盛岡市内で店舗設計を手がけるテックアートデザインの宮野さんのもとに、大工さんを手配する事を条件に、大船渡から店舗設計依頼がきたのは、5月半ば。
まず最初に手がけたのが焼肉店、その槌音に人が集まり、ラーメン店、そしてスナックのママさんから声がかかり、瓦礫の中、毎日往復5時間をかけて通ったそうです。図面を描く時間は限られていましたが、長年の店舗設計の経験による3Dパースは、大工さんに判りやすく、なにより開店を心待ちにしている店主のみなさんにもたいへん喜ばれたそうです。
大船渡は広範囲が津波に襲われ、店舗の裏を通る線路は曲がり、そこが川になって瓦礫が流れていました。鉄道の復旧の目処はまったくたっていない中で、お店に人が来れるのだろうかとの思いもあったそうですが、被災された方々の再起にかける想いは強く、車の移動時にもひっきりなしにかかる携帯電話で打合せをしていました。そして、焼肉店の紹介で、釜石の焼肉店、その大工さんの紹介でラーメン店、大槌町に再建されたスーパー内の焼肉店、八百屋、アイスクリーム店、コミニュティカフェ店のサポート等、震災以降、10店舗以上の設計を手がけられました。
聞けば、店主は仮設住宅に住まわれている方が多く、顔合わせての打合わせがなかなか出来ないため、店主の方々の意向を引き出しやすいように、1店舗に10枚以上のパース図を添えていたそうです。
何度も手を入れ直した図面が車に積まれていました。
「3D図面もパースも手段でしかありません。店主の方の再起のための手だてをいかに早く、的確につかんで実現させるかです。」「時間は待ってくれないんです。」と言った言葉が印象的でした。
宮野さんは、店舗設計のかたわら趣味で岩手のクラシックカー愛好家クラブの会長もされており、かつてこの沿岸一帯をクラシックカーで走った時に、手を振って応援してくれたみなさんの顔が忘れられないそうです。その時の街の様子がはっきりと残る写真を見ながら、「今は何もかもなくなってしまいました」と、雪まじりの中、かつての住宅街を案内してくれました。クラシックカーラリーを手を振って応援する人々がそこに見えるようでした。往復5時間をかけて通う宮野さんの復興への想いが少しわかったような気がしました。
岩手県盛岡市内から宮古、山田町、両石町、大槌町、釜石市、大船渡のリアス式海岸に添って走る車から目を遠く向ければ、そこにはおだやかな海が広がっています。立ち寄った、浄土が浜のすばらしい景色を見ながら、海岸線の方々の復興の槌音が高く響いていくことを願わずにはいられませんでした。
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