ユーザ事例 & スペシャルレポート

セコム株式会社 IS研究所では、安全・安心・快適な新しい社会システムをデザインし、運用までを考慮した検証実験を行っています。その一環として、BIM(Building Information Modeling)ツールを駆使した48時間の仮想コンペ「Build Live Kobe 2011」に参加し、建物の維持管理と運用の視点で、安全・安心・快適を設計の初期段階にさまざまなアクティビティのシミュレーション結果から提案する、新しい設計プロセスに挑戦しています。そのシミュレーションにSimTread(シム・トレッド)がどのように活用されたのかをご紹介します。

今回、セコム株式会社 IS研究所 基盤技術ディビジョン ビルディングテクノロジーグループ 主務研究員の足達 嘉信(あだち よしのぶ)さんと研究員でBuild Live Kobe 2011ではセコムのリーダーを努めた櫻井 利彦(さくらい としひこ)さん、そして参加されたセコムチームのみなさんにもお話をうかがいました。


建物の維持管理、運営の視点で設計の初期段階から安全・安心・快適を考える

-BLK(Build Live Kobe 2011)にはどのようなメンバーで参加したのですか?-

足達 財団法人建築保全センター、東北工業大学の許研究室、株式会社パスコ、そしてセコムIS研究所で参加しました。チーム名は「BIX」で、建物の維持管理、運営という視点を持ったメンバー構成であることが特徴です。

櫻井 通常、建物の安全・安心の検証は設計の最終段階で行うことが多いのですが、試したかったのは、設計の初期段階で安全・安心・快適の検証を行い、意匠設計にフィードバックするという設計プロセスです。配棟計画やゾーニングは、避難・防災、環境、エネルギーなど計画敷地内だけでなく、周辺建物の状況も含めさまざまなシミュレーションから検討しています。

SimTreadの魅力は、VectorworksがIFC形式に対応しカスタマイズ可能な点

-なぜSimTreadを選んだのですか?-

足達 安全・安心・快適の視点で、人の動きをどのようにシミュレーションするかが長年の課題でした。その中で、BIMのいろいろな手法や、コンピュータ上で3次元モデルが簡単に再現できることに注目して、今までもさまざまな人動態(歩行者)シミュレーションソフトの可能性を検証してきました。SimTreadの場合、VectorworksでIFC形式が扱えるので、他のソフトで作成した建物モデルのシミュレーションも可能です。今回は、GISデータの活用も含めデータの連携にも注目し、SimTreadをぜひ評価したいと考えました。

櫻井 48時間という限られた時間内で、単純な避難シミュレーションだけでなく、普段の人のアクティビティから建物の設計を考えていくことに挑戦したいと考えていたので、多種多様な分析と検証を短時間で可能にすることが必要でした。そういう意味でVectorScriptでカスタマイズ可能なSimTreadに期待して活用しました。

SimTreadでのシミュレーションに加えさまざまなシミュレーション結果を総合評価

-どのように配棟や配置計画を決めていったのですか?-

櫻井 ゾーニング計画からSimTreadを活用しました。部屋の用途や利便性、快適性から最初に隣接関係グラフをつくり、さまざまなパターンの論理ゾーニングをしました。それらに対し3つのシナリオで33通りのシミュレーションをかけて絞り込みをしています。その他、津波を想定し建物形状を検討するために流体(圧力)シミュレーションを、法規的な部分のチェックで日影シミュレーションを、さらにエネルギーシミュレーションや家具転倒シミュレーションの結果を総合的に評価することで、配棟を決定しました。

足達 防災関係者の中でも、人の動きや使い方から空間を考えることが足りないのではないかという危機感もあり、性能設計に向けて何ができるかということも考えなくてはいけないと感じています。例えば、地下鉄のコンコースと建物がつながっている場合、時間帯によっては人の動きで複雑な問題が発生する可能性もあります。ですから、配棟計画では、広域的に人の流れを解くことにも挑戦し、ArcGISとVectorworks、SimTreadのデータ連携により、避難の際、周辺建物から人がどのように敷地内に流入するかも検証しました。

シミュレーション結果をどのように分析し、計画案に活かすかが重要

-論理ゾーニングを検証するにあたって一番苦労した点は?-

櫻井 シミュレーションの自動化プログラムを早急に完成させる必要があった点は苦労しました。また、非常時、平常時、イベント時の3つのシナリオに基づくシミュレーションから論理ゾーニングを絞り込みましたが、客観的に結果をどのように評価し、表現するか悩みました。今回は、シミュレーション完了時間に加え、移動時に人が滞留する箇所数で評価しました。

足達 計画案については、意匠・構造・設備設計含めてシミュレーション結果を吟味する時間があれば、もっと有機的にできたと思いますが、BLKは48時間の仮想コンペということもあって、やはり時間の制約が一番大きかったです。

