ユーザ事例 & スペシャルレポート

株式会社ピーエムティーは、超精密軸制御技術、環境事業をコア・コンピタンスに、企動力(企画し、動く力)による最良の製品を産むチーム体制を組んでいます。独自の技術で開発した半導体製造装置「プロジェクション描画装置」は、独立行政法人産業技術総合研究所が、2014年までに実用化を目指している「ミニマル・ファブ構想※」にも採用され、注目を集めています。Vectorworksが半導体製造分野で、どのように活用されているかをご紹介します。

今回、株式会社ピーエムティー 研究開発グループ グループリーダーの三宅 賢治(みやけ けんじ)さんと研究開発グループ チームリーダーの椛田 信哉(かばた のぶや)さんに装置の魅力と開発にまつわるお話をうかがいました。


ミニマル・ファブ構想の実現には半導体製造装置の低価格化は必須

-装置開発にあたっての絶対条件は?-

三宅 大きな半導体工場をつくるには、装置も高額な上、特殊な基礎工事や地震対策、クリーンルームなど建設費も膨大になり、およそ1千億から5千億はかかると言われています。その、千分の1程度の投資コストで半導体工場を実現するのがミニマル・ファブという構想です。

椛田 ミニマル・ファブでは、省エネ、省スペースがテーマとなります。クリーンルームが必要のない生産を考えていて、半導体に付加価値がつけられる少量多品種生産も可能になります。開発にあたっては、まず装置のコストを下げることからスタートしました。

低価格の半導体製造装置を実現するために汎用品の可能性を探る

-装置のコストを下げるためにどのような工夫をしたのですか?-

三宅 従来の半導体製造装置は光学系のレンズや高圧の水銀ランプ、専用CADなどいずれも特殊用途の製品を使うため、高額になります。開発した装置はできるだけ汎用品を使って価格を抑えると同時に精度を保てるよう研究開発グループでさまざまな工夫をしています。

椛田 低価格を実現するために、回路パターンを光で露光する装置や、パターンの描画方式などに工夫をしています。また、回路パターンを作図するCADについても半導体専用の高額なものではなく市販のCADソフトが使えないかという調査から始めました。

汎用CADで作成した回路パターンをウェハに直接描画

-開発したプロジェクション描画装置の特徴を教えてください。-

三宅 回路パターンをウェハ(半導体基板)に焼き付けるためには、一般的にマスクとかレチクルと呼ばれる写真で言うとネガにあたるものが必要です。開発した装置はCADで作成した回路パターンを直接ウェハに描画するため、マスクが必要ないマスクレス露光です。さらに、描画には、プロジェクタにも広く利用されているDMD(デジタル・ミラー・デバイス)という超微小な鏡(マイクロミラー)が敷き詰められた画像表示素子に、ランプをあてて反射させ映像を表示するDLP(デジタル・ライト・プロセッシング)方式と同じ技術を使っています。ランプには高輝度LEDを採用しており、半導体製造で多く使われている高圧の水銀ランプに比べ価格も安く寿命も格段に長くなります。ですから、装置の低価格化に加え製造期間の短縮やランニングコストの削減も期待できます。

椛田 直接ウェハに描画する装置は今までもあったとは思いますが、一般的にはマスクを使った露光装置が多く、回路パターンを描くCADもほとんどが高額な半導体専用CADを使用しています。今回、開発した装置は汎用CADであるVectorworksを採用しました。

扱えるファイル形式はビットマップ

-汎用CADを採用するにあたって必要な条件は?-

椛田 開発した装置で採用しているDMDコントローラーが扱えるファイル形式はビットマップですので、CADの図面をビットマップで取り出せることが条件になります。実は2010年6月に出荷した1号機は他の汎用CADソフトを採用しました。そのCADは、操作に関しては素人の感覚ですが非常に使いづらいということもあって、別のCADも検討しようと考え、出会ったのがVectorworksです。直感的で使いやすく、操作性は圧倒的に良かったです。装置に採用した場合にも簡単な操作マニュアルがあれば大丈夫だろうと感じました。

1号機での問題点を解消するためのVectorworks

-スタンダード製品にVectorworksを採用したきっかけは?-

椛田 半導体で扱うのはμm(マイクロメートル)あるいはnm(ナノメートル)という単位です。開発した装置は1μmを描画最小単位としていますが、回路パターンの図面をビットマップで取り出すとファイルサイズは数十から数百MB(メガバイト)になります。1号機では、特定のファイルサイズを超えるとビットマップが取り出せないという現象が起き、いろいろな検証をしましたが解決できず、描画範囲に制限をつけて出荷しました。しかし、制限を超えるサイズも描きたいというユーザからの要望があり、Vectorworksでの開発が始まりました。

