ユーザ事例 & スペシャルレポート

アンズスタジオ(AnS Studio)では、コンピュテーションを駆使して、建築の新たな領域への挑戦を続けています。「種まきプログラム」や「木漏れ日プログラム」などを活用した、周辺環境との関わりを取り込んだデザインには、豊かな建築への新しい未来を感じます。そのデザイン手法やデジタルファブリケーションの可能性を追求する研究などのご紹介とともに、Vectorworksはじめ、さまざまなソフトウエアとの関わり方をご紹介します。

今回、Vectorworksの前身であるMiniCad+2以来、長年Vectorworksをお使いいただいている、アンズスタジオ 代表で豊橋技術科学大学 人間・ロボット共生リサーチセンターのコアメンバーでもある竹中 司(たけなか つかさ)さんにお話をうかがいました。


AnS(アンズ)の由来は建築とn次元の周囲環境(Architecture and nSurroundings)

-アンズスタジオではどのような取り組みをしていますか?-

これからの時代、専門分化してしまった建築のさまざまな領域を、相互につなぎあわせることが重要だと感じています。コンピュータが持つ可能性のひとつは、そうした多様な価値をつないで処理できることではないでしょうか。アンズスタジオ(AnS Studio)では、コンピュテーショナル・デザインのスペシャリストとして、さまざまな情報や人々の価値観をつなぎあわせながら、豊かさを継続するデザインとその手法を模索しています。アンズ(AnS)の名前の由来はArchitecture(建築)とnSurroundings(n次元の周囲環境)です。つまり、カタチは周りがつくりあげるものと捉え、建築とn次元の周辺環境をつないで、それらを組み合わせたものづくりを実現したいと考えています。

多様な情報をつなげながら、関係性をデザインする手法

-コンピュテーショナル・デザインとはどのようなデザイン手法ですか?-

ものづくりにおいて、デザインは単なる意匠ではなく、環境や構造の解析データに基づいて考えていくことが必要になってきています。デザイナーは豊かさを創造していく仕事ですが、それを実現するには、プロジェクトごとに独自のツールをつくりあげていくこと、すなわち「ツールカスタマイゼーション」が必要不可欠です。コンピュテーショナル・デザインはコンピュータで多次元的な情報をつなげながら最適解を導く、いわば情報の関係性をデザインする手法であると考えています。今までは、それらの情報を経験的に扱っていましたが、デザインのための正確なパラメータとして取り込み、どのような専門家とどのような情報を共有しながらものをつくるかということが重要なポイントとなってきます。

豊かさを時代とともに維持していくデザインが求められる

-コンピュテーショナル・デザインの特徴は?-

例えば、ソニーシティ大崎のランドスケープは、自然な植物の配置を見つけるために、風や光の強さ、人の通行量などの環境情報を基にプログラミングでデザインされています。それが「種まきプログラム」です。植物の成長、淘汰を含めたアルゴリズムも加えて最適化しながら美しさやデザインの方向性にあったパターンを導き出しています。それらはパラメトリカルに定義され、継続的に状況の変化に追随します。デザインに時間軸を加えることで環境変化に呼応しながら豊かさを継続する手法、私はこれをデザインプロバイディングと呼んでいます。これからのデザインは、豊かさを時代と共に維持していく継続性が求められます。それには、コンピュテーションの力がさらに発揮されると考えています。

ツールのカスタマイズやプログラムによってイメージをカタチにしていく

-プログラムをつくるときの発想の原点は?-

発想は絵を描いているのと変わりません。「種まきプログラム」は、種をどうやってまこうかということからスタートして、種をまいた時に周りの環境を判断して木々が成長し、そこから森が生まれていけばいいなとイメージしました。「木漏れ日プログラム」は、都心のオフィスビル空間のためのプログラムですが、木陰の柔らかい光が落ちる空間をイメージし、植栽の持っている木漏れ日の量を計算した結果に基づいてデザインしました。また、風で緩やかに揺れる装置を壁面に装着してその効果を増幅しています。自分が想像したイメージに近づくようにプログラミングでデザインしています。

