ユーザ事例 & スペシャルレポート

去る8月25日(木)、東京 品川のコクヨホールにてVectorworks教育シンポジウム2011が開催されました。「デザイン教育におけるCAD活用の現状とこれから」をメインテーマに3回目を数える今回は、建築家 伊東豊雄氏による基調講演をはじめ、建築、環境をテーマとしたOASIS加盟校による実践事例講演、美大によるデザインをテーマとしたパネルディスカッション、さらにVectorworksを学ぶ学生の作品やエーアンドエー各製品の展示など、盛り沢山の内容で開催されました。

開催当日は、朝から多くの教育関係者、学生、社会人の皆様が集い、熱心に講演に耳を傾ける姿や、学生作品をカメラに収める姿が見られ、熱気ある一日となりました。


基調講演:「これからの建築を考える」

建築家:伊東 豊雄 氏

基調講演には、日本を代表する建築家の一人、伊東豊雄氏が登壇。超満員の中、講演ははじまりました。
「わたくしは事務所をはじめてから40年になり、" 節目の年だなあ "と考えていた矢先に、大震災が起こりました。わたくしの建築人生を一変させる大きな事件でした。」と切り出し、「こういう時だからこそ、建築の思想を変えなければいけないのではないかと考えています。」と講演のテーマについて説明しました。

まず、7月30日に愛媛県今治市にオープンしたばかりの「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」について、何枚もの写真をまじえながら、珍しいフレーム構造や、コンピュータを使った複雑な菱形ユニットを組み合わせた屋根など、瀬戸内海を望む高台に建つ3つの近代的な建築それぞれの興味深い設計や工法について、詳しく解説しました。そして「もともと、この隣にある美術館の方より、記念館設計の依頼があり、いろいろな打合せをしていく中で、" ご自身のミュージアムをつくりませんか? "というお話をいただきました。戸惑いもありましたが、お受けさせていただくこととなりました。」と、ミュージアム建築に至った経緯を披露しました。

次に、東日本大震災からの復興へ向けて、建築家ができることを考えるため結成された「帰心の会」( 山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和世、伊東豊雄 : 敬称略 )の被災地での活動の一つとしてはじまったプロジェクト「みんなの家」( 仙台市 )について解説。
「みんなの家」は、現在、プレハブの仮説住宅が並ぶエリアに、10坪と小さいながらも、ここに暮らす地元の人々が何気なく集まり、団らんが取れ、心癒せる場を建設しようとはじまったプロジェクトです。

地震発生前まで庇や縁側のあった住居から、四角いプレハブへと移り住まなくてはいけなくなった高齢者や住民の皆さんのことを考え、「今回は、現代建築によくあるモダンな住宅ではなく、住民の皆さんと直接話し合いながら、0から考え直してみようと思いました。」と、本当に地元の方達の必要とする「みんなの家」の基本構想を紹介しました。「住民の皆さんの共通イメージというものが浮かんできます。それとわたしたちが考える住宅というものに、大きなギャップが生まれてくる。この問題について、話が元に戻ってしまうかもしれないけど、もう一度立ち止まって考えてみる。この方達に必要な住宅とはどういうものか思案し、ギャップを埋めていく作業は非常に面白いのではないかと思います。」と何度も現地に足を運び、地元住民の皆さんと密接にミーティングを重ねながら地域に溶け込むこれからの建築を考える想いを伝えました。
さらに「こういうことをこれから若い人達と一緒にやっていきたい。そして『みんなの家』をもっと沢山つくってみたいと思っています。」と、震災復興に対する想いと建築設計の原点とも言える考えを語りました。

この他、2009年に台湾の高雄に建設された4万人収容のスタジアム( ワールドゲームズスタジアム )については、公園と一体となったデザイン、日射しを遮る役割を果たすソーラーパネル屋根、競技場内に風の流れを引き込む構造などを解説し、SimTreadの原型となったプログラムを利用して竹中工務店と弊社開発室木村が共同で避難シミュレーションを行った事例を紹介。
「今までスタジアムというのは、閉ざされた環境、完結した空間をつくることで、より人工的な優れた環境をつくることが考えられてきましたが、特にこの震災を機に、これからは自然環境に対して開いた建築、開いた環境づくりが要求されてくるのではないかと思っています。」と、これからの建築への想いを述べました。

