ユーザ事例 & スペシャルレポート

エーアンドエーのBIM対応3次元CAD「Vectorworks」シリーズによる設計効率を、さらに高める新サービスが誕生した。「Virtual House .NET for Vectorworks」だ。日本国内で使われている約90社の建材・設備の3次元モデルデータや2次元図面、画像など、約9万点のデータをインターネットでダウンロードできる。この国内最大級の建材データベースを活用する建築家の河村容治氏が、その評価を語った。


国産の家具、建材をリアルに3次元モデル化
Vectorworksのデザイン力がさらにパワーアップ

BIMソフトとしても知られるエーアンドエーの3次元CAD「Vectorworks」は、高度なデザイン力と直感的な操作性に定評がある。その強みを生かし、日本の建物を3次元で設計するためには、日本独自の規格で作られた家具や建材、設備などの3次元モデルデータを効率的に入手する必要がある。

こうしたユーザーのニーズにこたえて誕生したのが、建材CADデータ提供サービス「Virtual House .NET for Vectorworks」だ。エーアンドエーと福井コンピュータの提携により、2010年2月に始まったこのサービスは、日本国内で販売されている家具や建材、設備などの実物を元に作られたデータを、Vectorworksのユーザーに提供するものだ。

Vectorworksの前身、「MiniCAD」時代からのユーザーである河村容治氏は「Vectorworksの3次元表現は、施主に設計のイメージを伝えるのに非常に有効です。Virtual House .NET forVectorworksは、国産の建材や設備などの3次元モデルが豊富にそろっており、直感的に選べるので助かります」と語る。

データには建築設計に必要不可欠な情報が満載。3次元モデルデータはもちろん、2次元CAD図面、写真、テクスチャー、そして製品仕様のテキスト情報が含まれている。

Vectorworksのユーザーは、年間1万500円(12ヶ月パスポート。税込み)という低料金で、登録されている日本の建材メーカーの様々なデータが使いたい放題。さらに、メーカーの新製品や改廃などに伴って更新される膨大な建材データも反映されるため、その利便性は非常に高い。

「このサービスができたことにより、Vectorworksは日本の住宅やインテリアの設計で今以上に、ますます使いやすくなりました。3次元モデルは3ds形式で提供されているので、テクスチャー付きのまま、Vectorworksにスムーズに読み込み、図面やパースの作成に使えます。設計効率は非常によくなりました」と河村氏は語る。

本物の雰囲気をリアルに伝える3Dプレゼンで
施主を"本気モード"に変える

住宅の設計を主に手がける河村氏が大事にしているのは、施主とのコミュニケーションだ。「打ち合わせを重ねるうちに施主との間に信頼関係が生まれ、だんだん施主のライフスタイルが分かってきます。建物の設計も外部から内部へと関心が移っていく。それからが本当の設計の始まりです」と河村氏は語る。

その過程ではVectorworksで数多くの間取りプランを提案し、施主の意見を聞く。間取りを左右でひっくり返したり、平屋を2階建てに変えたりして、1件の住宅を建てるのに数十案作ることもあるという。

「Vectorworksは2次元図面を描いていくのと同時に、3次元モデルも作る"ハイブリッド構造"になっています。そのため、施主に間取り図を次々と提案しながら、パースを見せたり、ウォークスルーでプレゼンしたりできるのが強みですね」(河村氏)。

システムキッチンなどを選ぶときも、色やデザインが異なるものが数種類用意されているので、施主の前で色などを変えながら比較検討しやすくなったという。

「実際に市販されている製品を3次元モデル化したデータは、とてもリアルで、施主を"本気モード"にする力があります。例えば、初めは壁紙の張り替え程度だったのに、壁紙に合わせてイスやカーペット、照明器具、キャビネットなど実物のモデルデータをコーディネートしていくと、部屋を丸ごとリニューアルするという話に発展することさえあります」(河村氏)。

最近は住宅のエコポイント制度に対応する建材のニーズも高まっている。Virtual House .NET for Vectorworksは、エコポイント制度の対象となる建材を選びやすくする配慮もなされており、とても扱いやすくなっている。

VectorworksのBIMがパワーアップ
施工や維持管理への活用にも期待

Virtual House .NET for Vectorworksでダウンロードしたデータには、建材の寸法や材質、メーカー名などの仕様情報をまとめたCSV形式のテキストファイルが含まれている。河村氏はこのテキストファイルの可能性に注目している。

「このファイルが優れているのは、同じ種類の建材ならば、メーカーが違っても同じ項目でデータが整理されていることです。そのため、異なるメーカーの製品データを一覧表にして比較できるのです」と河村氏は言う。

例えばシステムバスの場合、データの項目は「商品シリーズ名」に始まり、「メーカー」「流通状態」「分類」「種別」・・・といった具合に並んでいる。「価格」や「火災時の安全」、「高齢者への配慮」といった項目まである。

「現在でもこのデータを、Vectorworksのレコードフォーマットに取り込み、標準搭載されているスプレッドシート(ワークシート)に反映させて、図面と連動した仕上げ表を作っています。そのため、データの転記ミスなどが起こりません。将来はさらに効果的な活用方法が実現できるでしょう」と河村氏は言う。このテキストデータの情報を建材の3次元モデルにインプットし、BIMによる設計、施工、維持管理に使おうというのだ。

Vectorworksの図形には、属性情報を格納できるようになっている。テキスト形式の仕様データを、3次元モデルの属性情報としてインプットすることにより、パースや2次元図面のほか、仕上げ表や見積書などとも連動するようになる。

建材などにインプットされた材質などの情報は、形状データとともにエネルギー解析や構造解析、温熱環境シミュレーションにも使える。さらに、長期優良住宅に求められる補修履歴などのデータも入力し、随時メンテナンスしていくと、建物のリフォーム時などに大いに役立つ。

「3次元の建物履歴データを保守する業務を通じて、竣工後も施主との継続的なつながりが生まれます。適切なタイミングでリフォームやメンテナンスの提案ができるので、建物の価値を継続的に保つことができます。施主にとっても、設計者にとってもメリットがあるでしょう」と、河村氏は維持管理段階でのBIM活用を含め、Virtual House .NET for Vectorworksの可能性を展望している。

【取材協力】

一級建築士事務所 河村工房 http://kawamurakobo.com/

河村 容治 氏

この事例は日経BP社の許可により「建設・不動産の総合サイト ケンプラッツ」で
2010年5月17日より掲載された記事をもとに編集したものです。

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