ユーザ事例 & スペシャルレポート

エーアンドエーは2013年5月9日~10日の2日間、東京・品川で「Vectorworks Solution Days 2013」を開催した。今回のテーマは「EVOLVE -進化-」。「Vectorworks 2013シリーズ」で新たに加わったランドスケープデザイン向けの「Landmark」や舞台照明デザイン向けの「Spotlight」でさらに広がったVectorworksの世界を、第一線で活躍する建築家やインテリアデザイナー、照明・舞台の世界で活躍するデザイナーらが、最新のプロジェクトを交えて語った。CADからBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)への移行についての解説セッションや最新ハード・ソフト、OASIS加盟校の作品の展示会も同時開催された。


基調講演「自作について」
石上純也建築設計事務所
代表 石上 純也 氏

今日、紹介するプロジェクトに共通しているのは、建築を外部の自然環境から遮断する「シェルター」としてつくるのではなく、建築の内部や周辺に「新しい外部」としての環境をどのように計画していけるかを考えて設計したことだ。

かつての建築は、人間が住むことのない厳しい自然環境を遮断して、シェルターの内側に快適な住環境を構築してきた。しかしながら、現代においては、人間の活動は、自然環境に影響を与えるまでに大きく広がりつつある。そのなかで、建築は単に自然環境を隔てるだけでは意味がなくなってきていると思う。そのようなことを踏まえつつ、これからの建築を考えたい。

モスクワ科学技術博物館のリニューアル工事は、18世紀の建物を現代的な建築として再生させるものだった。モスクワの道路は何車線もあり道幅が広い。横断歩道がなく、人々は周囲からこの建物にアクセスするのに地下道を渡ってくる。そこで、このアクティビティーと博物館をいかにして自然につなげていくかを考えた。

具体的には、博物館の周囲をすり鉢状に掘り下げ、建物の地階に連続する広々とした広場として、建物周辺と地下道、そして地上がつながるようにした。

築200年以上たった建物の地下は、構造壁である煉瓦の壁面が入り組み、迷宮のようになっていて劣化も激しい。そのような地下構造を補修するとともに、開放的な広場を作るために、できる限りレンガの壁を取り払い、同時に補強していくという計画。その結果、世界でも例のない広大な列柱空間ができ上がり、その広場のような列柱空間が建物周辺に新しく計画されるすり鉢状の広場に連続していく。この建物は2016年竣工予定だ。
東京に建設した「house with garden」では、外部の自然環境を建物内部に取り込んだ。床はほとんど土で、その上に設けたテラスの上で生活するイメージだ。部屋の間は、屋内に設けた飛び石を通って行き来する。

夫婦と子ども1人が生活する住空間に、いかに新しい快適性を与えることができるかを考えた。具体的には、庭の中で生活するようなイメージで住宅を考えた。家の中には木も草も生い茂り、季節によって落葉する。季節を感じ、心地よく生活できる空間を生みだそうと考えていた。

オランダで計画中の「ヴィジターセンター」は、モスクワの博物館と同じく18世紀にできた公園の中に建設される。古い邸宅の隣に建設する建物だ。この公園内のものは歴史的に重要なものが多く、既存の建物や植栽には手が付けられない。

着目したのは、公園内の園路。歴史的な公園の中で唯一、植栽が施されていないヴォイドである。園路がそのまま建築空間になっていくように計画した。細長く続く園路の空間に建物が流し込まれたような形状である。外壁面は園路のように引き延ばされ、100mほどのガラスのファサードをつくり出す。柱はなく、透明感のあるガラスのみで建物全体が支えられている。

柱を構造に用いてしてしまうと、どうしても、その柱のスパンがつくりだすスケール感によって、建築的なスケール感がつよくあらわれてくる。この計画では、どのようにして、建築のスケールとランドスケープのスケール連続させていくことができるかがテーマである。そのため、できる限り透明でシームレスなファサードが、公園の中にフィルターのように立ち現れるようにする。その連続性を損ねないよう、柱などの構造体を限りなく消し去るようにした。
地震や雪の荷重もガラスの構造体で支えるため、梁の形状を調整しながら応力解析を繰り返し行い、力の流れが均質になるように設計した。この「ヴィジターセンター」は来年に竣工の予定だ。

神奈川県内の大学のカフェテリア施設は、長さ約110m、幅約70m、厚さ9mmの巨大な1枚の鉄板の屋根で覆われた構造だ。屋根は周囲で支えられているだけで、内側には1本の柱もない。屋根上には20mmの厚さで土を敷き、緑化し、屋根にはところどころ開口が計画される。

広大な平面に対して、天井高さは低く、2~3m程度である。屋根全体は少し湾曲していて、その曲率をトレースするように、床面もすり鉢状に湾曲している。そのため、向こう側の壁面は見えず、地平線のように天井と屋根が結びついたところに、美しい曲線状の境界線ができあがる。床面にも、屋根同様、草原のような植栽計画を施す。どこまでも広がる、薄く平たい空間である。

建物内部は、鉄板の天井面にたくさんのトップライトが開けられている巨大なワンルームの空間であるが、天井が低いため光が空間に回り込まず、トップライトの配置によって、光の明暗が美しく計画される。ワンルームであるにもかかわらず、さまざまな場所が築かれる。

また、天井の開口部には、ガラスなどははめられず、光や風や雨がそのまま入ってきて、床面の草花を優しく潤す。雨が降ったときには、さまざまな開口から雨が切り取られて入り込み、空間全体に屋外では体験できない、見たこともない美しい雨景色があらわれる。また、ある開口からは、屋根面が受けた雨水が内部空間に流れ落ち、滝となる。

