ユーザ事例 & スペシャルレポート

文化学園大学 造形学部 建築・インテリア学科は、専門的な知識を学ぶだけでなく、生活者の視点で柔軟な感性や発想力を養う授業を多く取り入れています。3年生からはインテリアと建築の2コースに分かれて、より専門的な知識と技術を身につけます。今回、2010年からインテリアデザインコース4年生の実習授業で、東京の木「多摩産材」を使用した地域連携型教育事業に取り組んでいる准教授の丸茂みゆき(まるも みゆき)先生に授業での取り組みやVectorworksの活用についてお話をうかがいました。


-建築・インテリア学科の特徴を教えてください。 -

建築・インテリア学科は、2016年度の入学生から3年生で2つのコースに分かれますが、現在は2年生で建築系1コースとインテリア系2コースの3コースに分かれています。授業では手描き図面やスケッチ、模型や家具制作など手を動かすことを大切にしながらCADも使える人材の育成を目指しています。理論的に技術を表現することと、五感を生かしてデザインしていくことの両方を学ばせることが学科の特徴で、1年生の前期から始まる、身の回りのことに関心を寄せて五感を駆使しながら表現力を養う空間表現技法Ⅰは特徴的な授業のひとつです。さらに、社会と関わるという意味で地域や企業と連携した教育にも積極的に取り組んでいます。

-建築・インテリア学科の製図とCADはどのようなカリキュラムになっていますか?-

1年生の設計や製図はすべて手描きです。CADは2年生の必修授業CAD演習Ⅰと3年生の選択授業CAD演習Ⅱがあります。CAD演習ⅠではVectorworksを使って2次元操作に加えて3次元の基礎とプレゼンテーションに応用できるスキルを身につけます。選択授業のCAD演習ⅡはソフトウエアもVectorworksかAutoCADどちらかの選択となり、Vectorworksでは内部空間の3次元表現の他、PhotoshopやSketchUpとの連携なども学びます。一方で、2年生の選択授業、空間表現技法Ⅱでは手描きや模型での効果的な表現技法を学びます。2年生の前期から始まる設計の授業ではCAD使用は自主性に任せているようですが、CADと手描きの両方を生かせるような指導を心がけています。また、提出される手描きやCADの図面に対しては、どの授業でも表現方法や線の意味、図面のあり方についてその都度指導をしています。

-どのような授業でVectorworksを活用していますか? -

インテリア系の学生は手描きが多いのですが、建築系ではCADを使用する学生も多く、3年生になると設計の授業ではほとんどの学生がVectorworksで作品を仕上げているようです。CADは操作を学ぶだけでなく自分の設計に落とし込むことで学生の満足度が高くなりますので、手描きや模型を大切にしながら、表現として忘れないように演習や実習ではVectorworksにも触れる機会をつくることを意識しています。地域連携型教育事業のひとつである4年生の多摩産材を活用した家具・インテリア小物の制作でもVectorworksを活用していますし、デザインプロセスのひとつとしてCADも生かしながらデザインをしています。

-東京の木「多摩産材」を活用した地域連携型教育事業に取り組んだきっかけは?-

学生の社会性を育てる意味でも授業の中で地域や企業と連携したいと考える中で、東京都あきる野市の秋川木材協同組合の方から声を掛けていただいたことがきっかけになりました。多摩産材を含む国産材については、行政側の意識も変わり利用を推進する取り組みが活発化している一方で、使う側の関心がまだ低く、地産地消の考えを広めるためにも多摩産材のことをもっと広くアピールする必要があるとのことでした。また、多摩産材を使って若い人たちがどんな発想で家具やインテリア小物をつくるのかも知りたいということで、インテリア系のコースで2010年の4月から多摩産材を活用した地域連携型教育事業の取り組みが始まりました。

