすい。オブジェクトの各種情報を集計することが可能で、ワークシートからもパラメータの変更ができるように、モデルとワークシートが双方向でつながっている点もうれしい。

Vectorworksは汎用モデラーとしての側面も持ち合わせているため、型にはまった形状だけでなく、自由なモデリングを実現してくれている。建築オブジェクトだけではソフトの制約に引っかかってしまうが、汎用モデラーならではの自由がここにはある。

こういったモデリングを支えているのはVectorworksの「スナップ」の良さだと思う。 以前のバージョンに比べてスナップ精度が格段に向上しているため、精確なモデリングを行うことができる。

Vectorworksは、プラグインが豊富に揃っていることもありがたい。今は、CameraMatchというフォトモンタージュ用のプラグインを、改修プロジェクトのイメージパース作成に活用している。現況写真と3Dモデルを簡単に合成でき、モデルの変更にもすぐに対応できるので重宝している。

今後に向けて

私たちが行っているのは、BIMと呼べるところまで届いていないのかもしれない。モデルから平面・立面・断面を取り出すのは、Vectorworksとして普通のことだと思う。

今後は、もっと「情報・属性」の部分まで踏み込んでモデリングを行っていきたい。そうすることによって、細かい数量の拾い出しや、構造との連携をスムーズに実現することができると思う。BIMの定義として「デジタル」「3D」「属性」の3つが重要だと聞いたことがある。それらを実現できれば、今以上に「使えているな」と感じられるのかもしれない。

加えて、シミュレーションも積極的に行っていきたい。手描きや2次元CADでは見ることができなかった、風の流れや熱環境、照度計算など各種シミュレーションにまで展開できるのが3Dモデルを作成するメリットだと思う。

これからBIMを始める方に向けて

何よりも情報が必要だと思う。私たちは、A&Aが発行した「BIM実践講座」を読んで、ステップバイステップで学んでいった。今もあらゆる知識を蓄積している最中で、A&Aにはもっと情報を出してもらえればうれしい。また、ユーザ同士のコミュニケーションが必要だと思う。

私たちより進んでいる設計事務所もあるだろうし、はじめの一歩を踏み出せないところもあると思う。そういった方々と交流できれば、Vectorworksを使う多くのユーザのナレッジベースができ上がると思う。

【取材協力】

株式会社 山設計工房
照沼 博志 氏
井上 直樹 氏
飯塚 啓吾 氏

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