ユーザ事例 & スペシャルレポート

昭和女子大学 生活科学部 環境デザイン学科では、あらゆる分野で求められる快適で美しい環境デザインに貢献できる人材育成を目指し、初年度は多様な環境の理論とデザインに関する基礎を学びます。2年生からは4つのコース「建築・インテリアデザイン」「服飾デザインマネジメント」「プロダクトデザイン」「デザインプロデュース」に分かれ、専門知識を深めます。今回、建築・インテリアデザインコースを担当し、3Dプリンタを活用した渋谷駅の研究にも取り組んでいる准教授の田村 圭介(たむら けいすけ)先生にお話をうかがいました。


-環境デザイン学科の製図とCADはどのようなカリキュラムになっていますか? -

製図は、1年生後期の製図基礎という授業で製図の基礎を手描きで教えています。担当している2年生前期の製図基礎の授業では、住宅の課題をエスキースから始めて、いくつもの案を練って、最終的に模型や図面で作品を表現します。CADの使用は制限していませんが、この授業では学生に手描きを薦めています。建築はCADを習うものという意識があるのか、CADに走る学生もいますが、手でスケッチや図面を描くことは、打合せの際などコミュニケーションツールとしても非常に重要だと感じているので、製図基礎の授業では手描きを推奨しています。CADは、1年生後期の製図基礎と平行してスタートするCADⅠという授業で、設計図面の基礎表現を学びます。使用CADはVectorworksで、1クラス15名程度の少人数で授業を進めています。

-CADの授業では3Dも教えていますか? -

1年生後期のCADⅠで、設計図面の基礎表現に加えて3次元の基本とレンダリングの基礎まで教えています。2年生前期のCADⅡでは、製図基礎の初めの課題程度のものをCADで図面化しています。2D図面に加え3Dモデリングにレンダリングまで行ってプレゼンテーションシートにまとめています。最近の学生は、CADの指導を始めた8~9年前と比べて、明らかに3次元的な感覚が優れてきているように感じます。コンピュータゲームなどの影響もあるのかもしれませんが、コンピュータが身体化しつつあるのではないかと感じます。また、3Dの操作についてはソフトの進化が修得のスピードアップに繋がっている面もあると思います。

-渋谷駅の研究で3Dプリンタを活用しようと思ったきっかけは?-

渋谷駅がどういう仕組みになっているのか純粋に興味があり、以前から資料などは集めていましたが、はたして研究になるのかは私自身も疑問でした。建築界でも東京駅とは違い、渋谷駅は建築と捉えられていませんでしたから、当然学生の興味も薄かったです。そんな中、5~6年前に研究室で渋谷駅の模型制作に取り組みました。その時に渋谷駅の仕組みはわからないことだらけの上、手作業での模型制作は膨大な時間がかかり、表現も難しいということがわかりました。ですが、渋谷駅は長い時間の中で、地層の堆積のように動線が少しずつ変化しています。その変遷過程を明らかにするためには立体で空間を表現できなければ動線がみえてきません。まず、渋谷駅の仕組みを理解するために、動線がどうなっているのか把握することが必要で、そのために、簡単に模型がつくれるものがないか探していました。ですから、たまたま学校で3Dプリンタを導入するという話があった時には飛びつきました。

-渋谷駅の研究には授業でも取り組んだのですか? -

学校に導入された3Dプリンタは、Vectorworksで作成した3Dデータも扱えるDimension3Dプリンタでしたので、当初4年生の製図の授業に導入することを考えました。ですが、実際やってみると、ソフトの操作を覚えるだけでかなり時間がかかりました。また、コマンド的なことを覚えただけで立体感覚が伴わないまま3Dプリンタを使いこなすのは、とても難しいこともわかって、授業で取り組むことを断念しました。

