ユーザ事例 & スペシャルレポート

御徒町駅前に建設された松坂屋パークプレイス24は、竹中工務店が設計施工を担当し、新たに整備される駅前広場と一体的に計画が進められました。駅前らしい賑わい感や百貨店の華やかさを創出するため、外装には、立体駐車場の無機質感をイメージさせない「メタルワークシェード」が採用されました。見飽きることのない豊かな表情の外装デザインは、オリジナルの配列検討プログラムによって、多様な見え方が展開できるパネル配置となっています。プログラム作成からデザイン決定まで、Vectorworksがどのように活用されたのかをご紹介します。

今回、松坂屋パークプレイス24ではプログラミングとユニットデザインを担当し、現在はシンガポールの現場事務所でBIMマネージャーとして、プロジェクトに取り組んでいる石澤 宰(いしざわ つかさ)さんにお話をうかがいました。


外装についてはさまざまな検討がすでにされていた

-プロジェクトにはいつから参加したのですか?-

入社から1年間の研修を経て、東京着任後に最初に担当したプロジェクトで、全体計画はすでにできていました。このプロジェクトの特徴は、商業施設が一部に入る自走式立体駐車場の松坂屋パークプレイス24(計画建物)が完成後、前面敷地の既存の機械式立体駐車場を解体して駅前広場を一体整備することでした。私が入社する前から進められ、実施までに20年近くかかっています。最終的に駅前広場に面するシンボル的な建物になるため、外装については、すでにいろいろな素材や形状が検討されていました。その中で、松坂屋のイメージフラワーであるカトレアをメタルのフレームとレリーフで表現するメタルワークシェードは、私の上司が提案し、方向性が固まりつつある段階でのプロジェクト参加でした。

単純なパターンではなく見ていて表情があるものをつくりたかった

-提案はどのようにしていったのですか? -

当初、外装デザインは単純なパターンでつくろうとしていましたが、もう少し何かやりたいと考え、「私にやらせてください」と志願しました。反復パターンではないけれどもランダムでもない、見る人や時間によって多様な表情が生まれ、何かが読み解けそうなものをつくりたいと思いました。そのためにプログラムを使えばと考えましたが、その段階で言葉では伝えきれませんでした。ですが、外装で配置する1.1m角のパネルは2千枚になりますし、メタルのピースは2万個にもなります。これを手作業で考えることは現実的ではありませんでしたので、スクリプトを活用してスタディするということを示せて、ようやく「やってみたら?」という話になりました。

法規的な条件を満たした上で、生産性も考えデザインを検討

-具体的にはどのような作業をしたのですか?-

作業にあたって、建築設計のコンセプトは、「最小限の制作ユニットから賑わいを感じる外装パターンをつくり出すこと」で、プログラムとしては、「法規的な開口条件を満たしながらユニットパターンの見え方をパラメータによってスタディすること」でした。開口についてはエネルギー消費をできるだけ抑えるという面からも、自然換気が絶対条件となりました。プログラムはVectorworksのVectorScriptでつくりましたが、今回は、パラメータから何かを解くのではなく、条件を満たしたパターンの中からデザインを選び取るという作業をしています。

気になるところを微調整して納得のいくデザインをつくりだせる

-プログラミングで苦労した点と良かった点は?-

頭の中で考えていることを、プログラムコードに翻訳する作業はおもしろいのですが、労力もかかりますし、技術的な問題に直面した時の難しさがありました。とはいえ、プログラムを探ることでデザインを発見するというおもしろみは、デザインするうえで、自分が気になるところのさじ加減を微調整して、納得のいくデザインをつくりだせる点にあると思います。それは自分の中でデザインを考える部分とプログラムを書く部分の両面から試行錯誤した結果、わかったことだと思います。そして、バグやエラーと闘いながらつくったスクリプトには、自分だけの道具としての愛着が湧いています。

