ユーザ事例 & スペシャルレポート

東京都市大学 都市生活学部は、新しい発想で「街と文化」を創造する社会科学系学部です。都市をテーマに多岐にわたる領域を学習しながら専門知識を深めています。都市生活学科デザインマネジメント研究室では、先端的情報技術の利用も進めており、BIM(Building Information Modeling)ツールを活用した96時間の仮想コンペ「Build Live CHIBA 2012」にも参加しています。

今回、コンペで学生の指導にあたった准教授の河村容治(かわむら ようじ)先生と歩行者シミュレーションソフトSimTread(シムトレッド)で避難計画を担当した3年生の桃井涼(ももい りょう)さん、横山一樹(よこやま かずき)さんにお話をうかがいました。


-「 Build Live CHIBA 2012」参加の経緯は? -

河村 Build Liveには以前から挑戦したいと考えていましたが、都市生活学部は、2009年に新設された文系の学部です。学生にとってもBuild Liveへの参加は未知の領域ですし、時間内でやりきれるのか不安でした。ですが、卒業研究専用のスペースとして、プロジェクトスタジオができたこともきっかけとなって、2011年に初めて参加し、今回は2回目の挑戦になりました。すべてが初めての前回は、12名の学生が参加し、課題をかたちにして完成させるまで本当に大変でした。応募の結果、賞をいただき大学からも表彰されたせいか、今回は参加を希望する学生が30名近くいました。

-BIM(Building Information Modeling)ツールを活用する授業はあるのですか? -

河村 3DCADの基本操作を習熟するデザインコンピューティング(1)という授業が必修です。この授業では、CADで図面を描くというよりも3Dで建築の成り立ちを理解させることを目的としています。そして、建物情報を1つにまとめるという、BIMの概念もこの授業を通じて理解します。また、デザインマネジメント研究室はデザインコンピューティング(1)、(2)、(3)すべての履修を前提として、モデリングにとどまらず、さまざまな視点でシミュレーションした結果を、再度デザインに反映させることを目指しています。デザインコンピューティングの授業は2年生で終わり、その後、3年生のプロジェクト演習でモデリングした建物について、建物のエネルギー消費量などのシミュレーションや照明シミュレーションなどを行っています。ですから、BIMツールを活用する仮想コンペは、学生が授業で学んでいることの応用になっています。

-コンペではどのようなシミュレーションソフトを活用したのですか? -

河村 Vectorworks上で人の流れを可視化できる歩行者シミュレーションソフトSimTreadと建築物のエネルギー性能を評価するGraphisoft Eco Designerを活用しました。前回も同じソフトを使いましたが、目に見えるかたちでシミュレーション結果を計画案にフィードバックするところまではできませんでした。今回はデザインマネジメント研究室のねらいでもある、さまざまな視点でのシミュレーション結果をデザインに反映させることを目指しました。そのような中で、特に、歩行者シミュレーションソフトSimTreadの活用が有効だったと感じます。

-有効だったというSimTreadの活用で苦労したことは? -

桃井 避難計画に、SimTreadを活用しましたが、初めて見て触ったソフトだったので、計画チームが作成したArchiCADのデータをVectorworksに取り込んだ後、障害物を設定して人を配置し、目的地に向かって歩かせるという基本的な操作ができるようになるまでが大変でした。前回、SimTreadを担当した先輩が今回は参加できなかったので、コンペが始まる前にレクチャーは受けました。それでも、何度も試行錯誤を繰り返し、なんとか使えるようになるまでに、コンペが始まってからほぼ一日かかってしまいました。

横山 やはり、初めて扱うソフトだったので、操作できるようになるまでが大変でした。なんとか使えるようになった後は、ひたすらシミュレーションのために2人で分担して作業するという感じでした。

-どのような想定でSimTreadのシミュレーションを行ったのですか? -

桃井 避難がテーマだったので、基本パターンは1部屋に30人を目安に配置し、通常歩行が可能な健常者という想定で、歩行速度は少し急ぎ足の1.5m/秒としました。その他、高齢者や障害者など歩行速度を遅く設定したパターンと、単純に人を倍にしたパターンを用意しました。避難計画を考える場合、全員が安全に避難できることが前提です。想定パターンについては健常者だけでなく、いろんな人を想定しないと意味がないと感じ、あまり悩むことなく決定できました。他にも考えなくてはいけないことがあったかもしれませんが、想定にはユニバーサルデザインに関する授業の応用ができたと感じます。

