ユーザ事例 & スペシャルレポート

多摩美術大学 美術学部 環境デザイン学科は、人々が関わる空間すべてをデザインの領域と捉え、2年生から、インテリアデザイン・建築デザイン・ランドスケープデザインの3つのコースから課題が選べます。いずれのコースも、広い視野に立ってシームレスな環境でデザインを学びますが、1年生でCADも含め3つの領域の基礎となる知識の修得が必要になります。

今回、環境デザイン学科 学科長で教授の田淵諭(たぶち さとし)先生とCADCGの授業を担当されている講師の森政巳(もり まさみ)先生にお話をうかがいました。


-環境デザイン学科の特徴を教えてください。 -

田淵 環境デザイン学科は、3つのコースから成り立ち、それらをトータルした意味での「環境」をデザインしていくことを目的としています。1年生は3つの領域の基礎を学びますので全員同じ教室で同じ課題に取り組みます。軸となっているデザインの授業では2、3年生は仕切りのない大きな教室で、好きなコースの課題にわかれて取り組みます。ですから、違うコースを選択した学生が何をやっているのか、なんとなくわかる環境で授業を行っています。また、インテリア・建築・ランドスケープのコースは固定ではなく、課題ごとに好きなコースを選べるということも特徴になっています。

-環境デザイン学科のCADと製図はどのようなカリキュラムになっていますか? -

田淵 CADは1年生の前期にCADCGⅠという必修授業と、後期に選択授業のCADCGⅡがあります。手描き製図は1、2年生必修で、設計製図演習Ⅰ・Ⅱがあります。その他、デザインの授業では年に4つの実技課題があり1年生はすべて手描きとしています。CADも重要と考えていますが、手描きできれいに描けないとやはりCADでもきれいに描けません。そして、手はデザインの第二の脳とも言われていますから、1年生のデザインの課題にCADは使わせていません。2年生からはほとんどの学生がデザインの課題提出にVectorworksを使用しています。今のところCADCGの授業は1年生の前期後期のカリキュラムですが、CADを学ばせる学年や時期については講師の先生とも相談し試行錯誤の段階です。

-森先生が担当されているCADの授業内容を教えてください。-

 1年生前期のCADCGⅠと後期のCADCGⅡを担当しています。どちらもプレゼンテーションまでできることを目標としています。図面を描くだけでなくビジュアルとしてポートフォリオにまとめることを前提に、Vectorworksの他、Adobeのイラストレーター、フォトショップも使っています。Vectorworksは、手描きの授業の課題とも連動させCADで描くメリットを体感させます。また、デザインの授業で描いた椅子をVectorworksで描き、フォトショップで影をつけるなどソフトの連係も含めて、作品に仕上げるまでの一連の流れを繰り返し違う課題で教えています。

-CADCGの授業はどのような教材を使って行っていますか?-

 教材は全てオリジナルで、前期は簡単な図形から入ります。四角形を描いて数値入力で移動して寸法通りに描くことから始め、基本操作を教えています。特に建築の図面でよく使うツールは集中的に教えています。また、設計製図演習やデザインの講師の先生とも相談し、同じ内容を手描きの後にVectorworksで描く課題も取り入れています。建築と関係のない絵を描いても学生は興味が湧かないと考え、後期は有名建築の住吉の長屋とファンズワース邸を題材にしてVectorworksで平面、断面、立面図のトレースと3Dモデリングまで行います。課題は最終的にはイラストレーターやフォトショップを使って仕上げています。

-3Dに対する学生の反応は?-

 3Dに対しては抵抗がなく、立体になってちょっと動かせたりすると楽しいと感じるようです。前期から、簡単な図形の三面図を3Dにすることは体験させ、後期の3Dモデリングも問題なく操作しています。ただ、階段など複雑な形になると難しいようです。模型をつくる感覚と同じですが、平面図、立面図、断面図をしっかり理解できているかが重要です。

田淵 3Dをつくって空間を把握した気分になってしまうというのはCADの悪い面でもあります。ヴァーチャルとリアルの境がなくなってしまうことも難しい点で、ヴァーチャル教育とリアル教育はセットでなくてはなりません。スケール感や空間の把握力をつけるには色んな空間を実体験することが重要と考えています。CADでつくった空間をシミュレーションして実物にするにはどうするか、その間をCAD教育と実技教育でどう埋めていくかが課題だと感じます。

-どのようなことを目標にしてVectorworksを教えていますか?-

 基本的なことを覚えたら、それをどのように応用するかという発想に変えて行かないとCADは使いこなせません。1年生ということもあって、一方的な授業になりがちですが、手描き同様製図の基礎から、人に伝えるための図面、表現方法を学生一人ひとりが自分なりに工夫して身につけていくことを目標にしています。

田淵 相手に伝えたいことを表現するために何を使うか、その選択肢のひとつとしてCADが使いこなせることが大切です。そのためにもスキルをあげなければいけないと感じますし、デザインする中で、頭で考えるスピードと手でつくっていくスピードにできるだけ差が無いことが理想です。CADを使いこなせるようになれば、そのタイムラグがなくなるような気がします。CADを意識しなくなることが理想的なCAD教育の行き着くところではないかと思います。

-デザイン教育の中でのCADの位置づけは?-

田淵 手で描いたり模型をつくったりということとは別のアイデアを生み出すツールとしてCADの活用をすすめてゆくことです。ですから、何でも描ける単なるツールではなく、それを超えた段階で、新たな空間づくりのもとになりイメージの原点になるようなもののひとつとしてCADを考えられればと思っています。そういう可能性も含めてCADを学ばせていきたいと考えています。

 もはや実務の上では当たり前となったCADですが、学生にとっては表現手段のひとつに過ぎません。アナログな表現手法と同様に、いかに個性を出して人に伝えられるかが重要だと思います。2年生以降、授業での体験を発展させて作品づくりに役立ててくれることを期待します。

-今後どのような授業を行いたいですか?-

 同じ課題で一緒に作業しながら進む授業が多いため、もう少し学生が考えながら描く要素も盛り込んでいきたいと考えています。また、アイデアを練る過程でCADをどのように活用するかも重要です。そういう意味でGoogleスケッチアップの活用やグループで作業を進めるような課題にも取り組めればと思います。

田淵 もっと上の学年でCADの授業をすることも検討しています。学生のステージがあがった段階で難しい内容を学ぶことで、リテラシーを超えたCADにしかできないところに繋げられたらと考えています。さらに、一つの課題を徹底的にCADで描いて疑似体験できる空間までつくり込み、実際に模型などをつくってヴァーチャルとリアルで何を感じるかについて議論する場も持ちたいです。学生達は完全にヴァーチャルの世界で育ってきていますから、彼らの感覚や発想からどういうことが生まれ、我々の感覚とどういう違いがあって、それが何かを議論することでCAD教育と実技教育の間を埋める方法も見つかるのではないかと感じます。

【取材協力】

多摩美術大学 http://www.tamabi.ac.jp/kankyou/

美術学部 環境デザイン学科 学科長 教授 田淵 諭 氏
美術学部 環境デザイン学科     講師 森 政巳 氏

(取材:2010年12月)

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