さらには、アールのアーチ壁を多様した多摩美術大学図書館や、アルゴリズミックデザインを利用した台湾の大学校舎、国際貿易センター前広場など、沢山の作品をデザイン手法と合わせて紹介。また、現在進行中の国内大型メディアテークプロジェクトについては、建物だけでなく、緑をふんだんに使ったエリアゾーニングや、天井から自然光が降り注ぎ、建物内を風が通る構造など、快適な環境づくりを細かに解説しました。
最後に、海外で2013年末に完成予定のオペラハウスプロジェクトについても触れました。

伊東氏は、これからの建築について「津波で流された部分にも、また植物が生えてきます。それと同じように、家を流されてしまった人達もここに住むんだと言う人ばかりです。」、「やっぱり人間の中には自然の部分がある。現代建築がそれをいかに取り込んで形にすることができるか、この震災を機に、現代建築を超えたところで新しい建築を考えていくことができるかが問われていると思います。」と締めくくり大きな拍手と共に講演を終了しました。

OASIS研究・調査支援奨学金制度創設と選考結果発表

エーアンドエー株式会社 取締役 大河内 勝司

次に6月20日に創設されたOASIS加盟校向けの研究・調査支援奨学金制度についての説明と、第一次選考結果の発表及び奨学金の授与が、弊社取締役の大河内勝司より行われました。

大河内は、この制度の創設のきっかけについて「28年前、3人でこの会社を立ち上げた時、会社をつくるなら志は大きく持とうと、" 社会貢献のできる会社にしよう "という目標を立てました。」、「この中の一つ、" あとに続いてくれる若い人たちをサポートする "これをずっと考えていた中、今回の震災がありました。この時、やはり創設しよう!と決意しました。」と語りました。

そして、制度の詳細を説明。大河内は奨学金制度の大きな特徴として「この制度のいいところは、研究・調査内容については、一切口を出さないということです。我々の製品を使って頂かなくても結構!。今年のテーマである『この震災を次代に伝承していくために』に沿って自由に研究し、その成果を発表いただけたらと思っています。」、「大事なことは、研究者がやりたいことを何のしがらみもなくやれる環境でなければいけないということで、結果、" 口は出さない "ということにしました。」と、この制度に対する熱い想いを述べた上で、「まだまだ募集しています。私たちを驚かすような果敢なアイデアを待っています。是非応募してくださいね。」と学生の皆さんへメッセージを送りました。

引き続き行われた奨学金授与式では、専門学校ICSカレッジオブアーツの大石昴史さん、河埜智子さん、明治大学の高橋侑万さんの3名に授与通知書と奨学金が授与されました。

授与された3人は、これからの研究について次のように意気込みを語りました。

大石さん:「災害地におけるサニタリースペースの建設の研究を進めています。仮設、常設に関わらず、今後に役に立つものを考えていきたいと思っています。」

河埜さん:「大石さんと同じ研究を行っています。この奨学金を、これからどう活かす事ができるかを、学生同士で話し合っていきたいと思います。」

高橋さん:「この2年間で復興住宅のあり方について、東北地方の地形模型を使いながら研究していこうと思っています。」

なお、本奨学金制度による調査・研究成果は、来年の教育シンポジウム2012にて発表されることも、同時にアナウンスされました。

Vectorworksシミュレーションの世界

エーアンドエー株式会社 研究開発室 室長 木村謙

午後最初の講演には、弊社研究開発室室長の木村が「Vectorworksシミュレーションの世界」と題して話しをしました。
木村は「設計自体がシミュレーションだと考えています。何かを作ろうという時に、ここを四角にしようか、丸にしようかなと考えること自体が、立派なシミュレーションなのです。そして、このシミュレーションを繰り返すことで、設計の質を高めていく、デザイナーの武器だろうと思っています。」とシミュレーションの重要性を唱えるとともに、照明や日影/逆日影の事例、建物の表面温度をシミュレーションするサーモレンダー、" 人の流れ "や" 群集の動き "をシミュレーションするSimTreadを解説しました。

