ユーザ事例 & スペシャルレポート

CADは建築の「何」と向かい合うのか。台湾の二つの国際コンペで一等を獲得。建築と地形、建築と地域文化との関係を読み解き、東京では日本橋室町再開発のマスターアーキテクトを務める團紀彦氏に話をうかがう。


Vectorworks Design Pick Up 04

CADによって変わるものと変わらないもの。

新しい有益な技術の登場は、常に人間社会に進化をもたらしてきました。しかしこうした新技術は、未来へ最短距離を直線的に推し進めるのではなく、過去と未来の間を行き来しながら、時には遠回りして、次の時代を迎えてきたのだと思います。

CADの登場が建築設計のスタイルを大きく変えたのは間違いありません。「日月潭向山地区ビジターセンター」も、CADなしには実現できなかったと思う。コンピュータによる解析は、設計図書を手描きしていた時代には困難だった複雑な建築造形を可能にしました。

メディアもそうした建築作品を華々しく採り上げ、多くの方は建築は進化したと感じたかもしれない。しかし私には、むしろ、CADの出現によって変わるところと、建築として根本的に変わらないところが明確になったように思えるのです。新しいテクノロジーと現状との兼ね合いを、個々人がどう捉えるか。あるいはどうバランスさせるか。その視点が求められているのではないでしょうか。

ある時期、建築を学ぶ学生で、ドローイングを描けない人が目立つようになり、それは製図板がなくなった世代の大きな変化でした。手描きの線は、暫定的な線なのか、確信がある線なのか、自信があるか否か。その時の自分自身の痕跡でもあります。それがCADの単純なラインになると、設計している自分の状況が見えづらくなる危惧を感じていました。しかし最近の学生は、再びドローイングの大切さに気づき始めた印象があります。こうしたバランスの中で、私たちは新しい時代を迎えられるのでしょう。

コンピュータが当たり前になった世代では、建築の「機能」は「プログラム」という言葉に置き換えて語られることが増えています。プログラムという言葉には、一枚の薄い壁で二つの自律的な機能(プログラム)、管理区分に仕切ることができるイメージが私にはありました。しかし実際にはボーダーはそんなに単純なものではなく、例えば現実の都市や国家では、ボーダーで二者を切り離すことで見えなくなる文化や歴史がある。だから私はボーダーに興味があるのです。

境界線上ではお互いの共通言語を見出さなくては対話できない。一本の道路を挟んで向かい合う街並みは、その境界線上で絶縁されるのではなく、人々の営みや文化、歴史や、それに導かれた意匠や建築原語と向かい合うことが求められます。

CADが画面上に描かれる一本のラインは、単純に二つの「プログラム」を分けるのではなく、そのボーダー上で起こる問題や対話、調和への想像力を喚起するものであってほしいと思います。

 

(新建築:2011年3月号掲載)

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