ユーザ事例 & スペシャルレポート

今年春、「地中の棲処」で第27回新建築賞を受賞、3月には「嬉野市塩田中学校改築」と「嬉野市社会文化体育館建設工事」プロポーザルコンペで2件同時に最優秀賞を受賞する等、今勢いに乗る末光弘和氏、末光陽子氏の二人が語る建築設計の未来。


Vectorworks Design Pick Up 06

デザインとエンジニアリングがシームレスになる未来へ。

かつて自らをコンストリュクトゥール(施工者)と呼んだジャン・プルーヴェにとって、デザインとつくることは不可分でした。どの時代であっても、テクノロジーとデザインは表裏一体で、近年3Dの造形を駆使した新しい意匠デザインを試みる設計事務所では、それをつくる技術を独自に持つところも出てきています。また、日本の大手ゼネコンには技術研究所があり、ハイレベルな技術開発が行われていますが、私たちは設計と並行して、大手には扱いづらい、アトリエならではの視点で、小規模建築での環境設備等に関する、さまざまな実験・検証を行い、私たちのラボに蓄積してきました。こうした作業は、私たちにとっても楽しいことで、アトリエ・プルーヴェのように、実験研究の機能を抱え込んでアトリエを運営していくことに面白さを感じています。

インターネットで大量の情報が行き来する時代になり、形態や意匠に関しては、逆に世界規模で設計者の個性が薄れてきた印象があります。今後、建築設計とは、これまでのデザインだけに止まらず、製造技術や解析のノウハウを内包した能力に進化せざるをえないのでしょう。例えば、大型のパブリックアートを手掛けるアーティストは、自身の造形を実現するため、自らファクトリーを持っています。建築設計も近い将来、そうなるかもしれないと思っています。ここで必要なのは、私たちと製作者の共通言語です。おそらくCADは作図ソフトを超えて、製作のための情報となり、両者のノウハウのプラットフォームになっていくのではないでしょうか。

これが実現すればコストダウンも進み、建築の可能性はさらに広がるはずです。Vectorworksの進化は、意匠検討と同時に、設計者が手元でさまざまな解析が可能になる総合的なツールに向かっていると期待しています。これらがCADの先駆者であるプロダクトデザインの世界とシームレスでつながって、現代の技術を駆使した建築が考えられるようになる。実際には、日本の若手建築家は、こうした状況が既に実現していても不思議ではない環境にいるはずです。

去年、愛知万博跡地の公共事業で手掛けた「クローバーガーデン」というアートワークは、クローバー形の黒板テーブルを20個を並べたアートプロジェクトですが、この作品では、スタッフが河原で摘んだクローバーをスキャンして、オートトレースした線画を25倍に拡大し、そのデータでNC加工し製作しました。人の手を介さなくても、テクノロジーによって、自然界のものがそのままリアルな人工物になる。ここにもデザインと技術の新しい可能性を感じています。

 

(新建築:2011年9月号掲載)

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