SimTreadについて「こちらは、朝の講演で伊東先生が触れられていましたが、台湾の高雄にあるスタジアムです。竹中工務店さんと共同で避難シミュレーションを行いました。」と、実際のスタジアムのシミュレーション動画をスクリーンに映し出しながら、各階の観客がどう避難し、どこにストレスが発生するかなど、詳しく説明しました。

続いて、これまで建物でのシミュレーションを前提にしていたSimTreadの利用範囲を広げた活用方法として、震災によって津波が発生した岩手県大槌町を含む周囲十数キロの地形をベースに、高台への避難にどのくらいの時間がかかるか、逃げられない場所にはどういった都市計画を行えばいいのか等を想定したシミュレーションを紹介し、「まだ、はじめたばかりのものですが、こういったものが震災の復興計画に寄与してくれればと思って、共同で行っている竹中工務店さんと進めています。」と報告しました。

この他、アルゴリズミックデザイン研究の一環として作られたVectorworksプラグインプログラム「Growing Object」や、Vectorworksを独自にカスタマイズするためのプログラミング言語「VectorScript」を紹介。VectorScriptについて木村は、「よくカスタマイズの話しをする中で、" じゃあ、自分たちはどうやればいいの? "といった声を頂くようになりました。そこで" VS手習い帖 "というホームページを立ち上げ、VectorScriptのはじめ方をご紹介しています。」とVectorworksでのプログラム開発の支援環境や、インターネットを使ったリアルタイムのVectorScript講座にも触れ、「最近も、AASTという学生向けのワークショップで、学生向けにこのWebセミナーを行いました。興味ある方は是非ご参加いただければと思っています。」と会場の皆さんに参加を呼びかけました。

最後に「Vectorworksでのシミュレーションは非常に簡単です。皆さんにも是非チャレンジしていただきたいと思いますし、また、興味のある方は私どもに声をかけていただければ、力になります。」と学校などでの更なるVectorworks活用を訴え、講演を終了しました。

3D-CAD対応熱環境シミュレータを用いた建築環境設計教育

金沢工業大学 環境・建築学部 講師 円井 基史 氏

環境教育の講演として、金沢工業大学講師の円井氏が登壇しました。

建築分野における環境設計の重要性について、円井氏は「近年、建築分野でもかなり環境問題に対する役割というものは大きくなっています。私が専門としているのはヒートアイランドですが、ヒートアイランドの形成要因というのは、都市の人工廃熱と、森林や畑や田んぼなどがアスファルトなどによって覆われた人工被覆になってしまったことによるものです。現代のヒートアイランドは、まさに建築や都市計画の責任でもあると言えます。」と環境分野に精通する人材育成の重要性を唱えました。

次に、実際の授業や研究の中でヒートアイランドを指標するためにサーモレンダーを利用していることについて「東京工業大学の梅干野先生をはじめ、多くの先生方や、日建設計さんなどの長年の研究成果を基に、エーアンドエーさんと一緒に製品化されたソフトウエアです。私も東京工業大学在学中にこの研究に携わり、サーモレンダーの開発にもお手伝いさせていただいていました。」と紹介し、様々な画像や写真を見せながら、" 熱の見える化 "を細かに解説しました。

サーモレンダーの大きな特徴として「これまで、このような複雑な計算には、スーパーコンピュータなどの高性能な機器が必要でしたが、サーモレンダーでは普通のパソコンで計算が行えます。ノートパソコンでも計算が可能です。」と熱環境の可視化がより身近にある点を挙げ、「Vectorworksの上で動作しますので、例えば、アニメーションにしてあらゆる角度から熱の状況を見ることや、鳥が飛んでいるように見るなど、現実世界ではできないことも可能です。」と3D-CAD上で可視化できる大きなメリットを会場の皆さんに伝えました。

解説は具体的な建物や地表の表面温度の計算方法など詳しい内容にまで至り、例えば、樹木の下の表面温度を計算する原理として「樹木には、樹木の種類によって日射透過率というものがあります。これを踏まえて、太陽からの熱を計算することで、樹木の隅の方はよく日射が通りますが、中央部分は通りづらくなるといった結果を出すことができます。」と、仮想だけでなく現実世界に即した考え方を用いていることを強調しました。

