ユーザ事例 & スペシャルレポート

国立高等専門学校は実践的技術者を養成する高等教育機関として1962年に最初の12校が設立されました。豊田工業高等専門学校は翌年の1963年に創立され、建築学科では5年間で「国際的に通用する独創性のある建築技術者」を育成できるカリキュラムが組まれています。今回、Vectorworks導入時のお話を建築学科准教授の竹下純治(たけした じゅんじ)先生に、 建築 CAD の授業内容について建築学科助教の武田紀子(たけだ のりこ)先生と技術部の小林正( こばやし ただし)先生にお話をうかがいました。


-Vectorworksをなぜ選んだのですか? -

竹下 15年ほど前からCAD教育を始めていますが、当初は、基本設計レベルで良いということもあって、お絵描きレベルの簡単なソフトやフリーソフトなどを使っていました。その後、どんなソフトを導入していったらよいかという検討の際に、基本設計に加え、3Dができるソフトということを考えました。学生が創造的に考えた空間を2Dと3Dで表現できると同時に、プレゼンテーションにも使いやすいCADソフトとドローソフトの良さを持ち合わせたCADがいいだろうということで、Vectorworksを選びました。ただ、年々Vectorworksの機能がアップされ、費用面を含め、追いついてゆくのが大変です。しかし、学生にとっても覚えやすいソフトだと感じていますし、今後も使い続けたいと思っています。

-建築CADの授業内容は? -

武田 建築も設計もまだわかっていない2年次に建築CADの授業があります。パソコンにも慣れていないので、前期は基本的なコンピュータの取り扱いから始め、2Dの基本操作練習や簡単なソファやテーブルを2Dと3Dで作成します。さらに、1年生の時に90cm四方の一枚の板から創作課題でつくった家具をVectorworksで2Dと3Dにする課題に取り組みます。後期は、2年生で部屋のインテリアをアレンジする「マイルーム」という課題があり、その空間と家具をVectorworksでつくります。その後、ものがたりの中の登場人物にふさわしい空間を創作する課題に取り組みます。

小林 以前は3年生で建築CADを教えていたので、派出所や公衆トイレなど建築の図面を描かせる課題としていましたが、2年生で教えるということに変わってからは設計の知識も浅いため、現在のような課題になっています。

-建築CAD前期での創作課題の特徴を教えてください。-

武田 1年生の家具の創作課題では実寸の5分の1のサイズで考えて、スチレンボードを使って模型までつくります。図面は90cm四方の5分の1のサイズですから18cm四方のA4の方眼紙を使って簡単なものを描いています。それをもとに建築CADの授業では、Vectorworksで5分の1の縮尺の平面図と3Dをつくり、コンセプトなどもまとめて作品に仕上げます。

小林 この課題はもう10年近く続いています。一枚の板を有効に利用して、なるべく無駄な部分をださないように、パズル感覚で家具をつくるという課題です。

-3Dに対する学生の反応は?-

武田 3Dは4回目ぐらいの早い段階で教えています。2Dと3Dは連動しながら考えた方が全体像も見えて考えやすいのではないかと思います。3Dはテクスチャを貼ったり、光源を設定したりすると実物らしくみえて一気にCADが上達したように感じますから、やはり「すごい」と思うようです。手軽にリアルなものがつくれる感動は大きく、そういう意味で満足度も高いと思います。

小林 特に3Dに組み立てたものを、動かしたり、視点を変えてみたりという操作は楽しそう
に取り組んでいます。

-3Dをデザインツールとして活用した取り組みはありますか? -

小林 一枚の板を利用した家具の創作課題は、先にCADを使って考えた方が考えやすいのではという仮説をたて、調査したことがあります。頭の中でイメージして手でつくるより、CADで組み立てて試行錯誤した方がイメージしやすいのではと考えたのですが、CADの操作に慣れていない段階だと逆に時間がかかってしまって、期待する効果はほとんどなかったです。

武田 CADは描いて消してという作業も楽なので、最初にVectorworksでデザインを考えて、その後に造形デザインの授業で板から切り出した方がよいのではという議論もありました。ですが、最初はやはり手を動かして考えた方が良いということで現在の進め方になっています。

-他のソフトとの連携はありますか? -

武田 前期の建築CADの創作課題はワードでプレゼンテーション資料をつくっています。学生がパソコンにまだ慣れていない段階なので、練習の意味もあってワードを使っています。ですが、できれば後期はプレゼンテーション資料もすべてVectorworksで仕上げたいと考えています。その他のソフトは授業では教えていませんが、学年が進むとイラストレーターやフォトショップなど、個人的に興味を持ってプレゼンテーションに使っている学生もいます。

小林 CADの授業は2年生だけですが、3年生以降の建築設計製図の課題で使うソフトは特に制限はしていません。課題提出はデータでなく紙になるので、もちろん手描きの学生もいますし、CADを使用してイラストレーターに取り込んでレイアウトをして提出する学生もいます。

-学生の学年を超えたつながりや活動はありますか? -

小林 豊田工専は、1、2年生は原則寮です。寮はルールも厳しいのですが、人気があって3年生以降も入りたいという学生は多いです。寮ではイベントもたくさんあるので、そこで縦のつながりができて、CADや他のソフトのスキルやテクニックを先輩から学ぶということはあるようです。

武田 建築学科にはSD(スペースデザイン)研究部という計画系の部活があります。建築好きの学生が集まっていて、コンペ参加などの活動を通してスキルを磨いているようです。また、そういう部活に入っている学生は個人的にポートフォリオもつくっています。そういう意味では学生の自主性にまかされている面も多いかもしれません。

-進学と就職どちらの学生が多いですか?-

小林 年によってばらつきがありますが、進学と就職半々ぐらいか、就職が若干多いかです。

武田 進学は専攻科に進むか大学の3年生に編入するかのどちらかです。以前は就職がある程度保証されていて、就職活動の際にCADのスキルを求められることもなかったようですから、CADに対する意識も薄かったと思います。ですが、最近、なかなか就職が決まらないというのが現実です。工専は高校の一般教科も学びますが、単位制ですから自己管理ということも求められます。今までは学生が切磋琢磨しながら自主的にやってくれることにまかせている面もありましたが、今後は課題の進め方なども含めて見直さなくてはいけないのかもしれません。

-今後どのような授業を行いたいですか? -

武田 基礎から教えて、創造性のある作品をつくらせるカリキュラムでないといけないと思っています。技術を修得しないと、それを活かしてデザインし、自分の自由な発想を広げることができないということもあるので、その部分をできるようにするためには、どのような課題が良いか悩ましいです。手を動かさないと、発想が生まれないということもありますが、それに変わるような方法が何かあればと思います。ですが、それはまだ模索中です。

小林 操作方法だけ教えれば良いという考え方もありますが、できれば3DCADをデザインツールとしても活用できるような教育が理想です。


ー取材を終えてー

今回、初めての工業高等専門学校の訪問となりました。まだあどけなさが残る2年生の授業でしたが、作品が映し出されたパソコンのモニタだけを見ていると、大学や専門学校の学生とデザインする力に大差がないように感じられ驚きました。中学生で進路を決め、親元を離れ寮生活を送りながらデザインに取り組む姿からは頼もしさも感じられました。

エーアンドエー株式会社 広報宣伝部 竹内 真紀子

【取材協力】

豊田工業高等専門学校 http://www.toyota-ct.ac.jp/

建築学科 准教授   竹下 純治 氏
建築学科 助教    武田 紀子 氏
技術部第1技術グループ 小林 正 氏

(取材:2011年6月)

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