万能なソフトウエアはないのでどのように関係性をつくるかが重要

-Vectorworks含めたソフトウエアに望むことは?-

最初のスケッチや作図でVectorworksをかなり使っています。そこからプログラムを書いて、CAMやレンダリングソフトに持って行ったりしますが、ソフトウエアは基礎がしっかりしていることが重要です。そういった意味でVectorworksは、平面系がしっかりしているので、作図には不自由のないレベルです。直感的に操作できるのも素晴らしい点で、VectorScriptもかなり強力です。ただ、使い手からするとSDKやScriptがあれば、概念的にはどんなソフトウエアでも大差はありません。また、全てに万能なソフトウエアはありませんし、それぞれに性格や特徴があります。いい面を上手く使いながら、どのように関係性をつくってツールをカスタマイズするのかが重要です。そういった点でソフトウエア同士の関係性のつくりやすさも魅力になります。

コンピュータを使いこなすためには強靭なクリエイティビティが必要

-コンピュータを使いこなすには何が必要ですか?-

例えば、今でも残っているコルビジェやその時代に創造された作品は、モジュールもデザイン手法も自分たちでつくり出し、すばらしいクリエイティビティがあります。現代になって、コンピュータという新しいツールが加わり、実際には目に見えない環境情報など、デザイナーは豊かさをつくり出すための材料が増えます。さらに、コンピュータとつながった道具としてデジタルファブリケーションも登場し、新しいものを創造できる時代になってきました。ですが、情報が増え、ますます難しい情報も扱わなくてはならなくなると、より強靭なクリエイティビティが求められます。創造性を育てていかないと、ツールを使いこなせず、使われてしまう現象が起こるのではないかと感じます。それは、コンピュータの勉強やソフトウエアを覚えることではなく、実際に体験して感性を磨いていかなければ獲得できません。土をいじって木を植える経験がなければ、本当の意味で、コンピュータの中で木を植えることはできないと思います。

生産までを考えてその特徴を生かしながらデザインしていくことが大切

-コンピュテーショナル・デザインの実践で大切なことは?-

「木漏れ日プログラム」ではファサードに20万個ぐらいの穴を開けていますが、韓国のファブリケーターが持っている機械のパラメータを先に入手し、それに基づいてデザインを展開しています。パラメータやアルゴリズムを使うと複雑な形態はできますが、実際にどのようにつくるのか、生産の仕組みや手法をまず考えて、その特徴を生かしながらコンピュテーショナルでデザインしていくことが大切です。

どう使いこなすか研究しコラボレーションできる環境をつくることが重要

-デジタルファブリケーションの可能性は?-

次世代に向けたモノコック型木加工の提案として、構造家や木材工場、刃物を削る職人の方々とコラボレーションして制作した「ニューロ・ファブリクス」という作品にデジタルファブリケーションを用いています。最近はレーザーカッター、CNC旋盤が大学にも導入されてきていますが、それらをどう使いこなすかを研究していかなくてはいけません。さらに、世界中のファブリケーターやその他さまざまな分野の人やデータとつながりながら、ものづくりをしていくことが重要です。そのためには、ネットワークコラボレーションの環境を整備することが重要だと感じています。

次世代につなげるために、理想を追求していくことが大切

-これからどのようなことに取り組みたいですか?-

「情報の関係性をデザインする」ことに挑戦していこうと考えています。コンピュテーショナル・デザインは実践含め、まだ始まったばかりです。常識化したことでも、当たり前と捉えず常に疑問を持ち、理想を追求していくことで次の可能性を見つけられるのではないでしょうか。こうしたコンピュテーションがもたらす新しい創造の始まりにワクワクしています。


ー取材を終えてー

日本の大工さんは140種類ぐらいの道具を使うそうですが、イメージしたものをつくり出すために、必要な道具も生み出されるというのは、ものづくりに対する本来の姿勢なのだろうと感じます。その思想はコンピュテーショナル・デザインにもつながり、いろんな能力や経験を持った人や物とどんどんつながることで、不可能も可能になるようなものづくりができる、楽しい時代なのかもしれません。

エーアンドエー株式会社 販売推進部 CR推進室 竹内 真紀子

【取材協力】

アンズスタジオ http://www.ans-studio.com/

代表  竹中 司 氏

(取材:2011年10月)

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