自動化によって意匠設計とゾーニングプランのコラボレーションが短時間で実現

-SimTreadを活用し上手くいったと感じる点は?-

櫻井 シミュレーションの自動化は、貴重な経験です。エクセルで設定したシナリオをVectorScriptで読み込んでシミュレーションをかけると結果が出る流れですので、シナリオを変えても即座にシミュレーション結果が出せます。簡略化した概念モデルで、人が目的地まで最短経路で行くことを前提にシミュレーションしましたが、ある程度の問題が明らかになることが検証できました。今後は、人に多様な属性を持たせ、より複雑なシナリオでいろいろな動きをしたときにどうなるかを追求してみたいと思っています。

足達 論理ゾーニングはセコムで担当し、意匠設計担当からの要望である分棟や円形の建物形状と合わせて、空間の関係性が崩れないように配棟のゾーニングをしています。そういう意味ではシミュレーションを自動化できたことで意匠設計とゾーニングプランのコラボレーションが短時間でできたと感じます。

潜在的なニーズやリスクの顕在化と情報共有で安全・安心を提案

-今回の経験をどのように活かしたいですか?-

櫻井 リスクは簡単にはイメージができませんから、そこを予測して見える化し、お客様と共有して安全・安心を提供することが重要です。BLKでのシミュレーション活用は、まだまだ最初のステップであり、これで完成とは思っていません。今回使ったようなツールの活用をさらに進めて、説得力のある提案をしていきたいと思います。そして、研究者の視点では、プロの能力をさらに高めたいと考えています。その時にSimTreadのような歩行者(人動態)シミュレーションをもっと活用していきたいと感じます。

足達 BLKでは、いろいろなゾーニングシミュレーションの結果が建物形態に影響を及ぼしています。設計の初期段階でこのようなシミュレーションが有効である一例を示せたのではないかと感じます。潜在的なニーズやリスクを洗い出すためには、建物単体だけでなく周りの状況も含めていろんな観点で解析やシミュレーションすることが必要です。そして、セコムでは新しく建物を建てる時だけでなく、建物ストックの有効活用や、維持管理をどうするかという面においてもお客様と多くの接点があります。そういった観点からBIMやGISデータ、そしてSimTreadなどのシミュレーションソフトをうまく活用していきたいと考えています。

Build Live Kobe2011に参加したセコムIS研究所のみなさんの感想

Team BIX、セコムIS研究所のみなさん。右から守澤氏、足達氏、チームリーダーの櫻井氏、田中氏、井上氏。

田中 英人 氏 大規模災害時(津波)のシミュレーションで、周辺建物と敷地内の滞在者を計画建物5Fのある部屋に避難させましたが、今の避難シミュレーターでは部屋に到達すると人が消えてしまいます。実際には部屋の混雑で避難できなくなる可能性もありますから、そこまで再現できると、一歩進んだシミュレーションになると感じました。今回は、ArcGISとVectorworks、SimTreadでデータ連携しましたが、信憑性の高いシミュレーション結果を得るために、さらなるデータ連携の可能性も考えていきたいと感じます。

守澤 貴幸 氏 BLK参加には、私たちなりの設計への携わり方の可能性を探るという目的もありました。空間的な視点からアプローチをして、安全・安心・快適な建物を具現化する挑戦でしたが、SimTreadを使うことで、計画案に説得力のある説明ができたことは、今後の活用に向けて大きな武器になったと思います。さらに、シミュレーションの自動化は、これから実務でのBIM活用を推進する上で重要な部分ですが、BLKではその一歩を踏み出せたのではないかと思います。

井上 雅子 氏 隣接関係グラフをもとに検討した論理ゾーニングでしたが、シミュレーション完了時間にかなりの差が出て驚きました。昨年、学生チームでBuild Liveに参加した時は、どれだけおもしろいことができるかという視点での挑戦でしたが、計画案をいかに評価してそこにどのような価値があるのか明確にしていく視点は、社会人ならではと感じ、これからもっと勉強していきたいです。BLKに参加したことは、空間や運用を考える上で非常によい経験になりました。


ー取材を終えてー

今まで経験値や暗黙知でアナログ的に決定していたことでも、改めて見える化することはとても重要だと思いました。そして、設計の初期段階でいろんな視点を持った人達が、さまざまな角度からシミュレーションをおこなって、コラボレーションしながら結果の評価をしていくことで、フロントローディングによる、よりよい空間の創造が生まれる可能性を感じました。

エーアンドエー株式会社販売推進部 CR推進室 竹内 真紀子

【取材協力】

セコム株式会社 IS研究所 http://www.secom.co.jp/isl/

基盤技術ディビジョン ビルディングテクノロジーグループ
主務研究員 足達 嘉信 氏
研究員  櫻井 利彦 氏
研究員  田中 英人 氏
研究員 守澤 貴幸 氏
研究員 井上 雅子 氏

(取材:2011年10月)

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