ユーザ事例 & スペシャルレポート

年間の舞台上演回数は3000回を超える劇団四季。海外ミュージカルからオリジナルミュージカル、ストレートプレイまで、毎日のように全国にある拠点劇場の他、全国各地の劇場でも舞台が上演されています。その舞台を支える音響、照明、美術の技術スタッフにとってVectorworksは欠かせません。舞台の現場でVectorworksがどのように活用されているかご紹介します。

今回、四季株式会社の技術スタッフのみなさんにお話をうかがいました。


海外作品はすべてCADデータ

-舞台ができるまでの流れを教えてください-

作品にもよりますが、海外作品の場合は海外で上演された舞台の完成図書がCADデータで送られてきます。最近はVectorworksで送られてくるケースが増えました。但し、劇場の大きさ、舞台の間口や幅はそれぞれ違います。ですから、送られてきたデータをもとに、同じ演目でも上演する劇場ごとに基本的にはすべて図面を描き直します。それぞれの部署で図面の作成と修正などさまざまな調整がはいりますので、初演の海外作品ですと、舞台製作に約半年~1年ぐらいの期間を要します。最終的には舞台の図面は完成図書にします。

大掛かりな舞台セットなど製作する物はすべてVectorworksで

-舞台装置部では、どのような図面を作成するのですか?-

実際に上演する劇場での舞台の計画図面と、舞台セットで製作するものはすべてVectorworksで図面にします。計画図は平面図と断面図、製作するものは三面図にします。アメリカの作品は、図面の寸法がフィートやインチなので、数字をどうまるめるかという調整が必要になり、基本的には日本で作りやすい仕様に変更して図面を描き直します。また、上演する劇場の図面を3Dで描いて、客席に座った位置から舞台セットがどのようにみえるかという検証を行うこともあります。舞台の場面転換やそれぞれの場面ごとに、美術セットをどのように収納するかの検討や、舞台上だけでなく、搬入経路や、エレベータのサイズ、トラックにセットが収まるかなど、詳細にわたって図面で検討します。さらに、図面から実際の素材感がわかる模型もつくり、シミュレーションを行います。

舞台の場面ごとに検証し、現場での効率を考えた仕込み図もVectorworksで

-照明では、どのような図面を作成するのですか?-

舞台装置部からきた舞台の計画図面に、実際に設置する照明の位置や数をシンボルで入れていきます。つぎに、舞台の上部にあるバトンの位置と舞台セットの位置などを確認し、照明器具を吊る位置と角度を決め、場面ごとにひとつひとつ検証をしていきます。さらに、Vectorworksで作成したセットの図面を灯体の照明をシミュレーションするソフトに取り込み、舞台を再現した3Dでの検証を行うこともあります。海外から送られてくる図面は劇場全体の総合図面で出てくるケースがほとんどです。ですから、実際の舞台設営時に、数百に及ぶ照明器具をどのように効率よく仕込むか、総合図面を小分けにして部分的に拡大した仕込み図も作成し、注釈を入れたり、寸法を日本仕様に変えていきます。

音響では製作や仕込みが複雑になりそうな場合は3Dでの検討も

-音響では、どのような図面を作成するのですか?-

基本的には照明と同じです。図面作成にあたっては、音の広がりが3Dで表示され、音圧レベル、スピーカーの位置や振り角、吊り点の位置や荷重などがわかる音響メーカーのシミュレーションソフトも利用します。そのデータをもとに、スピーカーやマイクの位置と角度を調整し、Vectorworksの平面や断面図に描き込んでいきます。スピーカーを設置する架台も音響で検討しますので、複雑になりそうな部分は3Dにしています。実際、図面上は納まっていても、現場で設営すると、壁が邪魔で取り付けられないなどのトラブルも少なくありません。立体的な位置関係がわからないと製作の際にも仕込みの際にもわかりにくいので、部分的に3Dで最初から検証しています。3Dによって、現場でのトラブルを未然に防ぐことができます。