今後のVectorworksの開発支援環境充実に期待

-Vectorworksを使っての開発で苦労した点は?-

椛田 まず最初に、ビットマップで取り出すところでつまずきました。VectorworksのVectorScriptではビットマップで取り出す命令ができないことがわかり、SDK(Software Development Kit)を使ってC言語による開発に着手しました。ところが、コンパイルできても動作せず、原因がわからずに苦労しました。開発環境はWindowsでしたが、VectorScript以外で開発する際にMacの環境が必要であるなど、実際にサンプルをつくり動作確認をするまで情報が少なくてこずりました。それでも1ヶ月半ほどで仕上げることができたのは、開発者へのサポートが充実していたからだと思います。慣れてくると、操作した内容をスクリプトとして取り出すこともできるので、それをもとに勉強もできます。納入先に多い研究開発機関ではMacを使っているケースも多く、プラグインプログラムが、MacとWindowsどちらにも使える点は大きなメリットです。開発やカスタマイズに関してはもうひと工夫があると、Vectorworksをベースに開発する人も増えてくるのではないかと思います。

進化を続けるプロジェクション描画装置

-装置の評判はいかがですか?-

椛田 今年の9月でVectorworksを使ったプロジェクション描画装置の出荷は4台になります。一台一台微調整が必要な受注生産で、製造には約3ヶ月かかります。現在は大学や研究開発機関からの受注が多く、装置は問題なく稼働しVectorworksも好評で、操作性も問題ありません。ですが、特定の図形をビットマップで取り出すと1μm単位でずれることがわかり、スクリプトで規則化しています。この点は今後、根本的に解決したいです。また、現状Vectorworksは32bitアプリケーションなので、1.2GB程度が使用メモリ量の限界です。今のところは、ビットマップ取り出しの際にいくつかのファイルに分けて出力するなど制限を付けていますが、今後は、間違いなく密度の高いパターン描画を求める声がでてきます。ですから、64bit対応になることを願っています。さらに、納入先からは機能追加の要望もありますので、装置としてはこれからまだまだ進化します。

開発だけでなくVectorworksの操作も学びたい

-今後取り組んでいきたいことは?-

椛田 開発した装置は1μmを描画最小単位としていますが、nmを扱うにはメモリ容量的にビットマップ形式では難しいです。nmも扱える半導体専用CAD用に開発されたデータ形式はGDSⅡという形式です。ですから、汎用CADでGDSⅡ形式を扱えるということも今後の命題になります。また、最近は3次元露光装置も出始めていますので、2Dだけでなく3Dでの作図と露光といったことも視野に入れていかないといけないかもしれません。。そして、Vectorworksについては今までは開発ばかりだったので、操作もぜひ学びたいと思っています。

参考:産総研コンソーシアム・ファブシステム研究会HP

※ ミニマル・ファブ構想とは

ミニマル・ファブとは、超小型製造装置群からなる最小の集積ファクトリーのことで(1)1ロット=1ウェハ(ハーフインチウェハ)=1チップ、(2)装置サイズ30cm幅(3)ミニマルマニュファクチャリング技術による地球環境対応と産業力強化の同時実現を特徴としている。多品種少量および変種変量生産ニーズに適応した新しい半導体生産システムとして、工場ラインと試作ラインの投資規模を大幅にコンパクト化し、「必要なことを必要なときに必要なだけ」行える生産方式を目指している。


ー取材を終えてー

テレビ、カメラ、パソコン、携帯電話、自動車など身の回りにあるさまざまな製品に半導体は使われています。その回路寸法はμm(マイクロメートル)、nm(ナノメートル)と肉眼では確認できない単位です。そんな世界でVectorworksが使われていることに正直とても驚きました。まだ課題は残っているとはいえVectorworksの潜在力と可能性を感じました。

エーアンドエー株式会社 販売推進部 CR推進室 竹内 真紀子

【取材協力】

株式会社ピーエムティー http://www.pm-t.com/

研究開発グループ グループリーダー 三宅 賢治 氏
研究開発グループ チームリーダー 椛田 信哉 氏

(取材:2011年7月)

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