ユーザ事例 & スペシャルレポート

呉工業高等専門学校は、本科5年間、専攻科まで7年間の一貫教育で理論と技能を結びつける技術者を育成することを目指しています。建築学科では、手描き図面・パース、手作り模型と2D CAD、 3Dモデリング、3Dプリンター、レーザー加工機を併用した設計教育を行っています。また、工学系だけでなく歴史、文化、芸術など幅広い分野を学び、住宅から都市まで生活環境を形成するものを対象として、快適で魅力ある「生活空間」を創りあげることを目指しています。

今回、Vectorworksの授業を担当されている間瀬 実郎(ませ じつろう)先生にお話をうかがいました。


-建築学科の特徴を教えてください。-

建築学科では、5年間でCADを含めさまざまなデジタルツールを学びますが、手描きや模型など手作業でのものづくりにも重点を置いています。特に力を入れているのは、模型制作と手描きスケッチ力です。模型は1年生から課題があり、2年生で最低2つ、3年生からは建築設計製図の課題も含めて1年間で最低4つ制作しています。4年生から図面はすべてCADを使いますが、模型についても希望があればレーザー加工機や3Dプリンターなども使用させています。まず、手描きや模型から始めてさまざまなデジタルツールも体験できる教育を行っています。その中で、学生一人ひとりがどこで何を使うと有効かを考えながら、表現力や応用力を養って欲しいと考えています。

-建築学科の製図とCADはどのようなカリキュラムになっていますか?-

建築製図の基本となる建築設計製図の授業は1年生の後期から始まり、5年生の前期まであります。手描きで図面を描くのは1年生から3年生までで、4年生以降はCADを使っています。3年生になると、手描きの建築設計製図Ⅲと並行してCAD基礎という授業が始まります。CAD基礎ではVectorworksの2次元図面から始め、Vectorworksで簡単な平面図や立面図を描かせます。CAD基礎ではVectorworksの他、3DについてはSketchUpやソースコードでモデリングをするレイトレーシング法によるPOV-Ray(ポヴレイ)なども教えています。4年生ではCAD・CGの授業があり、Vectorworksの他、画像処理でPhotoshop、3次元CGはPOV-RayやRhinocerosを使っています。情報技術としてCAD・CGの知識を学び、建築設計製図の中で表現ツールとして活用することによって建築のプレゼンテーション能力を高めています。

-CADの授業ではどのようなことを教えていますか?-

3年生のCAD基礎では、Vectorworksを使って2次元の作図を基本に教えていますが、その他にいろいろなソフトウエアを紹介しています。例えば、POV-Rayはソースコードを書いてレイトレーシングをするので手間はかかりますが、3DCGのデータ構造を理解させるには非常に良いと思っています。4年生からは建築設計製図の課題図面はCADで描きますので、CAD・CGの授業ではコンピューターを使って図面を描く際のポイントを教えています。画面で見ている文字を印刷するとどれだけ印象が変わるのか、図面の見栄えや美しく見えるレイアウトなど、どうすれば図面がきれいに描けるかということに重点を置いて教えています。

-CAD授業、設計製図以外でVectorworksを活用していますか?-

建築設計に取り組むための基礎として、1年生前期に透視図を手描きで描く造形Ⅰという授業があります。この授業では、2消点透視図法を比較的簡単に確実に描くために私が開発した透視図作成キットを使用していますが、作図の概念を理解させるためにVectorworksの3Dを活用しています。平面上で平行になる線が2消点透視図法で消点に集まる感覚をVectorworksの3Dモデルを使って動かしながら説明することで、学生は平面図・立面図・透視図の関係をスムーズに理解してくれます。学生がVectorworksを操作するわけではありませんが、Vectorworksの3Dは直感的なので立体の概念を説明するツールとしても適しています。