いろいろな人の意見を聞くことでプログラムとしてもバージョンアップできた

-最終的にどのようにデザインを決定したのですか?-

いくつかのプログラムを走らせて、自分でこんな感じと思ったものを、A3サイズで出力してボードに貼って眺めながら、考えていたことの確認と整理を繰り返しました。そして、ものを見ると自然に言葉がでてきます。自分が考えていることと他の人が見た印象の乖離をなくすために、出力したものがどう見えるのかいろいろな人に意見を聞きました。それによって、プログラムとしてもバージョンアップできたと思います。最終的にコンセプトをプログラムに翻訳した結果は、かなりシンプルなものになりました。最小限の制作ユニットという意味では、配列をスタディすることで、各ファサードごとにわずか3種類のユニットで舞い上がるような花模様のデザインをつくりあげることができました。

道具をつくるためのプログラミング

-プログラミングはどのように学んだのですか?-

中学生の時、HyperCardというソフトに出会ったことがきっかけです。その時、プログラムを書くと、自分がつくりたいものや道具がつくれるという印象を持ちました。その後、大学は建築に進んで、自分にしかできないことを考える中で、コンピュテーショナルなデザイン方法を活用していた池田靖史研究室(慶応義塾大学)を選びました。中学生の時の経験がベースにあったからだと思いますが、その時はデザインでやりたいことをするために道具をつくるという感覚でしたので、プログラミングは後からついて来た感じです。

学生時代から身近であったVectorScript

-VectorworksとVectorScriptの魅力は?-

大学時代、VectorScriptが一番身近にありました。他は試したことがないので比較はできませんが、VectorScriptはプログラム言語としてはシンプルですし、CADの世界と一体になっているので使いやすいと思います。今回も、Vectorworksで描いていた立面図を後ろにひいて、外装のユニットレイアウトだけを描き換えていますが、VectorworksというCADのなかであれば連携が簡単にできます。そういう意味では、スクリプトを書くということに対するハードルが低いように感じます。

ものづくりの醍醐味はできたものから会話が広がること

-このプロジェクトをきっかけに変わったことは?-

できたデザインに対して、人によって興味はさまざまでした。例えば、「なんですか?それは?」とか「どうやってつくったのですか?」など、さまざまな会話がそこから生まれました。それは、ものづくりの醍醐味でもあると思います。そして、自分で使う以外でも、例えば、モザイクタイルで、グラデーションを表現するにはどのように混ぜて貼ったらいいか、という相談や、オフィスビルの柱の形状検討のためなど、他の設計者の想いを実現するツールを協力してつくるという機会も生まれました。それらは、大学時代に主に研究室でやっていたものを引用するなどしながらつくっています。自分が持っているものを、相談にきた設計者用に調整してあげることで結果として良いものができればという感覚です。

最終的には設計のオープンソース化を目指す

-今後どのようなことに取り組みたいですか?-

例えば、気流や熱といった環境面などスペシャリストがいる分野ではなく、設計する際、何かこんな道具があったらいいなということに応えられたらいいと思います。どこまでできるかわかりませんが、最終的にやるべきことは、設計のオープンソース化ともいうべきものではないでしょうか。iPhoneアプリケーションのように、ひとたび盛り上がれば、本職のプログラマーから日曜大工的な人までが参加していろいろなものができて、おもしろいものはどんどん広がってということが設計でも起きる可能性があるのではないかと感じます。今現在は、シンガポールで超高層ビルの屋上にある複雑な曲面形状について、外観を変えることなく、いかに効率よく施工するかという検討をしています。初めてプログラマーの方とコラボレーションして取り組んでいますので、コラボレーションすることの相乗効果も知りたいと思っています。


ー取材を終えてー

コンピュータが普及し、設計する道具もどんどんカスタマイズできる時代になってきているのだと思います。ですが、発想し思考することから始まるものづくりの原点は、昔も今もまったく変わっていないのではないでしょうか?苦手意識や先入観から一歩踏み込めない人もいるかもしれませんが、わからなくても興味を持つだけで見えてくることがあるかもしれません。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

株式会社竹中工務店 http://www.takenaka.co.jp/

MARKET STREET TOWER PROJECT DESIGN MANAGER 石澤 宰 氏

(取材:2012年10月)

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