ユーザ事例 & スペシャルレポート

第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞し国際的に注目を集める石上純也氏。CAD、製図、模型制作、そして実際の建築の間にヒエラルキーはなく、その総体としての「建築」の世界を切り開く。


Vectorworks Design Pick Up 03

プランを描く同じPC画面上で小さなスケッチも描いている。

どれだけ建築が軽くなったとしても、人は「建築」は質量があり「空間」は空っぽという感覚から逃れられない。その境界線をなくす建築物のイメージを作りたいと思っていた。

空っぽに見える空間は実際には、自然現象を構成する要素の1つである空気で満たされているマッシブな固まりと捉えることもできる。そういう空気の中にある水蒸気や雨粒や雲の粒子のようなスケール感で建築の構造体をつくってみたいと思った。

自然現象は透明に見える空間が変化することであらわれてくる、例えば雨が降るように建築が建つ。建築が構築できる臨界点への挑戦。それが2010年のヴェネチア・ビエンナーレに展示した「空気のような建築」だった。建築の展覧会は未知の世界を試す場所。

建築は人が使う中で変容していくので、竣工が建築の最終形態とは考えていない。どこまでがプロセスでどこからが最終形態か、ぼくの中ではヒエラルキーはなくて、ペラペラの紙からインスピレーションを得たのなら、ぼくには最初の紙の模型も建築同等の価値を持つ。

建築はある縮尺を与えないと全貌を描けない。でも、それによって建築という造形物に抽象性が与えられていると思う。さまざまなスケールの図面、模型、そして実際の建築も、ぼくにとっては空間を発見するそれぞれの次元で、そこを行き来する中で建築特有の抽象性がつくられていく感覚がある。それらが積み重なり、折り重なって建築という新しい世界が切り開かれる。そこが建築の面白さだと思う。

「KAIT工房」の設計では、スケッチや図面では空間の把握が難しく、模型にした時に部分と全体を同時に捉えた感覚があったので、その視点をCADに応用できないかと、オリジナルのプログラムを設計し、Vectorworksと併用して、森の樹木のようにランダムな柱の配置と柱同士の関係や距離感を詰めていった。

プロジェクトごと模型の素材やつくり方が違うように、平面を描く道具もいろいろあっていい。それは考える過程で自然に出てくるものだと思う。いずれにしても考える道筋をスムーズに辿れるものじゃないとだめなのではないだろうか。

スケッチは鉛筆を使うこともあるけど、ほとんどの場合Vectorworksのフリーハンドツールを使って描いている。CADで図面を描いている同じ画面上で、マウスを動かしてスケッチを描くほうが自分に合っていた。手描きだと思っている人は多いみたいだけど。

 

新建築:2011年1月号掲載)

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