ユーザ事例 & スペシャルレポート

東京造形大学 造形学部 デザイン学科 室内建築専攻領域は、ファニチャー、インテリア、アーキテクチャーの大きく3つの領域をトータルで学び、「コース」に分かれるのではなく特定の専門を深く追求することも、幾つかの専門分野を平行して広い視野で学んでいくこともできます。今回、室内建築専攻領域の准教授で、学年を超えた模型制作の受託プロジェクトを指導されている上田知正(うえだ ともまさ)先生にお話をうかがいました。また、プロジェクトのリーダーとサブリーダーの学生のみなさんにもプロジェクトに参加した感想をうかがいました。


-室内建築専攻領域の特徴を教えてください。 -

室内建築専攻領域は、ファニチャー、インテリア、アーキテクチャーという大きく3つの専門領域があります。学年が進んで行くに従って領域ごとに課題自体も変わっていきますが、基本的には横断型で学び、いずれの領域も選択することができます。広い視野で空間について学んでから、やりたいことを見つけていくというのが特徴になっています。

-製図とCADはどのようなカリキュラムになっていますか? -

1年生で手描きの製図があります。広く空間を扱っていくという意味では建築での常識が非常に役立ちます。建築の基礎はファニチャーやインテリアにも繋がりますので、手描きの製図の中で建築を学んでいくことが大切と考えています。建築図面は描ければ読めますから図面に慣れることも重要と考えています。CADの授業は2年生になってからで、2Dで木造や鉄筋コンクリート造の建築図面を描き、そこからプレゼンテーション用の3Dまで行います。すでに手描きの経験がありますから、2DはCADの使い方に集中できます。製図道具としてCADは常識ですが、その最大のアドヴァンテージはデータが加工できることです。3Dが同じアプリケーション内で処理できるのですから当然それを教えます。

-プロジェクトでもVectorworksを活用しているということですがその内容は?-

今回のプロジェクトは森美術館からの依頼で、今年9月に開催予定の「メタボリズムの未来都市展」で展示するための模型制作です。具体的には丹下健三が設計した「広島ピースセンター」の設計当初の状態を模型で再現するというものです。単位には結びつかない活動ではありますが、学生に広く参加してもらおうと考え、昨年の10月頃学年を問わず有志を募集したところ1年生から3年生まで30名ほど集まりました。ピースセンターは3部作なので、リーダーとサブリーダー、チーム編成もすべて立候補制とし、10名程度の3チームに分かれて作業を進めています。もちろん模型を制作するためには図面が必要になりますし、その図面はすべてVectorworksで描いています。そのためのCAD講習も2回ほど開催しました。

-プロジェクトでのCAD講習はどのようなことを行ったのですか?-

基本的には「習うより慣れろ」ということで、とにかく図面を描いてみようという実践型の講習を行いました。その際、CADを使うことに対して敷居が高くなってしまうのは好ましくありませんし、習う途中で挫折されては困ります。ですから、よりわかりやすくするために、Vectorworksの多くの機能からミニマムの作業画面を用意しました。図面は、線を描くこと、繋げること、切ること、複製や移動、それだけで描けるという話しをしながら実際に描いていきました。CADを単なる道具と思えれば簡単に使っていけると考えています。あとは建築図面の約束事について教えていきました。複雑だと思っていたことが実は簡単なルールで図面はできていることを理解することが大切で、平面図を描いたらその他は運用上で覚えていくということです。今回、図面を描いて模型をつくっているので図面を描きながら建築用語も覚え、模型をつくることでさらに建築がどうできているかが見えてきます。CAD講習は2回だけでしたが、そういった内容を盛り込んで平面図一枚を完成させました。

-プロジェクトやデザイン教育の中でのCADの位置づけは? -

CADは道具として使っているのでまず早く描けることが重要です。道具である以上使えてあたりまえですから直感的に使えることは非常に重要で、そういう意味でVectorworksはインターフェースとしてすぐれていると思います。便利だと思えれば使いますし、もっと機能的に使っていく人も出て来ます。使い方はさまざまで良いと考えています。そこに至る前に挫折させないことが重要です。