-立体感覚を身につけるためにCAD教育に必要なことは? -

CADを覚えることは難しいことではないと思いますし、中学校や高校など大学より前の段階で、触れる機会があるといいのではないかと感じます。例えば、数学の授業でCADを使って3次元の公式を解説してというようなことになれば、少し変わってくるのではないかと思います。早い段階で取り入れることで、3次元の立体感覚も早く身につけられるのではないかと感じます。大学では図面の描き方やルールは教えるべきだと思いますが、CADの操作を大学で教えなくてはいけないものなのかという疑問もあります。3次元の立体感覚と図面の描き方の両方を大学で教えなくてはいけないので、そこで時間がかかってしまうことが課題だと感じます。

-CADの授業での3Dと3Dプリンタを使いこなすことの違いは? -

CAD授業での3Dは、パソコンの画面上にある物体という感覚ですが、もう少し3Dの感覚に慣れて立体感覚が養われてくると、頭の中にすでにある立体を視覚化していくという作業になります。脳とパソコン画面で対話している感覚で、3Dソフトや3Dプリンタは脳と対話するための道具になりますが、その感覚を短期間で養うことはやはり難しいと感じます。さらに、デジタルとアナログのバランス感覚やヴァーチャルからリアルに移行できる感覚などが必要になります。これらは建築においてもすごく重要だと感じますし、3Dプリンタを扱うにあたっても必要な感覚ですが、身につけるには時間がかかると感じます。

-3Dプリンタを使った渋谷駅の模型制作で苦労したことは? -

昨年は渋谷駅の中で2回(渋谷駅体展、渋谷駅体内展)展覧会を行いました。学部生と大学院生あわせて約10名の学生(有志)と取り組み、出展模型のヒカリエやマークシティーなど大きな建物は大学院生がつくっています。図面の3D化は模型をつくる過程と同じですが、実際の設計図面は危機管理上非公開で、入手できなかったため、学生と現地調査をし、スパンの長さや柱の位置などを推測しました。さらに、危機管理対策が強化される以前の雑誌に掲載された図面や現地調査の情報をつき合わせて、まるで考古学で復元していくかのような作業をして、図面を作成し変遷過程の模型を仕上げています。その点は大変苦労しました。

-研究や出展を通して学んで欲しかったことは? -

この先、学生がどんな仕事につくかはわかりませんが、活動を通じて対外的な接し方やグループワークの重要性も修得させたいと考え、プロジェクトを進めて行く過程での難しさや喜びをできるだけ学生に見せていきました。研究における分析も、さまざまな観点から学生が発見できるように仕向けていきました。発見できると、研究する感動や楽しみも感じられ、より積極的に取り組んで行けるのではないかと考えています。1回目にそういった指導をしたことで、2回目は学生がどんどんアイデアを出し、かなり興味を持って主体的に進めてくれたので、実務の経験としても良かったと思います。

-今後どのような取り組みを行いたいですか? -

どのようなアプローチが良いかはまだ模索段階ですが、ヴァーチャルにはリアルを無視してかたちができるという自由度もありますし、創造的なものができる可能性も一方で秘めていると思います。私自身、横浜の大さん橋の設計にずっと携わっていたので、できれば学部の授業の中でコンピュータやCADを活用して学生に自由に発想させて、さまざまなかたちの建築を考えていくことに取り組めたらと思っています。渋谷駅の研究では動線模型を3Dプリンタでつくりたいです。動線も変遷過程があります。展覧会では、学生が15過程ぐらいをアルミでつくって、ネットワーク図もつくっていますが、ぜひ3Dプリンタで表現したいと思っています。また、現在の3Dプリンタはプラスチック樹脂なので建築の部材にはなりませんが、3Dプリンタで建築部材がつくれるようになったらいいなと感じます。


ー取材を終えてー

3次元の立体感覚を養うために早い段階でCADをという話から、2変数関数をステンレスで表現した「数楽アート」を思い出しました。数学の公式も3Dの立体で解説されたら、もっとすんなり頭に入ったかもしれません。難しそうに感じられる領域も見方や見せ方を変えることで意外と簡単に受け入れられるのかもしれません。

エーアンドエー株式会社 販売推進部 CR推進室 竹内 真紀子

【取材協力】

昭和女子大学 http://swu.ac.jp/

生活科学部 環境デザイン学科 准教授 田村 圭介 氏

(取材:2012年5月)

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