ユーザ事例 & スペシャルレポート

エーアンドエーは2011年12月8日・9日の両日、東京・恵比寿ガーデンホールで「Vectorworks Solution Days ’11」を開催した。

今回、テーマとして「Designs」を掲げ、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や3次元設計ツールとして「Vectorworks」を活用する著名建築家やインテリアデザイナーが、最新に手がけた作品やインテリアデザイン、デジタルファブリケーションなどについて講演した。2012年1月発売の最新版「Vectorworks 2012」で強化されたBIMや3次元設計機能や活用のデモンストレーション、展示会も同時開催された。


基調講演

近作について

西沢 立衛 氏 西沢立衛建築設計事務所 代表

東京・江東区にある倉庫を改装し、妹島和世さんの設計事務所、私の設計事務所、そして妹島さんと私の共同事務所SANAAの3つを置いて活動している。今日はSANAAの作品と、私自身が西沢事務所で手がけている作品の両方を紹介したい。

建築に対する私のテーマは2つある。1つは「環境と調和する建築」、もう1つは「人間が使う建築」だ。建物はその場所に何百年も存在し、人間が使うことで生きる。つまり場所との連続性や人間との連続性を持った建築を常に考えている。

しかし、単に連続した、開かれた建築であればいいというわけではなく、何らかの創造性が必要だと感じている。建築と環境の関係という点において、人々が感動するような関係性というものを目指したい。また、人間が使いやすい建物であればいいかというわけではない。

人間が生き、空間を使っていくことのすごさが表れるような建築を作りたい。また、建築は建てるとこれから数十年にわたって使われてゆくものだ。その意味でも、今まで私たちはどう建築を使ってきたかはともかくとして、むしろこれから自分たちがどのような建築の使い方をしたいかということを考えたい。それは住宅でも、美術館でも変わらない。

2010年にオープンした豊島美術館は、瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)の小高い丘にある。この美術館の特徴は、アーティストである内藤礼氏の作品1点を永久展示し、それと共に共存する環境を作ることだ。美術館を設計する際の原則は、展示物と建物を切り離すことだが、ここでは逆に、建築はアートや環境とどう一体化できるか、連続しあえるか、を考えた。

曲線を帯びた自然の地形と調和させるために、建物を自由曲線で作ろうと考えた。平面的にも立面的にも自由曲線で構成された水滴のような低いドーム型の建物が望ましいと考えた。70mの大スパンを覆う低い建物を実現するために採用したのが、シェル構造だ。

アントニオ・ガウディの時代は、模型を作ってそれを逆さにしてシェルの断面形状を求めたが、今回のように複雑な曲面のシェルは、そのようなやり方ではなく、コンピュータによる解析だ。昔では想像できなかった形が、現代の計算力によって実現可能となった。

現場での施工方法ということでもさまざまな課題があった。ここでは型枠工法でなく、現場から出てくる土で山を作り、それを雌型としてコンクリート打設した。構造的に分割できない形状のため、全体を丸一日かけてコンクリートを一気に打設した。

また、土型枠となった土を搬出するため、シェル面に穴を空けた。その開口部は、建物の中に日差しや雨風、野鳥などと共生する空間として、あえてガラスなどで覆わず、自然のままの開口部として残した。

豊島は山や緑が豊富で、棚田や瀬戸内海の島々が織りなす美しい景色がある。建設予定地はこうした環境に囲まれた丘の斜面だ。そこで美術館のエントランスに通じる道は、丘をぐるりと一周するようにした。歩きながら豊かな緑や棚田、港などを見て、豊島の魅力を感じ、その後で美術館に入って行く、という流れだ。

「環境と人間との連続性を持った建物」という考え方は、フランスのランスで建設中のルーブル美術館別館や、スイス・レマン湖のほとりに連邦工科大学ローザンヌ校キャンパスの中核となる学生会館といった大規模な建物から、軽井沢千住博美術館、さらには都心のビルにはさまれた極小住宅まで、私が手がけた作品の中では常に課題となっている。

