ユーザ事例 & スペシャルレポート

西郷真理子氏による地方都市再生プロジェクトは、2011年、カンヌで、日本のプロジェクトとして初めてMIPIMアワードを受賞。建築家という専門の職能を総合的に捉え、丸亀、川越、長浜などで商店街再生とまちづくりを牽引してきた西郷氏は、CADの可能性をどう考えているのか。


Vectorworks Design Pick Up 08

コミュニケーションデザイン。つながるしくみとツールを人は手に入れた。

コミュニケーションというのは、とても知的な行為で、お互いの共同性を確認することで、人々がつながります。そのためには、一定の教育や教養が不可欠で、コミュニケーションのしかたのトレーニングが求められます。アップルコンピュータ共同設立者の一人、スティーブ・ジョブズ氏は、人々のコミュニケーションを変えた人物でした。彼は、人々がつながる仕組みを、全く新しい発想としてとらえ、そのつながりが、人々を既存概念から解放し、人々(社会)が幸せになることを実践してきたのです。

人類という言葉があるように、人はつながることで、やすらぎ、幸せをかんじます。それがコミュニティです。
昨年春の震災では、東北の人々が助けあう姿が世界的に評価されました。モノに溢れた生活から、支え合う豊かなコミュニケーションによるシンプルな生活、日本古来の生活スタイルが見直されました。日本人の価値観が変わろうとしています。ジョブズ氏は、禅の僧侶を一時目指したことがあるということ聞きました。彼は、日本人がもっている自然と共生し、自然と人々がつながる社会を築くことを、イメージしていたのではないでしょうか。PCの本質は、演算の速度や保存容量ではなくスペック競争でもなく、人々のコミュニケーションを進化させるツールとしての技術にあるのだと思います。

科学技術は本来、私たちの暮らしを豊かにするために発展してきたのであり、経済拡大のためだけの技術ではありません。しかし、昨今の日本は科学技術一辺倒で、生活文化という視点が欠けていたことは否めないでしょう。では、豊かな生活文化とは何でしょうか。日本人が考えてきた豊かさとは、モノに溢れたゴージャスな暮らしではなく、地域の自然と共存し、季節を感性で捉え、その関係に築かれたコミュニケーションを楽しむ日々の中にありました。

私たちが手がける『まちづくり』では、こうした地域のライフスタイルを『ブランド化』することも必要だと考えています。先人たちが大切にしてきたライフスタイルと都市のあり方に、自信を持てなかったことが、地方都市の衰退にもつながっています。

世界がうらやむ街と暮らし、その素晴らしさを市民が自覚し、自信を持てるなら「まちづくり」は成功します。

さらに、自然との共生を考えるならば、コンパクトシティをめざすべきです。戦後、人口の拡大とともに市街地も拡大してきました。しかし、例えば、今回の震災では、拡大した市街地が、壊滅的打撃を受けており、伝統的都市は、それほど被災をしていません。人口減少社会においては、豊かな自然に囲まれたコンパクトな都市の合理性について、もう一度、真摯に考えるべきです。伝統的都市、伝統的建築が内包していた、自然と呼応する合理性を見直すべきです。伝統的都市の公共空間はコミュニティの中心であり、子供たちからおばあちゃんまで、様々な人たちがコミュニケーションできる空間です。人々が豊かにコミュニケーションできる美しい都市をめざした時、CADは自然と建築をつなぐツールになり、有機的な美しいデザインを生み出します。

自然であり有機的存在である人間も解放されていく空間をどうつくるか。それを実現するコミュニケーションの技術が、CADの本当の特質なのではないでしょうか。

 

新建築:2012年1月号掲載)

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