次に、具体的な建築環境設計のパイロット授業を進める上で押さえておきたい点について「1つ目は、デザインと関係する熱環境の基礎的な知識を学ばせること、2つ目は、デザインの違いがどの程度、熱環境に影響するのかを学ぶこと、3つ目は、いかに熱環境を考えてデザインするかを学ぶことの3つが大事だと思ってカリキュラムを組んでいます。」、「つまり、環境に対する知識を与える教育、それを体験するような演習、実際に設計に結び付ける取り組みがポイントです。」と説明し、具体的な15週間のカリキュラムを紹介しました。

講演のまとめとして、円井氏は「環境設計教育については、数値ではなくビジュアル化をすることが大事だと思っています。それによって環境に対する興味や理解が深まります。」、「環境を感じる、体感、実感することで、環境を踏まえられる人材(建築家)を育てていくことが大事だと感じております。」と締めくくり、講演を終了しました。

世界につながる建築教育とVectorworksによるデザイン環境の可能性

明治大学 理工学部 建築学科 准教授 田中 友章 氏

建築教育の講演には、総合的な力をもった人材育成に注力されている明治大学理工学部、建築学科の田中氏が登壇しました。

田中氏は、建築界を取り巻く国際化の動向について「UIAという組織があり、3年に1度、世界大会が開催されます。丁度今年は東京で9月に開催されます。UIAは国際建築家連合と呼ばれ、124の国や地域の建築家関連団体で構成され、世界の建築界をリードしている組織とも言えるのです。」と建築界の国際化を語る上で重要なファクターとなってきたUIAについて説明し、「1999年に北京で行われたUIAの大会で、2つの重要な文書が採択されています。その一つが" 建築家資格の推奨基準 "、そしてもう一つが" 建築家になるためにどういった教育がなされるべきかという建築教育憲章 "です。」と建築実務者だけでなく、建築家を育てる教育についても世界的な指針が示されていることを紹介しました。

この中で建築家育成教育の重要ポイントは、「5年間以上の全日制の教育を行うことと、国ごとにその教育プログラムが認証機関の認証を受けていることです。」と説明、これを受けて日本では、大学4年間+大学院2年で対応することや、既に2つの大学の教育プログラムが認証を受けるかたちで運用がスタートしている例を挙げ、このような建築教育の国際化の潮流の中で、ヨーロッパ、アメリカ、アジアそれぞれの地域で教育システムが変化してきたことから「こういう世界の動きの中で、日本だけが、何もしないということにはいかない。」と建築家育成教育の国際化についての重要性を説明しました。

明治大学内での取り組みとして、これらの世界的な動向を踏まえ、これに沿った建築教育や海外大学生との共同スタジオの実践、成果物のプレゼンテーションやディスカッションなど、よりUIAの基準に沿ったカリキュラムの準備を行っている取り組みについて「学部の中には定員数だけでも140名ほどの学生がいます。このような多人数の学生であっても、一人ひとりをしっかりと質的保証のできる建築教育プログラムの中に入れてあげられるよう、様々な知恵を絞って進めているところです。」と、具体的取り組みを写真を交えて紹介しました。

また、教育環境の整備では、「2Dのみならず、3Dが重要になってきます。現在、川崎市で川崎市で『エコシティたかつ』という次代のエコロジカルな都市づくりのお手伝いを行っていますが、その地域を3Dモデルで立体的に表現するんです。そうすると、その地域がどういった場所なのか、すぐに理解でき、どこにどのような課題や可能性があるのかが一目瞭然です。」と、3D地形モデルの写真を写し、空間把握としても3Dが力を発揮することを解説。

さらに、「こういった取組みを進めてきた中で、あの震災が起こりました。今、『模型エイド』に参加して地形模型づくりの協力を行っています。これからの復興にあたっては、2Dの地図で都市計画をたてるより、立体的な模型があることによって、住民との合意を進めながら、復興に向けた計画の検討がしやすくなります。」と述べました。そして、3Dの「Virtual Model」から模型を制作し「Physical Model」として組み立てるという手法を、CADを取り巻く技法の発展プロセスを整理して示し、3次元リテラシーを修得する上での教育的効果が高いこと、さらに、模型を使ってより効果的なコミュニケーションを図ることができることなど、実践的手法と今後の可能性が紹介されました。