特別講演

デジタルテクノロジーを用いた新しい環境デザインのあり方について

末光 弘和 氏 末光 陽子 氏 株式会社SUEP

ここ数年、デジタルテクノロジーは、環境とデザインとともに進歩を続けている。われわれの設計活動でも、デジタルテクノロジーを取り入れている。

末光弘和はアトリエ系の伊東豊雄建築設計事務所、末光陽子は組織系の佐藤総合計画で経験を積み、2003年に2人でSUEP(スープ)という設計事務所を設立。東京と福岡の2拠点で活動している。SUEPでは「環境」をテーマにしており、この視点から建築のデザインとテクノロジーの関係についてお話したい。

古代ピラミッドの時代から現代に至るまで、デザインとテクノロジーは一体のものとして進化してきた。現代ではさまざまな形を高度な解析技術で実現できるようになってきた。

われわれは、自然界にあるものの形こそが、究極の合理性をもっていると考えている。例えば、葉っぱの葉脈を観察すると、光合成を行うため、最小限のマテリアルで最大限の面積を作り出す構造になっている。ここに環境と一体となった合理性がある。

1本の木を見ると、葉っぱや枝の広がりは、下の葉が上の葉の陰にならないように位置をずらした配置になっている。また、山の尾根線や谷線の連なりも、地表に降った雨水を効率的に排水するために合理的な形になっている。自然界には同様の合理性を持った形が多く存在する。

テクノロジーの進化は、これまでのような画一的な合理性の定義を拡張し、自然の中に存在するような有機的な合理性によって建築をデザインする事を可能にするのではないだろうか。

千葉県の我孫子市にある「Kokage」という住宅は、暑がりな住まい手のために、庭木を延長して、木陰の下で生活を営めるような建築を考えた。そこでY字形をした木造の「ツリーユニット」を住宅の基本要素として10カ所に配置し、構造体を造った。

ユニットのすき間からは、木漏れ日のように光が差し込んでくる。ツリーユニットには、冷たい井戸水を通す管を設置することにより「輻射冷房」の機能も持たせた。このようにして木陰の下で涼をとりながら生活を営める環境を実現した。

2011年3月に開業した九州新幹線の筑後船小屋駅(福岡県筑後市)の駅前公園では、筑後広域公園文化交流センター(仮称)が建設中だ。われわれが担当しているアネックス棟では、森の中に張られた「ハンモック」をイメージした吊り構造を採用した。

建物の周囲には大楠の木を移植し、木を避けるように柱を立て、その間にカテナリー(懸垂線)状の曲面を持った床と屋根を架け渡すような構造にした。

この形を従来の鋼構造物の手法で造ろうとすると、曲面を多数の三角形に分割し、それを溶接することで多面体のように造ることになる。そこで採用したのが、自動車や飛行機の設計に使う製造業向けの3次元CADだ。クルマのドアなどはプレス加工によって造られるため、製造業向けのCADソフトには材料の伸び率を考慮した展開図の作成機能がある。

この機能を使って床の展開図を作り、鋼板をレーザー加工機でカット。平板のまま現場に搬入して設置し、上からコンクリートの打設によって荷重をかけることにより、カテナリー状の床形状を造ることができた。

自然の形を採用することで、大小さまざまの建物が共存する施設のデザインに統一感を与えやすいという効果もある。例えば、海岸線のように小さな形状から大きな形状まで自然に連続する「フラクタル」的な形状だ。佐賀県嬉野市の塩田中学校と社会文化体育館、その周辺を結ぶ人工地盤のデザインでは、折り紙のような複雑な幾何学を持ったデザインを取り入れた。その結果、大小の施設が混在する地域に統一したデザインを実現するとともに、立体効果による構造システムや、雨水の流れをコントロールして保水する環境システムを作り出している。

こうした自然の合理性を取り入れた建築は、CADソフトや環境シミュレーションソフトの高機能化とデジタルファブリケーション技術の進化が可能にしたと言えるだろう。

このほか、実践事例講演、Vectorworks デモンストレーション、展示ゾーンの詳細はPDFファイルをご覧ください

 

この事例は日経BP社の許可により「建設・不動産の総合サイト ケンプラッツ」で
2012年2月1日より掲載された記事をもとに編集したものです。

この事例のPDFファイルをダウンロードする

 

記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様は予告なく変更することがあります。