-手描き透視図作成キット開発のきっかけは? -

平面図や立面図、断面図といった平面的な図面の手描き製図は全員完成させることができますが、透視図は図法が理解できずに描けないまま終わってしまうケースがあります。そして、透視図が描けなかった学生は自信を失って建築が嫌いになってしまう可能性もあります。3DCADが普及しているので立体的な表現力の優劣は少なくなってきていますが、透視図を手描きで作成する能力はやはり必要です。ですから、学生が透視図を描くことに苦手意識を持たないように教育する必要があると考えたのが開発のきっかけです。従来の透視図法の理解に力点を置くのではなく、「絵は体験で習得するもの」というコンセプトで透視図教育を行っています。建築を学び始めた初期段階から実践的な透視図を何枚も完成させることで、透視図の概念も自然と身につくと考えています。

-手描き透視図作成キットを使った授業の内容は?-

4年ほど前から1年生前期の造形Ⅰで手描き透視図作成キットを使っています。週1回90分の授業で、最初に切妻屋根の2階建て住宅を透視図作成キットで描かせます。最初の透視図はおおよそ4回(平均所用時間6時間)の授業で全員が完成させています。その後、Vectorworksの3Dモデルで2消点の考え方を説明して、2枚目の透視図に取り組みます。以前は3枚の透視図を描かせていましたが、現在は2枚としています。2枚目を完成させた後は、2消点透視図法の立体感覚を身につけるために、キットは使わずフリーハンドで直方体や立方体などを等分割する演習を盛り込んでいます。授業は年によって多少内容を変えて試行錯誤しながら進めていますが、昨年の2枚目はル・コルビュジエの「サヴォア邸」かアトリエ・ワンの「ミニハウス」のどちらかを学生に選ばせました。有名建築を描かせることで作品の特徴を理解しますし、有名建築に興味を持たせることもできます。

-この授業を通して学んで欲しいことは?-

何よりも大事なことは建築や透視図に対して自信を持たせることです。今は、試行錯誤しながら教育成果を検証している段階ですが、学生に透視図作成の成功体験をさせることが必要だと考えています。短時間で多くの透視図が描けますから、とにかく何枚も描いて慣れることが大切です。造形Ⅰの授業だけでなく、2年生になると建築設計製図Ⅱで自由設計が始まりますので、自分で設計した作品の透視図を作成キットで描いています。インテリアの授業でも作成キットで内観パースを描いていますので必然的に何枚も描くことになります。社会に出ても手描きで透視図が描ける能力はとても重要ですから、何枚も描くことで透視図法の感覚を身につけて最終的にはフリーハンドで透視図が描けるようになることが目標です。

-今後取り組みたいことは?-

現段階で、4年生の建築設計製図は手描きでエスキースをして、図面化にVectorworksを使っている状況です。CADの授業は2次元が主体になっていて、3Dについてはほんの少し触れる程度です。今後は、3Dモデルツールやシートレイヤの機能など3D表現についても教えていけたらと思います。そして、建築の図面はポスターとして成立するように表現することが求められます。機能を伝えるだけでなく、わかりやすさや美しさも同時に求められます。配置図や平面図に着色をして仕上げられるCADはVectorworksだけですから、プレゼンテーションの図面をまとめるのはVectorworksが一番良いということを学生はわかっています。ですが、わかりやすく美しいという点での表現力はまだまだ弱いので、Vectorworksだからこそできるプレゼンテーションや図面の表現力を強化していきたいと思います。


ー取材を終えてー

私自身、透視図法で苦労した経験があるので、手描き透視図作成キットはとても興味深く、何枚も描いて感覚が身につけばスケッチ力も向上して表現の幅が広がるように感じました。そして、さまざまなソフトウエアやデジタルツールを体験させていて、先生がおっしゃる通りの「ものづくりワンダーランド」だと思いました。その中でVectorworksの魅力を最大限に引き出しながら活用していって欲しいと思います。

エーアンドエー株式会社 カスタマー・リレーション課 竹内 真紀子

【取材協力】

呉工業高等専門学校 http://www.kure-nct.ac.jp/

建築学科 教授 間瀬 実郎 氏

(取材:2016年5月)

この事例のPDFファイルをダウンロードする

 

記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様は予告なく変更することがあります。