ユーザ事例 & スペシャルレポート

金沢工業大学 環境・建築学部 建築学科/建築デザイン学科では、2010年からBIM(Building Information Modeling)ツールを活用した96時間の仮想コンペに参加しています。コンペには、Vectorworksで動作可能な熱環境シミュレーションツール ThermoRender Pro(サーモレンダー Pro)も活用し、「Build Live CHIBA 2012」は3回目の参加となりました。

今回、学生の指導にあたった建築デザイン学科 准教授の下川雄一(しもかわ ゆういち)先生と建築学科 講師の円井基史(まるい もとふみ)先生、参加した建築学科4年生の坪川浩平(つぼかわ こうへい)さん、大学院2年生の中井裕士(なかい ひろし)さんと中川達心(なかがわ さとる)さんにお話をうかがいました。


-「 Build Live CHIBA 2012」参加の経緯は? -

下川 2006年頃から海外でBIM Stormというかたちで始まり、デジタルツールを活用したスタイルのコンペとしておもしろそうだと思っていました。学生には敷居が高いと感じてはいましたが、2008年に熱環境解析を専門に研究されている円井先生が着任され、実現性が高まったように感じました。そんな中、2010年にBuild Liveに学生クラスができたことが参加のきっかけになりました。実験的な取り組みではありましたが、今までとは違う総合力を高める設計教育の試みができるのではないかと考え、円井先生や構造の西村先生、構法の宮下先生に声をかけて環境系、構造系、計画意匠の研究室でBIMツールを活用した96時間の仮想コンペに参加しました。今回の「Build Live CHIBA 2012」は3回目の挑戦になります。

-参加にあたって、どのような準備をされたのですか? -

下川 コンペ開催の一ヶ月半ほど前から、参加する学生と週1回程度、今までのBuild Liveでの成功点や反省点などを挙げながらディスカッションをしました。円井先生には環境性能が高くなりつつ、空間デザインとしても豊かになるような事例を紹介いただき、主観でなく客観に基づいて設計を進めていく“BIMだからこそできること"を学生に問題提起しながら話し合いを進めました。

円井 初参加の時は、環境解析や構造解析がしやすいように、意匠的にも簡単な建物にという話がありました。2回目の参加時は、解析しやすいように考えるのではなく、意匠的にも空間としてもおもしろいものをつくった上で環境や構造の解析をやろうということになりました。ですが、それが弊害となって、熱環境シミュレーションツールThermoRender Proは活用しきれませんでした。今回は、ThermoRender Proをもっと活用しようという話をしましたが、96時間という限られた時間でシミュレーションツールを使って設計するジレンマも感じているところです。

-熱環境シミュレーションツールThermoRender Proの授業はありますか? -

円井 3年生の後期に円井研究室に配属された学生には、ThermoRender Proを使った演習や提案など、環境設計に近い内容を体験させるトライアル授業を行っています。Build Liveには研究室の4年生が参加し、熱環境の解析結果を意匠設計にフィードバックすることに挑戦している段階です。研究室でのトライアル授業は3年ほど前からやっていますが、ThermoRender Proを使った本格的な授業は2013年度からスタートしたいと考えているところです。

-学生のみなさんのコンペ参加の経緯は? -

中井 BIMに興味もありましたし、同じ意匠班の今井君に聞いて川崎研究室から参加しました。

中川 下川研究室で修士研究のテーマがBIMに関する内容で、BIMの設計プロセスを体験したいと考えて参加しました。BIMマネージ班で全体のリーダーという立場で参加しました。

坪川 円井研究室でThermoRender Proを活用していたので、学部から環境班で参加しました。

下川 解析ツールをある程度活用できる技術を持っていることもコンペ参加の前提条件となるため、最初は、環境、構造、計画+意匠の3班構成でした。今回は、計画+意匠班3名、構造班2名、環境班2名に、新たな試みとしてBIMマネージ班3名を加えた、8研究室10名の学生が集まってコンペに取り組みました。だんだん参加研究室の幅が広がってきています。

-計画はどのように進めたのですか?-

中井 意匠班はスタートから約半日で、環境や構造解析ができる計画案をつくりました。平面スタディにはVectorworks、モデリングにはArchiCADと得意なソフトを使い分けました。

