ユーザ事例 & スペシャルレポート

空間デザインの分野で業界を代表する、丹青社と乃村工藝社。この2社において、Vectorworksは標準的に使われるツールです。前編は丹青社でのVectorworksの使い方をご紹介しました。後編は、乃村工藝社における具体的なVectorworks活用事例をご紹介しましょう。

お話を伺ったのは、商環境事業本部クリエイティブ統括部デザイン2部 デザイナーの濵㟢大輔(はまさきだいすけ)さん。Vectorworksをとことん活用するその仕事術は、緻密で個性的です。


乃村工藝社 商環境事業本部クリエイティブ統括部の場合

乃村工藝社では、大きく分けて商業空間、イベントなどの販売促進、文化空間の3領域のデザインを行っています。このうち、商業空間と文化空間でVectorworksを使う機会が特に多いとのこと。濵㟢さんは、所属する商環境事業本部で主に物販店と飲食店を担当され、Vectorworksをかなり使いこなしています。

正確なイメージを導くことでデザインと対峙

普段はどのようにVectorworksをお使いですか?

デザインに対する専門的な知識をもっていない一般の方やお客様に対して空間がどうなるのかを説明できる、色つきの「意匠図」を描くときに使うのがメインです。パソコン画面上でのプレゼンテーションは、今後増えていく可能性は十分にありますが、基本的にありません。出力した図面でプレゼンを行います。あとはCGのモデリングにも使いますし、施工のための図面もVectorworksで描いています。Vectorworksで大枠を立ち上げたものを下描きに、付加・調整しながら手描きでスケッチすることもあります。デザインに向き合う時には、細かい部分まで正しく把握して突き詰めて考えるタイプですから、ボリュームが正確に押さえられるVectorworksはずいぶん活用させてもらっています。

効率も美しさも手に入れるVectorworks

Vectorworksを使ってスケッチをするのは、正確さが鍵、ということでしょうか?

もちろん一から手描きでスケッチをすることもありますが、たとえばひとつの空間で、右から見たものと、左から見たものを描こうとすると、手描きなら2つ、最初から作業をしなくちゃならないですよね。でもVectorworksをベースにすれば、その手間がいりません。正確さももちろんですが、時間を短縮できるのも大きいです。設計が変更になった場合でも簡単に描き直しができますから。

線のきれいなVectorworksでの作図が基本

Vectorworksの他にもIllustratorなどをお使いでしょうか?

Vectorworksで立ち上げたものを下描きにしたスケッチやCGは、Illustratorにデータを貼り付けてプレゼンテーション資料にすることが多いですが、平面などの図面をIllustratorに持っていくことはありません。Vectorworksのほうが、図面として見やすい表現ができるからです。私は文字や寸法線の配置にもこだわって描くのが好きなタイプで、だから私の図面はすぐに分かると言われます。図面として必要な情報が盛り込まれていれば十分というわけではなく、すみずみまで気を配り一枚の絵として、美しく仕上げるようにしています。

細かい部分まで作り込んだ図面でモチベーションを高め、信頼を得る

非常に美しい図面ですね、見せ方にもこだわりが?

ひとつには私の性格もありますが、クライアントは私たちが提示する図面を通して、デザインだけでなく、「この人はどこまで気を遣ってくれるのか」も見ています。文字の置き方のバランスはいいか、寸法は見やすいか、など、細かい部分も含めてひとつの絵として評価される。その時にディテールが甘くて熱の感じられない図面(絵)にするのはもったいない。そこまで見ない人ももちろんいますが、ここまで気を遣う人なら、と信頼に繋がることも少なくありません。作図で集中すると、実際の空間にもこだわりが持てますし、作図を通して気づくところも多々あります。文字をバランスのいい場所に持ってくることは実際の空間では関係のないことです。しかしながら、たいした作業ではないことをひとつずつ積み重ねることでモチベーションが上がりますし、その空間の細部に至るところの認識も強まります。

デザインを分かってもらうために必要なVectorworks

大学時代は建築学科で学んでましたが、白黒の図面が普通でした。色つきの図面を描くようになったのは乃村工藝社に入ってからです。最初はとまどいもありましたが、デザインの専門的な知識がない人に空間がどうなるかを見せるには、着色された分かりやすい絵が必要で、Vectorworksのようにちゃんと「魅せる」ことができる図面でないといけないんです。

