ユーザ事例 & スペシャルレポート

新潟工科大学 工学部 建築学科では、従来のデザイン性や安全性に加えて、気候風土や地域特性、さらには地球環境問題へも目を向けた実践的なカリキュラムを採用しています。「地理情報学」の授業では、建築・都市空間の多種多様な解析に応用されている「地理情報」に焦点をあて、Vectorworks上で動作可能な熱環境シミュレーションツールThermoRender Pro(サーモレンダー Pro)の活用も演習に盛り込んでいます。

今回、「地理情報学」の内容を検討し授業を担当されている教授の飯野秋成(いいの あきなる)先生にお話をうかがいました。


-「地理情報学」の授業内容を教えてください。 -

3年生後期の「地理情報学」では、電子地図情報や衛星からの遠隔探査などのデータを自由に扱えるようにすることを基本として、演習項目は建築学科全体の枠組みを考えながら、毎年工夫をしています。授業が始まって4年目になりますが、週に1コマ(90分)、全15回の授業の中で、今回は4つの課題探求に取り組ませています。まず、「統計処理の基礎」を4回、次に「サウンドマップ」を3回、そして、今回初めて演習に組み込んだ「ThermoRender Pro」を4回、最後に「リモートセンシング」4回で全15回が終了します。音や熱といった目に見えないものを扱うことで、建築設計や街づくりというような機会に、見えないところまで意識する感覚を身につけて欲しいと考えています。

-ThermoRender Proを活用した演習ではどのようなことに取り組んだのですか? -

課題提出を含めて全4回で、まず1週目にThermoRender Proの利用と操作方法を修得しています。学生は授業時間外もThermoRender Proを使って復習することで、なんとかそこはクリアしました。2週目と3週目は、自由に選んだ建物を、ThermoRender Proに入力して解析をしています。そのまま入力した場合と、異なる地方に建てた場合や断熱材や構造を変えた場合、設備を変更した場合といった内容で、熱解析の計算に取り組みました。自由に選んだ建物の熱負荷やエネルギー消費に関する仮説をたてて検証をしていく流れで、建物の熱負荷やエネルギー消費への影響を考察し、4週目にはポスターとして仕上げて提出させます。課題提出をポスターにしたのは、学内に掲示することで、1、2年の学生たちが見て興味を持ってくれたらいいなと考えているからです。

-学生のみなさんは課題の建物をどのように選んだのですか? -

3年生の夏に、設計事務所へのインターンシップで手掛けた建物を選ぶ学生がいました。その他、「サザエさん」の家や「となりのトトロ」に登場するサツキとメイの家を題材にした学生もいます。また、「地理情報学」の授業と同時平行で進む「建築総合演習」という授業では、フィールドを柏崎に限定したテーマを、学生が自由に設定し、論文作成の基礎を学びます。ヒートアイランドやエネルギー、原発などのテーマが多くなっていますが、ある学生は「建築総合演習」で住宅の外壁の色をテーマにし、それを温度でも試してみようということで、「地理情報学」の授業と連動させて取り組んでいます。

-ThermoRender Proに取り組んでみて一番苦労した点は? -

カリキュラムとの関係があるかもしれませんが、3年生後期の「地理情報学」の授業まで、Vectorworksの操作にブランクがある学生も多く、最初はVectorworksの操作部分で少しとまどっていました。ですが、Vectorworksの操作の感を取り戻した後はThermoRender Proの修得は早かったように感じます。2回目以降はほとんど質問もなく、それぞれ選んだ建物で黙々と作業をしているという感じでしたし、ThermoRender Proは操作に慣れてしまえば、使いやすいツールだったようです。