坪川 環境班は、街区モデルの計算から始めました。ThermoRender Proで解析するにあたっては、計画案をArchiCADからDXFでVectorworksに取り込む方法もありますが、必要のない情報も多いため、Vectorworksでつくり直しています。建物外部の表面温度の解析がメインでしたから、できるだけ簡単なモデルとすることで解析にかかる計算時間の短縮を図りました。

-ThermoRender Proでの解析結果は計画案にどのようにフィードバックしたのですか? -

坪川 計画建物は、鋼板を使用していた屋根の表面温度が非常に高いという解析結果だったので、材料の変更を含め、表面温度を下げる仕掛けや省エネ手法の検討を意匠班にフィードバックしました。周辺敷地については、植栽や保水性舗装による熱環境改善の提案もしています。

中井 環境班からのフィードバックを受けて、屋根面に太陽光パネル設置や屋上緑化をする案が出ました。それらの案を環境班、構造班、意匠班それぞれの作業の進捗も考慮し、意見交換しながら計画案を練り直していきました。その調整にはやはり時間がかかりました。

-コンペでThermoRender Proを活用した感想は? -

中井 どのような配慮をすると環境に良いのか、今まであまり実感する機会がありませんでした。外装材なども、環境や構造含めてトータルに考えていかなければ、建築の良さは引き出せないということを教えられましたし、すごく勉強になりました。

坪川 単純に表面温度を下げるだけなら屋根一面に屋上緑化をする選択もあります。ですが、それでは、意匠的なおもしろみもない上、構造的な問題も出てくるなど、建築は、意匠、構造、環境すべての面から考えなくてはいけないということを、改めて学びました。

-今回の挑戦で、先生が感じたことは? -

下川 今回、「建築形態をBIMで導き出せるか」を大きなテーマとして、仮説を立てながら解析を進め、意匠と環境、構造で創発的なディスカッションができたことは大きな成果だと思います。コンペが始まってからは学生が主体的に進め、内容としても、BIMツールを活用して設計する良さや難しさを体感しつつ、コラボレーションしながら良くやりきったと感じます。

円井 円井研究室は、毎年4年生が参加していますが、欲を言えば、ThermoRender Proの操作経験や環境設計の知識をもう少し深めた段階で参加することが理想です。そうなれば、もう少し環境側から意匠や建築形態を導いていくこともできるのではないかと感じます。また、一方で、意匠計画系の学生に対しても、熱環境や構造の教育の場を充実させ、意匠、構造、環境をトータルに考えていく力をつけていくことも大切だと感じます。

-「 Build Live CHIBA 2012」に参加した感想は? -

中井 今までは、解析結果を設計に反映するというような視点でデザインをしていなかったので、熱環境の解析結果をもとに計画案を練り直すなど、とても良い経験になりました。ですが、設計条件などから事前に想定していた建築形態を変更した点は、準備が生かせず残念でした。

坪川 演習で取り組んだことがない、五角形の壁や段差がある複雑な形状の計画でしたが、自分なりに工夫しながら解析し、環境面からのフィードバックもできたのではないかと思います。また、コラボレーションする中でいろいろな考え方を聞ける機会を持てたことも良かったです。

中川 今回、モデルを共有しながら作業を進めることで、合意形成は図りやすかったです。BIMプロセスを体験するという意味では、いろいろな解析ができました。さらに、配布されていたSolibri Model Checker (ソリブリ モデルチェッカー)で、データの干渉チェックまでできると、合理的に建築の質を高めることができるかもしれないと感じました。


ー取材を終えてー

「建築形態をBIMで導き出せるか」という大きなテーマの中で、10名の学生のみなさんがコラボレーションしながら、授業では体感できない多くのことを学んだのではないかと感じました。学校は卒業ということでしたが、客観的で前向きな反省点からは、満足感よりもさらなる成長への意欲を感じました。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

金沢工業大学 http://www.kanazawa-it.ac.jp/

環境・建築学部 建築デザイン学科 准教授 下川 雄一 氏
環境・建築学部 建築学科      講師 円井 基史 氏
環境・建築学部 建築学科  4年 坪川 浩平 さん
大学院 工学研究科 建築学専攻 2年 中井 裕士 さん
大学院 工学研究科 建築学専攻 2年 中川 達心 さん

(取材:2012年12月)

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