-具体的な授業の内容は? -

もともと4年生の前期にあった、木材と和紙の魅力を生かして家具やインテリア小物をつくる授業に組み込みました。4月から7月末までの期間で週に1回(3時間)全15回の授業で、1回目は木材産業を取り巻く状況や材料の特徴、制作の条件についての講義になります。2回目からは制作物の検討に入り、作品例の調査やアイデアスケッチ、模型での検討を経てデザインの中間発表会となります。この頃に連携地域への見学会を実施して専門家からのレクチャーを受け、制作への動機付けを強く意識してもらいます。その後はデザインを固めて材料を発注し、材料到着までの期間でディテール検討やCADでの図面化を行います。材料到着後、全体授業時間の3分の1程度を使って実際に作品を制作しています。最終的には制作から完成までの流れを各自が報告書にまとめて完成作品のプレゼンテーションと講評会で授業は終了です。さらに、授業とは別に多摩産材を知ってもらう活動として作品の展示会も行っています。

-この授業を通して学んで欲しいことは?-

授業の目的は「建築・インテリア業界と国産材の関係を理解すること」、「実際の材料に触れること」、「わかった情報を正確に伝えられるようになること」、さらに、2014年からは連携企業として加わった株式会社ヤマヒサから制作へのテーマが設定されていますので「社会性を養うこと」です。最初はアイデアを尊重してデザインに最適な素材を使用させましたが、多摩産材を使った学生の満足度の方が高いことがわかり、地域連携の意味でも2012年からは基本的には多摩産材の杉か桧を使うこととしました。5年間で授業の進行や指導方針を少しずつ修正しながら実施していますが、デザインの良さよりも連携企業の設定したテーマに沿ったデザインで、材料の良さを生かせていることを重視しています。最も大事にしていることは、自分主体ではなく他者や社会に向けた目でデザインすることで、その大切さを学んで欲しいと思います。

-学生を指導する上で一番大変なことは?-

コンセプトとデザインの整合性を取らせることと、ディテールを計画させることです。ラフスケッチから徐々にCADに落とし込んで3Dにして初めて学生は制作できそうな気がするのではないかと思います。材料発注時点で板取図も作成しますが、時間の関係で試作ができないので、教員としては制作可能かどうかの判断をするのが大変です。特に材料の厚さをどうするかは一番難しいところで、学生にどう挑戦させるかは悩むところです。しかし、曖昧だったディテールもCADで描くことで、しっかり計画できるようになっていきます。ただし、実際に制作を始めると失敗もありますから失敗で学生が落胆しないような指導を心がけています。また、失敗をどう直すかも経験でそこから工夫が生まれることや、材料の木目を見て初めて気づくこともあります。制作途中で変更箇所のCAD図面を修正していくことが良い勉強になっていますし、多少の失敗があっても学生は投げ出さずに取り組んでいて制作中は本当に楽しそうです。

-今後取り組みたいことは?-

6年目に入り一定の教育効果も確認できていますのでこの取り組みは今後も継続したいと考えています。2016年度は選択から必修授業に変わるので内容の見直しも必要になりますが、特に木の原点の部分と作品の発信方法の両方をもう少し掘り下げられたらと思っています。間伐材の話など山の中まで意識を向けさせたいと考えています。また、木材を正しく認識して発信するという意味で、制作作品を通して多摩産材の魅力を伝えるための新たな発信方法をプラスしていきたいと思います。さらに、最初はCADで描く学生は少なかったのですが、全員がCADで図面を描くようになってからは検討と修正が非常にスムーズにできてきました。それによって、手描きスケッチ・模型・CAD・実物制作という一連のデザインプロセスを体感できる部分は大事にしていきたいと思っています。


ー取材を終えてー

当初、木材はサイズを限定せずに発注していたそうですが、現在は寸法と単価が記載されているオリジナルの注文表から最適な木材を選んで発注しているということでした。そして、板取図もVectorworksで描くことで、材料発注時や制作時の検討や修正がとてもスムーズにできるようになったそうです。手を動かすことも大事にしながらデザインのツールとしてVectorworksも最大限に活用して欲しいと思います。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

文化学園大学 http://bwu.bunka.ac.jp/

造形学部 建築・インテリア学科 准教授 丸茂 みゆき 氏

(取材:2015年6月)

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