Vectorworksで描いた図面が、現場を「いい空間」作りに向かわせる

空間作りに関わるのは、デザイナーだけではなく、そこにはクライアントがいて、そこで働く人がいて、施工する人がいて、多くの人が関わります。その全員が、このデザインいいね、と気分を盛り上げることで、実際の空間作りに向かっていける。そういった力を持つのが、私たちが描く図面だと思っています。だから図面には見て分かる説得力が必要だし、どこまでも突き詰めて考えた情報を盛り込めるかが大切です。ただ、リアルさを超えたリアルは必要ないというか、まだ見ていないリアルな空間に対し、想像力を削ぐような表現にはしないように心がけています。

Vectorworksは、デザインに深く関わる手段のひとつ

Vectorworksは、空間デザインに関してはオススメのソフトだと?

私がVectorworksを使うのは、このツールが一番考えていることを伝えやすいからです。図面やCGは、お客様との距離を縮めるためのものであって、単に綺麗な線が引ける、絵が描けるということではないんですよね。こういったCADソフトを使うことがデザインの上ではマイナスになる人もいると思います。自分にとって使いやすいほうをうまく利用すればいいと考えています。私にとっては、Vectorworksは考えを深めるためのツールです。CGもできる、文字情報もきれいに入る。見せる、ということを考えたときには、Vectorworksほど心強いソフトはありません。

自分が使いやすいようにカスタマイズ

Vectorworksを使っていて、これは便利だという機能は?

Vectorworksは、ショートカットをオリジナルで作れて、自分で使いやすくカスタマイズできるのがいいですね。バージョンアップしたときは再設定しないといけなかったのが、今はそれらも引き継げるようになったということなので、次の移行は楽そうだと期待しています。バージョンアップすると同じツールでも使い勝手が変わったものには少し苦労しますが、新しいバージョンのほうが絶対に使いやすくなっています。ただ、今までできた作業がバージョンアップするとできなくなることもあって、その際は試行錯誤しながら解決策を探します。それが楽しいというか、人間らしさがあるソフトで好感が持てます(笑)。

操作性の良さがVectorworksの特徴

社内ではみなさんVectorworksを?

新しく入ってくる人たちは、ほとんどがVectorworksを使えます。慣れていない人もいますが、使い方も分かりやすいので、すぐに一定レベルに到達します。「ちょっとこの図面修正して」というところから入っていくと、修正すべき図面の中にいろんな情報が入っていますから、そこから読み取って上達していける。書籍を買ってきて勉強するより、人に訊きながら、実際に使って慣れていくほうが身につきます。

修正をスムーズに行うために

操作が楽ということは、修正も簡単にできるということです。空間作りは、デザイナーだけで進めるわけではありません。ディスカッションがあって、修正も当然出てきます。そういうとき、細かい部分も把握してあるほうが、修正はトータルで見ると早い。図面としてはあまり関係の無い箇所の寸法なども気にしておくと、ディテールに落としていったときに迷わずにすみます。

より深く考えるためのVectorworks

濵㟢さんにとっては「紙がデスクトップで、ペンがマウス」。自分の手を動かして図面(絵)を仕上げることに変わりはない。常により良い空間デザインを模索しながら、それをVectorworks上で検証し、誰の目にもわかりやすく表現していく姿勢、図面に傾ける情熱には感心させられることしきりでした。もともとVectorworksは、人間的な感覚で図面が描けるCADでありたい、という思いでスタートしています。単なる作図のためのツールではなく、これを通じて作業をするからこそ、自由にデザインができるようなツールでありたい。だから、数値を入れれば図面ができあがる専門CADのような機能は、Vectorworksは持っていません。イメージを形にするのがVectorworksの役目なので、図面を「魅せる」ことにこだわったVectorworks活用術は、A&Aが考えるひとつの理想型と言えます。もう一歩進んだ表現を望むみなさんにとっても、大いに参考になるのではないでしょうか。

【取材協力】

株式会社乃村工藝社 http://www.nomurakougei.co.jp

商環境事業本部 クリエイティブ統括部 デザイン2部 デザイナー 濵㟢 大輔 氏

この事例はJDNの許可により「ジャパンデザインネット」で
2009年4月15日より掲載された記事をもとに編集したものです。

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