ユーザ事例 & スペシャルレポート

日本文理大学は、建学の精神である「産学一致」に、「人間力の育成」「社会・地域貢献」を加えた3つの教育理念をもとに、人間力と専門性を兼ね備え、夢と世界に挑戦できる人材育成に取り組んでいます。今回、文部科学省の「大学生の就業力育成支援事業」に選定された「人間力育成プログラムによる就業力の育成~職業的自立のための実践型教育の拡充とポートフォリオの導入」の一環として、工学部 建築学科1年生のCAD授業にて弊社研究開発部 研究開発室 室長 木村謙(きむら たけし)が講師を務めるということで訪問しました。講演会の他、インテリアデザインコース3年生の「設計製図4(選択)」の講評会にも参加させていただきました。


~1、2限目 「 設計製図4(選択)」 講評会 [インテリアデザインコース3年生] ~

-全15回のうち14回は「スカイプ」を活用した遠隔講義 -

昨年10月からスタートしたインテリアデザインコースの設計製図4は近藤正一准教授とイタリア在住のイタリア政府公認建築士、安田光男客員教授が担当しています。この授業ではインターネット電話「スカイプ」を活用し、客員教授の安田先生はイタリアに居ながら遠隔講義を行う新しい取り組みをしています。全15回で「店舗デザイン」をテーマに、第1課題は「店舗の空間設計」、第2課題は「インテリアエレメントのデザイン」です。最後の授業となる第2課題の講評会は安田先生と学生のみなさんが初めて直接会うということでした。

-課題はイタリアのショップデザイン -

課題は、イタリアの世界的に有名な生活雑貨の企業「ROSS(I ロッシ)」のCEOロッシ氏からの依頼でミラノのドゥオーモ近くにあるデパート内のショップの店舗デザインを考えるというものです。全15回で第1課題はショップの空間デザイン、第2課題はそのショップ空間にふさわしいディスプレイシステムや照明などインテリアエレメントのデザインです。そのデザインは世界中の直営ショップで採用されるため、企業のブランド戦略を考慮したトータルデザインが求められます。

-独創的なインテリアエレメントのデザイン全6作品-

「ONDA」イタリア語で「波」をイメージした作品や、ディスプレイシステムが商品となる家具と考え、その組み合わせで空間を構成した作品、エコをテーマに植物の細胞をイメージし六角形をモチーフとした作品などデザインと表現に個性が感じられました。また、小さな箱をちりばめたような商品棚に照明をあて、影でも商品が感じられる「ShadowPlay(影遊び)」と題した作品や、ディテールまで丁寧にデザインされた革張りの机など、作品にこだわりが感じられました。暖かいディスプレイを主題にした作品は、商品と空間に降り注ぐ木もれ日がイメージできる作品に仕上がっていました。第1課題からトータルにデザインすることが求められた第2課題の発表を終えた学生全員に、「第1課題から素晴らしく成長しましたね。」という安田先生のコメントが印象的でした。並べられた第1課題以上に独創性が感じられる全6作品でした。

-安田光男先生からの総評-

「建築家バックミンスター・フラーは、『三角形を書くと、その領域は内側だけでなく無意識に外側の領域も創り出してしまう。』と言っています。要するに、つくった家具はひとつに見えても必ず地球や世界に影響を与えるということです。空間も色んな人が集まってできます。何をつくっても必ず世界と関係していることを忘れないでください。また、トータルデザインは、そこに関わるすべてのものに調和をもたらすものです。例えば家具が空間に規定されすぎると、お互いの自由度がなくなり苦しくなると思います。その苦しいエネルギーが周囲に影響を与えてしまうことが無いよう、幸せな状況でデザインに取り組んで行くことが大切だと感じます。家具などをつくったら必ず空間に戻し、空間を考えて動かしたらまた戻して、さらに全体の調和を考えることができるようになれば、私の中でみなさんは卒業です。」と、総評が述べられました。一人ひとりの個性を大切にしながら伸ばしていこうという先生方の熱意が感じられ、8時間の時差を超えて行われた内容の濃い講義であったことが伝わってくる講評会でした。