-プロジェクトを通して学生のみなさんに学んで欲しいことは? -

現在は試作模型が完成し本模型制作に取りかかっていますが、仕事を期日までに仕上げるということが一番大きいです。そして、すべて学生に任せる意味でチーム分けをしてリーダーとサブリーダーを決めています。特にリーダーとサブリーダーはプロジェクトをハンドリングしていかなくてはなりません。その過程で図面を描くということは、プロジェクトについての理解が最もあるということです。隅から隅まで理解して、人を使うという仕事もしていきます。人を使うことはすごく大変ですが、リーダーとサブリーダーはそういうこともプロジェクトを進める中で、必然的に学びます。ですから、立候補した学生は苦労もしますがやはり得るものも非常に大きいと考えています。

-本模型の完成に向けて学生のみなさんへのアドバイスは? -

基本的には任せないと覚えないので、図面も模型もチェックはしますがそれ以上口を出さないという進め方にしています。三棟の中には図面が十分に無いものがあり、広島で入手した一部建物の竣工図を参考にして類推しないと描けない状態で、かなり大変だったと思います。但し、そのために図面とひたむきにつき合うことになり、図面は設計者の考え方を表現しているものだということを理解しました。そして試作模型をつくったことの重要性がこれからわかります。模型の試作を通じて、図面が役割を分担して立体物を表現していることが身に染みてわかったと思います。より細かい部分に目を向けられるのは試作模型によって立体的な全体構成を把握できたからです。

-今後どのようなことを行いたいですか? -

今後も、現実的なプロジェクトの運営や学年を超えて刺激し合え、縦のつながりが強くなるような環境を積極的につくっていきたいと考えています。その中で、総合性を目指す意味でも建築製図は基礎となります。そして、建築はことばです。慣れることも重要ですから、学生が知らなくても専門用語はどんどん使っていこうと考えています。CADも同様に図面を描くために最低限必要なツールが使えれば、あとは一人ひとりが工夫していけば良いと考えています。

学生に聞きました。
-プロジェクトに参加してよかったことまたは勉強になったことは?-

[本館]担当

リーダー : 川田 智絵 さん (4年)

建築の図面はでたらめな線は一本も無く、描くことは大変ですが一本一本が重要であると感じました。また、このプロジェクトのおかげでCADが使えるようになって良かったです。CADができないまま卒業しなくて良かったです。

サブリーダー : 古屋 有彩 さん (4年)

専門領域は「ファニチャー」ですが、単純に建築に興味があり、CADができるので参加しました。図面が読めるようになったことが良かったです。そして、模型をつくることでわかることがとても多かったです。

[陳列館]担当

リーダー : 関口 冬記 さん (4年)

図面を読めるようになってCADで図面が描けるようになったことが良かったです。図面については断面図の重要性を感じました。さらに、丹下健三の図面(原図)を見られるのはとても貴重な体験で、その図面からさまざまなことを読み取ることができたように感じます。

サブリーダー : 柳沢 友樹 さん (3年)

一番大きかったのは作図のスキルアップで図面が読めるようになったことです。人を動かすということではまだまだですが、建築はもう少し深いところで理解できたかなという感じがしています。

[公会堂]担当

リーダー : 高橋 維 さん (4年)

CADのスキルがあがったというのは皆と同じです。そして、プロジェクトの打合せの際に上田先生は建築用語など解説しながら話しをして下さるので、すごくいい時間を過ごせていると感じます。

サブリーダー : 水口 稚那 さん (4年)

計画全体がわかるものが寸法の入っていない断面図しかない状態の時があって、何度も図面を描いては描き直して試作模型をつくったのですが、繰り返しやっていくうちに自分では気づかないうちに色々できるようになっていたと思いました。


ー取材を終えてー

図面作成はかなり大変な作業だったようで、連日連夜スカイプで議論しながら図面を描いたチームもあったそうです。ひとつの作品に真剣に向き合っている学生のみなさんの感想からは、CADスキルも建築への理解も格段にあがったことの喜びと、苦労の中で充実した時間を過ごせていることが感じられ、森美術館での模型展示がとても楽しみな取材となりました。

エーアンドエー株式会社 広報宣伝部 竹内 真紀子

【取材協力】

東京造形大学 http://www.zokei.ac.jp/

造形学部 デザイン学科 室内建築専攻領域 准教授 上田 知正 氏

(取材:2011年5月)

この事例のPDFファイルをダウンロードする

 

記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様は予告なく変更することがあります。