-ThermoRender Proを活用した学生の反応はいかがでしたか?-

操作を覚えるまでは、授業時間外にも復習をして苦しんだようですが、初めて温度の画像が出てきた時には、学生は一様に感激していました。ThermoRender Proの授業は4回ですので、そこでオリジナルのものを出すのは難しいと思います。ですから、先輩方が卒業研究で作成したポスターなどを参考にしながら、仮説をたてて検証していくだけでも十分ではないかと考えていました。熱解析画像を時系列で並べるだけでも気づくことはありますし、第一段階の成果としては十分だと考えています。温度分布が3次元でビジュアル的にわかるという体験をすることで、このような熱環境シミュレーションツールがあることをまず知ってもらうこと、そして、興味を持ってもらうことが大切だと考えています。そういう意味では、学生が興味を持ってツールを活用していましたし、意図した通りに進捗している点は成功だと思います。

-「地理情報学」の課題探求ThermoRender Proで伝えたかったことは? -

熱環境といっても、熱負荷がどのくらい削減されたかという話と、人体温冷感の二つがあります。この授業ではどちらかひとつできればいいと考えていました。街区が大気に与える熱環境負荷を示す「HIP(ヒートアイランドポテンシャル)」の話で終わっても良いし、暑さの体感指標である「平均放射温度(MRT)」の分布の考察でもいいという話はしています。ただし、まず入力する気象データや材料の熱物性値などがあって、それを計算した結果があり、さらに処理したグラフができるという全体の流れがあるので、その部分は絶対に崩さないように指導しました。その流れはぜひ体得して欲しかったです。さらに、数値の意味や、社会問題になっている地球環境などにどのように役立つかというようなことも伝えたいのですが、4回では残念ながらそこまではできませんでした。欲を言えば、これをきっかけに環境系の研究室に入って、さらに知識を深めて卒業研究につなげて欲しいと思います。

-「地理情報学」でThermoRender Proを活用した感想は? -

ようやく「地理情報学」の授業の枠組みができたかなという気がしています。3年生後期の選択授業なので、それぞれ進む方向性などを少し考えていると感じます。基本的には意匠系を志向している学生がほとんどだと思いますが、環境や設備、エネルギーに興味を持って、もう少し考えてみたい学生が「地理情報学」を選択していると思います。課題探求では統計処理から始めて、サウンドマップ、ThermoRender Proと進みますが、統計処理とサウンドマップでは、毎回論文を書かせました。ポスター作成はThermoRender Proが初めてで、内容としてもかなり濃いので、授業以外の時間も使って、入力や解析をしていたようです。そういう意味では、課題提出に向け学生の自主性に任せた部分も多く、進め方には、まだ課題を残しているかもしれません。

-ThermoRender Proを活用して今後取り組みたいことは? -

探求課題 ThermoRender Proは、週に1コマ(90分)を4週でまとめるという時間的な制約もあって、検証したのは一棟の建物ですが、HIP(ヒートアイランドポテンシャル)などは一棟の建物だけの検証では物足りない面もあります。ですから、週に2コマ(90分×2)の授業で、都市計画やまちづくりの視点で、まち全体を評価するようなことがThermoRender Proを活用してできたらおもしろいのではないかと思っています。また、ThermoRender Proは、数値を入れて温度が出てきますが、熱環境をデザインする力を身につける上では、その逆の流れ、すなわち、温度や熱を感じて立体空間を類推する経験も重要と感じます。ThermoRender Proで解析する熱環境は、目でみた共感覚を利用した演習です。空間を創造するという意味では、こういう熱環境にするにはこういう空間、という発想ができることも理想です。将来的にそのような教育もできたらと考えています。


ー取材を終えてー

取材には、ポスター提出日におうかがいし、授業も見学させていただきました。課題提出に向けてThermoRenderProでの熱解析や、ポスターのレイアウトに黙々と取り組む様子からは、授業が順調に進んでいることがうかがえました。その中で、やりたかったテーマで検証するために、妥協せず熱心に質問する姿が印象的でした。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

新潟工科大学 http://www.niit.ac.jp/

工学部 建築学科 教授 飯野 秋成 氏

(取材:2012年12月)

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