ユーザ事例 & スペシャルレポート

「Vectorworks2012 全国縦断 新製品発表キャラバン」にて講演していただいた内容をご紹介します。


CADは3Dの道具

私はもともと美大でデザインを学んだ訳ではなく、独学でこの世界に入りました。内装施工会社からスタートし、展示会ブースや企業ショールームの現場に出入りしていたころ、MiniCad4を使い始めました。その前はもっぱらillustrator, Photoshop、そして手書きで図面を描いていましたから、CADを手にしたときはじめから「これは3Dの道具」だと感じていました。

周りのデザイナーさんたちに刺激されて自分でもデザインを始め、それからは携帯電話、デジタルカメラ、空気清浄機などさまざまなプロダクトをVectorworksでデザインしました。当時は3Dのフィレットなども難しく、ずいぶん試行錯誤したものです。回転体を使ったりエッジを丸めたり、いろいろなことを試しました。

エラーから得るインスピレーション

Vectorworksに限らずCADは「道具」ですから、使う人それぞれの独自の使い方があっていいと思っています。また全ての機能を使いこなす必要はまったくありません。ただ私の持論としては、CADによって発想を刺激されるような使い方でないと、CADの本当の能力は活かせていないと思っています。CADで無駄なく、ミスなく、スピーディーに図面を仕上げることももちろん重要ですが、私の場合は「こう描きたい」と思って操作したときに思うようにいかないときや、思っていたものと違うものになってしまったとき、つまり「エラー」からすごく刺激を受けるのです。ですからパラメータを極端に変化させ、ある意味積極的にエラーを起こすような使い方を試してみたりもします。CADを使う中で出会う、一瞬のひらめきですね。

デザイナーの想いをつたえる、3DCGの重要性

さまざまなデザインを経て、Tokyo Designers Week 2007に出展したマングローブチェアがプレミオ賞を受賞しました。継ぎ目のない、生物のような「ワンパーツ」の造形への強いあこがれが私のなかにあり、そこから生まれたデザインです。これをバーチャルのデザインから、職人さんたちの力を借りてリアルにしていくのは予想以上に大変でした。

実際に人間が座るものですからデザインの側面だけではなく、人間工学などさまざまな要素を考慮してかたちにしていかなくてはなりません。そういったとき、そのデザインに込めたデザイナーの想いをどれだけ強く職人さんに訴えられるかが非常に重要だと思うのです。そしてそれと同じ位、職人さん達と共通意識を持つことも大事です。このような場面で3DCGの重要性を強く感じています。図面では伝えられないこと、伝えきれないことをビジュアライゼーションすることでより明確なイメージを共有することができると思うのです。

「魅せ方」は使い分ける

一方で、3Dの魅せ方はフォトリアリスティックだけではないとも感じています。最近はプロダクトデザインの仕事の割合が多くなっていますが、インテリア・内装設計のデザインをする際には、Vectorworksのスケッチレンダリングが便利でよく活用します。初期段階からいきなりフォトリアルなフルCGを持っていくと逆効果なこともありますし、最近では皆フルCGを見慣れています。そういう時にラフなスケッチをみせるとかえって効果的です。頭の中のアイディアが次第にリアルになっていく過程を、段階的に伝えることも大切だと思うのです。

デザインは「実験」、さまざまなツールを利用する。

たまにフリーの数学系ソフトを使って有機的な造形の実験をしてみることもあります。最近ではアルゴリズムによって造形を行う建築家も増えていますね。数値を入力してあとは自動的にモデリングさせたり、パラメータで形状を変化させたりしてみると、普通のモデリングでは絶対につくれないようなかたちに出会えます。このかたちが一体何のデザインに使えるの?と聞かれると自分でも分からないようなものですが、むしろデザインとはそのくらいの感覚でもいいのではないかと思っています。なにかのかたちをつくろうと意図する前の段階でいろいろ手を動かしてみる、とにかく実験してみることが大事だと思っています。

Vectorworksプラグインであるプログラミングツール「イクケイ(育形)」もダウンロードして活用しました。いろいろなパラメータを触って実験的に造形したモデルから製品となったウレタンチェアもあります。

デザインの可能性を広げたい

プロダクトデザインでよく耳にする「Human Centered Design」という言葉、これは人間の使い勝手だとか、人間本位のデザインということではなく、デザインを通して人々の生活をもっと心地よいものにしようということなのです。私も常にデザインを通して使う人の気持ちを満たすものをつくりたいと思っています。

もともとは事故で障がいを負った知人のためにデザインしたハンドサイクルも「乗っているときに楽しいか」「リラックスできるか」「スピード感を感じられるか」に最後までこだわりました。そして今では子供から大人まで多くの人に使っていただいています。また、動物のかたちをした子供用の家具を小児科の待合室においていただいているのですが、怖がって泣いていた子供達もこれに乗って笑いながら診察室に入ってくるのだそうです。デザインが人の気持ちにまで影響することもあるのです。

そのほか医療関係では、動物用マイクロバブル洗浄機のデザインに携わりました。これは薬剤を使わず水だけで洗うので、皮膚病をもったペットの洗浄に活用されるほか、先日は東日本大震災の被災地のペットをきれいに洗う活動に使用されました。現在この洗浄機を介護の現場で活用できるように試作中です。デザインが社会福祉の実現にかかわることもできるのです。

まだデザインが入っていない産業がたくさんあると感じていますし、同時にCADの可能性も広がるはずです。これまでデザインのメインターゲットから除外されていたようなものを積極的に受け入れて、デザインを通して想いを発信し続けたいと思います。

【講演者情報】

テコデザイン有限会社 http://www.tekodesign.com/

柴田 映司 氏

Vectorworks2012 全国縦断 新製品発表キャラバン(2012年3月)

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