-シミュレーション結果を計画案にどのようにフィードバックしたのですか? -

桃井 人が滞留するのは単純に狭いということもありますが、階段や出口を増やすことが有効かどうかも含め、計画チームに提案しました。また、段差が多い計画案では、健常者の避難は可能でも歩行速度が遅い人がいると、避難時間が倍くらいになってしまうパターンがありました。段差やデザインでシミュレーション結果に大きな差が出ることに気づけたのは発見でした。そして、計画チームとは何度もやり取りしながら計画案をブラッシュアップしていきました。

横山 元のプランがわからなくなるくらい何度もシミュレーションをしました。結果をもとに2人で話し合った提案が計画案に反映され、問題が解決できた瞬間はとてもうれしかったです。

-今回の計画案で良かったと感じるところは? -

河村 SimTreadは初めて扱うソフトだったにもかかわらず、96時間という限られた時間の中で、担当した学生が使い方を研究し、自分たちなりのやり方を会得しながら実践的に活用できていました。検証結果をまとめ、計画チームに提案し、連携しながら具体的な設計を進めて行くことができた点は大きな成果です。学生にも自信が生まれたようですし、とても成長したと感じます。今回は、エネルギー性能の検証結果も環境学の坊垣和明教授に質問し、指導してもらいながら設計に反映させることができました。シミュレーションソフトの解析結果を、目に見えるかたちで設計にフィードバックできた点は良かったです。

-SimTreadを活用して変わったことと今後取り組みたいことは? -

桃井 担当したからこそ、人が使うことを意識しながら計画案を考えられるようになったと感じます。今回、屋上から1階まで、4層分の平面を並べて避難性状の再現をしたかったのですが、時間切れで断念しました。また、ショールームは、歩行者をゆっくり歩かせるためのデザイン検討にSimTreadが活用できるとおもしろかったのではと思います。SimTreadは、建物内だけでなく都市全体の空間などにも幅広く使えるように感じたので、今後、避難にとどまらない使い方ができればいいなと思っています。

横山 例えば、角の部分にまるみをもたせると、人の動きがまったく変わって滞留がなくなることもありました。計画する際に、そういうことも意識するようになっています。そして、結果が目に見えてわかり、自分の中で進歩が見えるのでいいなと思いました。操作を覚えてしまえば比較的使いやすいツールですし、避難だけでない、新しい一面を探していきたいと思います。

都市生活学部 教授
山口 重之 氏

- 都市生活学部 都市生活学科 山口重之先生よりひとこと -

都市生活学部 都市生活学科では、都市づくりを総合的にマネジメントできる人材の育成を目指しています。本学科で教えるBIMは、建築がどのようにできているのかを理解させる道具として位置づけ、プロジェクト全体をイメージできる力を養うことも目標としています。ですから、BIMツールを活用してプロジェクトを考える「Build Live CHIBA 2012」への参加は、非常に有効ですし、デジタルの技術を使って学んでいくことも大切だと感じます。


ー取材を終えてー

担当は、得意分野で決めたそうですが、桃井さんと横山さんは、実はモデリングやレンダリングが不得意で、残っていた避難計画を担当したそうです。BIMプランニング賞を受賞した作品以上に作品コンセプト「変化」を体現したのは、避難以外の使い方でもSimTreadでシミュレーションしたかったというお二人なのかもしれません。

エーアンドエー株式会社 CR推進課 竹内 真紀子

【取材協力】

東京都市大学 http://www.tcu.ac.jp/

都市生活学部 都市生活学科 教授  山口 重之 氏
都市生活学部 都市生活学科 准教授 河村 容治 氏
デザインマネジメント研究室 3年   桃井 涼 氏
デザインマネジメント研究室 3年   横山 一樹 氏

(取材:2012年12月)

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