明治大学 大学院 理工学研究科 建築学専攻 髙橋侑万さん
テーマ:三陸地方の地形特性に相応しい復興住宅計画に関する調査研究
     〜地形に応答する建築形態に関する研究 斜面地集合住宅に着目して〜

今回の東日本大震災を受け、集まって住むことのあり方を見直すことが重要だと感じました。そして、高台移転にともない提案が予想される斜面地住宅について、その問題や可能性を明らかにしていく必要があると考えました。研究では、基礎的な分析から始め、東北地方のみならず、地形の起伏がある場所で、景観を維持し斜面地を有効利用した集合住宅設計提案に向けて、そのあり方や可能性を明らかにすることを目的としました。

まず、斜面地集合住宅に関する文献分析では『ヒル・ハウジング(1984年出版)』という文献で分類されていた、「建物と地形の接地の仕方」から、地形の造成を行わない高床形式に着目しました。次に、事例分析についてはまだ途中段階ですが、高床形式である『桜台コートビレッジ(1970年竣工 総戸数40戸)』と、『パサディナハイツ(1974年竣工 総戸数120戸)』の2作品を取り上げました。

分析では、地形と建築の接地の関係性を見ています。断面図から、どのくらい地形に対して建物が接地しているかを数値化しました。その結果、『桜台コートビレッジ』は接地面が54.8%で、『パサディナハイツ』は46.1%でした。この結果から、それぞれ半分の外部空間を残している事が明らかになりました。特に『パサディナハイツ』はサービス通路が設計に取り込まれていますが、ほとんど使われていないスペースになっています。ですが、このサービス通路の空間は避難経路や防災面での新たな使い方の提案ができます。

さらに、斜面地集合住宅は通路との関係性が重要ですが、アプローチや通路、広場という観点では、『桜台コートビレッジ』、『パサディナハイツ』ともに、斜面地広場が設けられ、これらの斜面地広場を必ず通って住戸にアクセスする計画になっています。各住戸へのアプローチの仕方は『桜台コートビレッジ』は垂直の動線に対して、交互に振るような動線で住戸が配置されており、これによって各住戸への採光や視界が確保できます。『パサディナハイツ』は、斜面地に沿うような動線を確保しており、これらは斜面地に逆らわず有効な動線を確保できていることがわかります。

3つ目の分析として、集合性を掲げました。ここでは、地形に対してどのような配置や集合の仕方があるのかを見ていきました。『桜台コートビレッジ』では、等高線に対して45度に振るような、配置をしていることがわかります。さらに、上下をかみ合わせるような住戸配置をすることで、斜面地に対して有効に採光を確保する事ができています。『パサディナハイツ』では、等高線に沿いながら、住戸をひな壇状にずらして配置しています。どちらも地形に対して、角度を付けたり、ずらすことで、土地の造成を最小限に抑えつつも良好な住環境を確保できるように考慮されていることがわかりました。

ここまでの分析は、基礎的な研究と位置づけ、今後も事例の分析を深めて行き、最終的には設計につなげたいと考えています。

また、研究の一環として、今年の3月14日から17日まで、明治大学、法政大学、中央大学の3大学が参加した『陸前髙田の広田町と気仙町の明日を考えるワークショップ企画』に参加しました。このワークショップでは1日目にレクチャーを受け、翌日から広田町グループと気仙町グループに分かれて、現地調査を2日間行って、最終日には話し合いをし、現地の方々に復興を支援する提案を発表しました。

現地調査1日目は、双六地区、要谷地区をまわり、2日目は、今泉地区と二日市城跡に行きました。双六地区では高台移転会議にも参加させていただきました。高台移転の話し合いでは、以前私も参加した地形模型を被災地に届ける活動で作成した地形模型を使いました。地図上ではなく、三次元の模型を使っての検討はわかりやすく会議の場でも大変役立っていました。

ワークショップでは、調査した地区それぞれのSWOT分析を行い、地域の人々も交えて話し合いを行って、学生から地域の方々に提案をしました。内容は、観光客をターゲットとした復興としてウォータースポーツの提案や、海産物を生かしたレストラン提案などです。斜面地集合住宅の提案については、基礎研究をさらに深めて行くと同時に、被災地の状況を踏まえながら分析を行い、これまでの活動とあわせて、最終的には被災地の方々へ斜面地集合住宅の設計提案をしたいと考えています。