さらに、鉄板による屋根が温度変化によって伸縮するため、天井高は1日の間に約2m~3mとおよそ1m弱も変化する。風が吹いても屋根の形は変わるのだ。このように天気によって屋根下の空間は劇的に変化する。大空が、ある日には雲が低く立ちこめ、ある日にはどこまでも抜けてゆくような高い青空になるように、この空間も、その日その日によって、刻々とその空間の質を変えてゆく。これは、空間が風景としてあらわれる建築である。この施設は来年竣工の予定である。

これらのプロジェクトを通して、何かしらのかたちで、風景を空間としてとらえる方法を試行錯誤している。建築の外部と内部をシームレスに破綻することなく、1つのコンセプトで計画する方法を発見できたら、と考えている。

特別講演「仕事のしかた」
文田昭仁デザインオフィス
代表 文田 昭仁 氏

私は主に商空間のインテリアデザインを手がけている。仕事で心がけていることは、空間ができたことによってクライアントに喜んでもらうだけでなく、その場所でビジネスが成功するようにすることだ。

そして大事にしているのは言葉の意味や範囲、定義に気を付けることだ。例えば、「床、壁、天井」という概念は、室内の空間を表現するために人間が決めた概念にすぎない。

しかし、空間としての違いはない。例えば、床と天井が飛行機のような円断面でつながった建物の場合、床、壁、天井の境目はどこなのか。言葉を取り外してみれば、いろいろなデザインが見えてくる。

私の仕事では、閉じた空間の中でいかにフィクションを構成するかということも大事にしている。ボリュームを整理、グループ化、相対化という視点でとらえ、構築していくのだ。

例えば、抽象的な空間の中に、ある物体を置く場合、天井の外にある構造体にぶら下がっている、室外のひさしのような構造体が室内に侵入している、床の一部が伸びてきているなど、さまざまなとらえ方がある。どのように存在させるか、壁と梁、床と台などディテールの接続やつながりの在り方を変えることで、さらに空間構築のバリエーションは広がる。

これをブティックに応用すると、空間全体を凹凸で成り立たせることによって、棚板や、ハンガーの機能を網羅させることができている。さらには、設備の点検口なども同様に壁面でカムフラージュを可能にしている。

日産自動車の横浜本社ギャラリーは、車の展示スペース、カフェ、物販店からなり、プレゼンテーションルームとしても使う空間だ。カルロス・ゴーン社長から「大きな空間だが、空虚感のあるような、ガランとしたものは作らないでほしい」と間接的にリクエストを受けた。

そこで講堂を仕切る開閉式の大きな壁を設け、線状にLED照明を配置した。角度によってはライン状に見えるが、近づいて見ると比較的粗いピッチになっている。

LEDが点灯していない時は、電解着色されたアルミのストライプが見えるようにした。幅、テクスチャとも3種類ずつの壁のユニットを作り、ランダムに見えるように一定のルールで配置した。

複合的な機能を持った建築なので、多くの開口部などがあるが、目地によってカムフラージュした。こうして、大空間でありながら、バリエーション豊かな複合空間を実現した。

また、その他においてもさまざまな工夫を施し、ここで時間を過ごすことを楽しんでもらえるような空間を実現した。

NTTドコモの携帯電話のショールームは、三井住友銀行のATMコーナーと隣接する空間に設けた。ショールームとATMの営業時間が違い、ショールームが閉店した後も、ATM側から入れるようになっている。そこで、閉店後はショーケースのふたを閉めたり、内部に携帯電話を格納したりできる仕組みにするなど工夫した。

この空間のデザインではさまざまな部材の重なりで壁、床、天井を構成した。空調の吹き出し口や防災用のスプリンクラー、照明器具などは、部材のすき間に設置した。設計では、CADによる作図と手描きによる修正を繰り返し、面の重なりを3Dで把握しながら行った。施工に際しては90cm間隔で3Dモデルを切断し、吊りボルトの位置などを現場で確認した。

これと似た方法は、マンションのエントランスでも使用した。天井を高く見せるため、上の階の配管が突き出している部分を隠すように天井板を取り付け、他の部分の天井板は高くし、その裏から間接照明でエントランスを照らすようにしたのだ。

ブラックダイヤモンドを販売する「CORE JEWELS」東京・青山の店舗は、スラブの下端が2.4mだった。そこに照明や空調ダクトを設けると、さらに天井高が下がってしまう。しかし、高級商材を扱っている店なので、照明や空調設備をむき出しにすることはできない。

そこで考えたのは、できるだけお客様のじゃまにならないところに空調ダクトを設け、その下にブラックダイヤモンドの展示カウンターを設けるという方法だった。ダクトの下面にはダウンライトを配置し、展示カウンターを置いた。ダクトの側面は斜めにすることで天井から下がった照明器具のように見せた。そのアイデアを壁面に設けた棚にも応用し、棚の上下も斜めにすることで壁から緩やかに隆起したデザインにした。

もともと必要から生まれたデザインのルールが天井、壁、そして商品の展示台までに広がっていったのだ。

私は光の透過、反射、陰影、効果といった要素を使ったデザインも意識して採り入れているし、前述したような、さまざまな手法を活用して空間を構成している。

それらを幅広く応用しながら、リラクゼーションサロンから時計店、ブティック、ギャラリーなど、クライアントのビジネスが成功するインテリアデザインを実践している。

このほか、BIM実践講演、各種専門分野講演(建築・ランドスケープデザイン/舞台照明・空間デザイン)、展示などの詳細はPDFファイルをご覧ください

 

この事例は株式会社イエイリ・ラボの許可により「建設ITワールド」で2013年7月2日より掲載された記事をもとに編集したものです。

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