舞台すべてに気を配り、Vectorworksで現実的な位置に修正する舞台監督部

-舞台監督部ではどのような検証を行うのですか?-

海外作品は美術プランが決まっています。ですから、実際に公演を行う劇場で、そのプランを実現するにはどうしたらよいかの検証をします。例えば、セットを置く位置も、どこに何を置くのか、それは客席からどのように見え、角度を変えたり、位置をずらすとどうなるのか、そういった検証をVectorworks上で行い現実的な位置に修正をします。舞台上の細かい物まで含め、どこに何を置くかの指示図面となります。場面ごとに、舞台セット、照明、音響等との位置関係で、俳優がこれでは演技できないという部分も、それぞれの部署と調整しながら修正していきます。最終的に全体をまとめる部署ですから、調整作業も非常に多くなります。

舞台製作は舞台美術、照明、音響の連携が鍵に

-Vectorworksを活用する際のポイントは?-

例えば、舞台上の物が通る軌跡が示された図面が舞台装置部から舞台監督部に行き、実際に物を置くとこのようになるという図面が、場面ごとに積み重なります。途中段階でもどんどん部署ごとでの検討修正が入りますので、部署間での連携が重要なポイントになります。例えば、ひとつのものを動かした際、ファイル共有機能ですべてに反映できる点は非常に便利です。さらに、音響や照明では機材も多種多様になりますので、シンボル登録しておくと作業効率が格段にあがります。舞台の場面ごとにレイヤやクラスを使い分けることで、作品図面をひとつのファイルで管理できる点も重宝しています。

Vectorworksでの検証により、現場での調整も最小限に

-実際の現場で苦労する点は?-

同じ演目でも劇場ごとに舞台の条件や客席の条件はさまざまで、同じ機材を持って行って仕込めるかというと、難しい場合もあります。ですから、上演するすべての劇場ごとに図面が必要です。実際現場に行くと、もらっていた劇場の図面との食い違いがあるなどで、仕込み図通りに舞台が設営できないこともあります。仕込み期間も短いため、現場で仕込み作業をしながらの調整となりますので苦労します。ただ、今は細かいパーツも詳細まで検討しVectorworksで図面を描いているので、現場で調整すべきことの絶対量は減りました。

舞台の検証がよりリアルにできる3Dのさらなる活用を目指す

-Vectorworksを使ってこれから取り組みたいことは?-

拠点劇場も増え、さまざまな作品を多くのお客様に観ていただける環境が整ってきました。それに伴って上演作品も増えますので、舞台製作の現場はますますスピードと効率が求められることになります。今は、どの部署も部分的には3Dで検証もしていますが、基本的には平面断面で立体を考えています。ですから、実際に立体にすると見落としもあります。全体を3Dで検証することで、見落としがちな問題点ももっと簡単にわかるのではないかと思います。現在は、素材感がわかるように模型をつくっていますが、舞台の場面ごとに音響や照明の位置なども3Dで写真をみるごとく確認できることが理想です。Vectorworksの操作については実務で使いながら、また教え合いながら、技術スタッフ一丸となって、さらに効率の良いやり方をみつけていくことが大切だと感じます。

音響部 吉田 常夫 氏

ロングラン公演で大型の演目ですと、劇場にパソコンを持ち込んで、ものを作り変えたり、急にパーツを追加して鉄工所にお願いするための図面を描くこともあります。ロングラン公演は照明も音響も維持管理が大変です。音響は10年が入れ替えの目安になります。

照明部 阿部 真生 氏

デザイナーがひと場面ごとに「あかり」が欲しい場所を描いていき、その場面ひとつひとつが照明でいうレイヤです。積み重なったすべての場面を整理したものがVectorworksの照明図面であり、最終的な仕込み図になっていくことは理解していた方が良いと感じます。

舞台監督部 柿木 由起子 氏

現場に入ってからの調整はあって当たり前なのですが、色んな経験をしていくと解決方法の引き出しもすごく増えていきます3Dは使いこなせていませんができるようになるともっと現実的な状態で設計ができ、さまざまな活用ができるのではないかと思います。

舞台装置部 日下部 豊 氏

舞台セットや道具は、舞台面積の約3~4倍はあります。それをどうやりくりするか、場面転換がスムーズにできるセットの分割や、設営時にその分割部分が見えないようにするにはどうするかまで細かく検討を行います。

【取材協力】

四季株式会社 (SHIKI THEATRE COMPANY) http://www.shiki.gr.jp/

 音響部   吉田 常夫 氏
 照明部   阿部 真生 氏
 舞台監督部 柿木 由起子 氏
 舞台装置部 日下部 豊 氏

(取材:2010年10月)

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