このような地形模型は既に他の大学と共同で制作し、7月に直接震災地域にお届けしたことも合わせて報告されました。

最後に田中氏は、「私たちはこの震災対応のために活動してきた訳ではありませんが、2次元、3次元を繋ぐことを進めてきたことで、こういった協力へと繋がったことはとても意義がと思っています。」と、3D教育環境の推進が大きい意味を持つものであった点を語り、講演を終えました。

パネルディスカッション

美術大学でのデザイン教育におけるCAD教育の位置づけと課題

[ パネリスト ]

 女子美術大学 芸術学部 デザイン・工芸学科 環境デザイン専攻 教授 飯村 和道 氏
 多摩美術大学 美術学部 環境デザイン学科 教授 田淵 諭 氏
 東京造形大学 造形学部 デザイン学科 室内建築専攻領域 准教授 上田 知正 氏
 日本大学 藝術学部 デザイン学科 教授 桑原 淳司 氏
 武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科 教授 寺原 芳彦 氏

[ コーディネータ]

 東京都市大学 都市生活学部 准教授 河村 容治 氏

シンポジウム最後のデザイン教育では、5美大の教授陣によるパネルディスカッションが行われ、「デザイン教育におけるCAD教育の位置づけと課題」と題してCAD教育についての討議が行われました。まず、コーディネータの河村氏(東京都市大学)の進行で、各パネリストの紹介とそれぞれの大学でのデザイン教育の取り組みが発表されました。

コーディネータ
東京都市大学 准教授 河村 容治 氏

女子美術大学 芸術学部
教授 飯村 和道 氏

東京造形大学 造形学部
准教授 上田 知正 氏

飯村氏(女子美術大学 芸術学部)

「私どもでは環境デザインを教えております。その中には6つのカテゴリーがあります。」と、建築意匠/インテリアデザイン/照明デザイン/ウインドウディスプレイデザイン/パブリックデザイン/ランドスケープデザインのそれぞれの教育ジャンルを解説し、基礎的な教育から、年を追うごとにより専門性の高い教育を実施されていることが紹介されました。CAD教育については、2年生から実施しており、3、4年生になると3Dプレゼンやアニメーション制作なども含まれ、手描きのデザイン教育とデジタルデザイン教育とがオーバーラップしながら進めている、また、専門的な知識教育や模型制作、プレゼンテーションボード制作を通して、より総合的なデザイン能力を持つ人材の育成に務められていることが紹介されました。

上田氏(東京造形大学 造形学部)

室内建築専攻領域について「字面からは、室内空間を建築するという印象を持たれるかもしれませんが、実際には、" 家具 + インテリア(商環境) + 建築 "の研究指標3つが一体となった専攻ということです。」と、建築製図授業について、1年時に手描き製図、2年時からCAD授業を学んでいくことが説明され、様々なデザイン教育に取り組んでいる中から、産学協同プロジェクト(芝浦工業大学と森美術館から依頼を受けた展示模型の制作プロジェクト)が紹介されました。「やはりスケール感という点で、学生はなかなか原寸の世界の外に出ることが難しいようです。この状況をなんとかしなければならないと、私ども室内建築を担当する教員は考えており、来年には新たな展開をと模索しています。」と現在の課題についても語りました。

多摩美術大学 美術学部
教授 田淵 諭 氏

日本大学 藝術学部
教授 桑原 淳司 氏

武蔵野美術大学 造形学部
教授 寺原 芳彦 氏

田淵氏(多摩美術大学 美術学部)

環境デザイン学科について「インテリア/ランドスケープ/建築の3つコースがあります。それぞれが独自性を持ちつつ、横断的に環境デザインとして学んでほしいいくつかのキーワードがあり、これらを身につける5つの力(基礎力/知識の吸収/表現力/実践/感性/体験)を主眼におき教育を行っています。」と説明し、年間の半分を占めるという実技課題について「実技課題をバックアップする形で、6つの演習科目(CAD&CG/設計製図演習/基礎造形/色のデザイン/素材演習/光のデザイン)が構成されています。」と、模型やプレゼンボード、ディスカッション風景などの写真を使い、様々な素材を利用した造形力、手描きによる徹底した基礎製図力、CADやCG/グラフィックスソフトによる2D/3Dの空間表現力まで習得する総合的な教育が行われていることが紹介されました。