~3限目 特別講演会「Vectorworks シミュレーション」~

講師:エーアンドエー株式会社 研究開発部 研究開発室 室長 木村 謙

「タイトルにあるシミュレーションとは試行錯誤することで、設計はシミュレーションです。そして、CADは「Computer Aided Design」の略で、図面を描くだけでなく設計をサポートするものです。設計は、ひとつのアイデアで終わらず、試行錯誤することで質が高まると思いますし、シミュレーションを積極的に取り入れることは、「デザイナーの武器」になると考えています。開発部では、弊社のスローガンである“いいものは使おう、無いものは創ろう”の“無いものは創ろう”の部分でVectorworksを使っている方々に役立つ道具をつくっています。」と説明し、Vectorworksのプラグインソフトである「SHADOW」「VOLUME」「天空定規」や、環境負荷の少ない建物を設計するためのソフト「サーモレンダー」の特徴を紹介しました。

さらに、避難の様子がシミュレーションできる歩行者シミュレーションソフト「SimTread」については、具体的にシミュレーションした渋谷の交差点、デパートの初売り、スタジアムの事例を紹介し、「今までは避難の専門家が計算をしていましたが、“SimTread”は設計段階で検討できるようにするため、Vectorworksで使えます。避難の専門家でない人に説明する際も、人がどんな動きをするのか動画で再現できるので非常に有効です。」と説明し、東京消防庁の避難上安全な建物を認定する「優マーク制度」の申請に際し利用可能な「東京消防庁認定避難計算算定方法」として認定されたことも解説しました。

次に、楽しく設計する試みとして、プラグイン「GrowingObject」を使ったワークショップの例を紹介しました。「かたちを育てる(育形)という切り口では、植物のようにかたちが育つイメージで、VectorScriptを使ったプログラムで自動的にかたちが生成できます。設計する人が新しい刺激を受けると同時に、想像力を豊かにするために効果的ではないかと考えています。さらに、自分の頭の中の限界に縛られることなく、新しい形ができることが、もうひとつのCADの可能性だと思います。」と話し、デザインとスクリプティングの重要性について解説し、アルゴリズミックデザインの可能性と取り組みにも触れました。

最後に、「ぜひ大学にいる間に、今取り組んでいることで、これから10年先もやっていられそうなことを先生方から学び取って、学生生活を送って欲しいと思います。」と30年前に大学の恩師の先生がつくったフィルムを紹介し、それをきっかけに約10年かけて歩行者シミュレーションソフトが開発完成したことを解説し講演を終えました。

講演の後には、学生のみなさんだけでなく、聴講された先生方からも「Vectorworksシミュレーション」に関する内容も含め、さまざまな質問を受けました。学生からは「これから開発予定のソフトを教えてください。」という質問もあり、それぞれの視点で興味を持っていただけたことが感じられ、私たちにとっても貴重な体験となりました。

日本文理大学
工学部 建築学科 教授
菅 雅幸 氏

- 建築学科 教授 菅雅幸先生よりひとこと -

建築学科は建築、インテリアデザイン、環境・地域創生の3つのコースに3年生で分かれます。どんな分野に学生が進むか分からない1、2年の段階では、教えることも多岐にわたり、学生の適正をどの時点で見抜いて判断していくか難しい面もあります。いかに学生に満足度をあたえながら、細かく指導してあげられるかが課題です。Vectorworksを本格的に使いだすのは3年生ですが、授業は現在1年生の前期後期だけです。ですから、色々やりたいことがありますが、授業では基本的な2D、3Dの操作にとどまっています。インターンシップや外部の講師の授業を通じてCADにもどんどん興味を持って、学生が意欲的に学ぶことでさまざまなことを身につけていってくれることに期待しています。


ー取材を終えてー

1年生のCAD授業での特別講演でしたが、1年生から4年生まで参加いただき、特にSimTreadのシミュレーション事例を真剣に見ている学生の姿が印象的でした。また講演の後にはCADで3Dにするのは楽しいという声も聞け、今後も興味を持って楽しみながらVectorworksとつき合っていって欲しいと感じる取材となりました。

エーアンドエー株式会社 広報宣伝部 竹内 真紀子

【取材協力】

日本文理大学 http://www.nbu.ac.jp/AR/

工学部 建築学科 教授 菅 雅幸 氏

(取材:2011年2月)

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