福山市立大学 都市経営学部 都市経営学科 棗田裕英さん
テーマ:突発性自然災害における、退避行動に関する研究〜学生による退避行動シミュレーション〜

今回、突発性自然災害における退避行動を研究するため、退避行動シミュレーションを行いました。活動に先立って行った参加者へのアンケートで福山市の印象は、「気候が穏やか」「地震が少ない」「台風が来ない」「水害がない」、そして、東日本大震災のような災害が実際に起っていないこともあって、「災害の伝承がない」、そのためか「大災害は起らない」という衝撃的な回答でした。そこで、福山市周辺地域の災害想定のため、瀬戸内海地方で起きた高知県の災害被害を説明しました。

また、1946年12月21日、午前4時19分に発生したマグニチュード8.0の昭和南海地震では津波が約1mで、福山市に隣接する岡山県笠岡市で揺れによる全壊が10棟、半壊が116棟、小壊437棟という被害がありました。そして、岸壁は亀裂が入った程度で、実質的には高潮と同じ程度の被害でした。また、東日本大震災で、仙台空港がある宮城県名取市は、約3メートルの津波が襲い、空港周辺の住宅は1階部分が木っ端みじんになりました。このような津波が起きた場合、福山市もそうなることを認識してもらうために、宮城県名取市の事例も説明しています。

福山市は周辺地域含め干拓平野です。芦田川から生じたデルタ地帯か、山を切り崩してつくった埋め立て地で、ほとんどの人が居住しているのは海抜0mか1m地帯にある埋め立て地です。予測されている東海、東南海、中南海の三連動地震が発生した場合の津波の高さは、広島県で約2mから5m、福山市は約3mから5mの予想になっています。津波発生の場合、瀬戸内海は島が防御壁になるのではという意見もありますが、島嶼部で縮められた津波の威力は、水鉄砲のように放出されて平野部に来るともいわれ、沿岸部には大きな津波の襲来も予想されています。これらの事例と想定を基に調査を実施しました。

公的な予想から、地震発生後の警報発令から津波到達までを約2時間と想定しました。グループごとに福山市の東西南北を調査のスタート地点として、本当に安全か否かは問わずに、参加者が安全と思った場所に想定の2時間以内に避難してもらいました。地図・携帯電話・インターネットの使用は禁止し、避難中に感じた事、アイデア、教訓の記録と、危険と思われる箇所の撮影もお願いしました。

また、グループのリーダーにはGPS端末を渡してどこにいるかを追跡し、行動記録も収集しています。そして調査終了後に各グループの行動に合わせた質問事項を用意しました。調査後のアンケートでは、参加者の楽観的な意識が問題意識に変わっていました。実験後のブレインストーミングでは、「液状化現象のシミュレートが必要」「わかりやすく編集したブックレットが欲しい」「定期的な避難訓練や教育などを拡充すべき」「設備や経路のバリアフリー化が必要」などの意見が出ており、東日本大震災の教訓を基に、液状化への懸念など地域の問題点があぶり出されました。

参加者からは、液状化による被害想定として、「地盤沈下による歩行困難」「交通遮断による食料等、物資供給の停滞」「ガス管・水道管・電柱傾斜による各種インフラ遮断」「住宅傾斜・沈降による居住不能及び居住困難」などが挙げられました。津波による被害想定では、「機能しない防波堤による低地への浸水被害発生」「津波の圧力による住宅の倒壊」「港のコンテナや入り江の船舶・貯木・がれきの流入による交通への影響」そして、車社会の福山市では「車両での避難途中の被災による混乱」さらに、「津波を甘く見た事が判断ミスとなって発生する人災」など、災害時は最悪の事態を想定して、即避難が重要ということでした。

福山地域に限らずどんな地域でも危険は存在します。実験で整理されたことは、災害に備えるための準備として「住宅内での揺れへの防御(家具の固定や窓ガラスの飛散防止)」「津波回避のため、退避経路上の危険箇所の確認」「警報発令後、即退避行動の心構え」「離散時の連絡等家族間での徹底周知」「ラジオ等による正確な状況把握」「コミュニティ連携と災害教育」が挙げられ、被災後の生活復旧対策としては、「最低3日分の物資の備蓄」「コミュニティ内での相互協力」ということが結論としてでました。

災害に対して不感症に近かった参加者の意識は会を重ねる毎に変化し、災害は他人事でないことに気がつくと同時に、災害時に慌てず騒がず行動できるように備えようという意識に変わりました。 今回は建築やデザインではなく、都市経営学部の開発行政という分野で、人の行動に関して調査をしました。今後は、調査を引き続き行って行政を巻き込んだかたちでいろいろな事をやっていきたいと思っています。