桑原氏(日本大学 藝術学部)

藝術学部 デザイン学科の建築デザインを教える中で、 " 体感できる教育 "をテーマに、原寸制作とCAD利用に重点をおいて教育を行っていることを解説しました。まず、利休の茶室を段ボールを使って模型を制作し、原寸大の木製パネルユニットを作り空間把握を体感する原寸教育では、茶室内に畳を入れ、ろうそくの灯りで実際の明るさから光と影(陰)の関係、空間の質と量の関係などを検討、実体験していく体感教育を紹介。CADやCGについては「自分が創造したものを正確に伝える手段として、とても重要に感じています。」と、スケッチや模型制作と併用して、図面表現やCG表現を行っていること、また、実際の授業では、さらに居住空間を自由にデザインする演習の中で、学生が想定した樹木の大きさが小さすぎて、桑原氏が指導した実例や、CGによってスケール感の把握を行っている事例が紹介されました。

寺原氏(武蔵野美術大学 造形学部)

寺原氏は、担当されるインテリアデザインコースの教育理念について2つを紹介。「一つは" 空間領域とプロダクト領域のクロスオーバー "です。空間、プロダクトデザインの両方を学びます。お互いを分断する事なく、それぞれの要素を相容れながら、相乗効果を生むように進めています。もう一つは" ファウンデーションの強化とCAD化の推進 "です。基礎的な体力(デッサン力/スケッチ力/モノを見る力/観察力)の強化を行っており、その中でCAD化を推進しています。」と、基礎力と総合力の両方を持つ人材の育成に注力されていることを解説しました。CADやCG教育の中では、特に光の表現力が重要と語り「ソフト自体にも、学生達にも、より自然な光の表現力が必要だと考えています。」と、いくつもの学生作品を写しながら、表現力や想像力の向上の必要性を訴えました。

それぞれの大学のデザイン教育解説を経て、コーディネータの河村氏は「" 丁寧な教育が行われていること "、" 教育コンセプトがしっかりとしていること "、" スケール感を大事にした学習に重点をおいていること "を感じました。」と話し、今後の3D-CADを使ったデザイン教育の重要性について、パネリストの皆さんに問いかけました。

各パネリストからは、空間を把握する能力をのばす上でもCADは適している点や、人が考えているものを表現できる手法としてもCADが重要である点、また、3Dによって感性を磨き、創造力と想像力が養われることによって、新たなデザインや新たな力を持った人材の育成にも寄与できるなどの意見があり、共通して3D-CADを使った教育が不可欠であることが確認されました。

最後に河村氏は、「私たちはCADが入ってきた時代、ドラフターをそのままCADに置き換えることをしました。そうではなく、最初から3D世界で考えていくことが重要であり、そういった教育を目指していくことは教育界のテーマではないかと思います。」と締め、パネルディスカッションを終了しました。

展示コーナー

OASIS加盟校学生作品 / エーアンドエー製品 / Vectorworks関連書籍

受付横の展示コーナーには、OASIS加盟校の学生作品展示をメインに、Vectorworks関連書籍、エーアンドエー製品展示/相談会が行われ、作品の前で足を止める姿や、写真を撮る参加者で溢れていました。

学生作品の中には「せんだいデザインリーグ」で日本三(三位)を受賞した明治大学 中川沙織さんの作品「思考回路factory」も特別に展示され、大きな模型とパネルに足を止める参加者は中川さんに直接質問をしていました。
エーアンドエー製品展示には、Vectorworks2011をはじめ、サーモレンダーやSimTreadなど関連製品も展示され、スタッフに質問をする参加者も多く見られました。

弊社では、今後ともOASISをはじめ、様々な活動を通して、デザイン教育の現場を支援、学校間の情報交流を支援して参ります。たくさんのご参加、ありがとうございました。

(2011年8月)

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